【発売55周年】ザ・ローリング・ストーンズの過小評価されている名盤

1967年は、ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)にとって『Between The Buttons』のリリースに始まり、『Their Satanic Majesties Request』のスタイルの転換で幕を閉じる、非常に成功した年だった。その始まりの年、デッカからリリースされた『Between The Buttons』は、1967年1月20日にUKで先行発売され、その後2月11日にアメリカ盤が発売された。

アルバム・タイトルの由来とレコーディング

『Between The Buttons』というアルバムのタイトルは、プロデューサーのアンドリュー・ルーグ・オールダムが、アートワーク用のスケッチをしていたドラマーのチャーリー・ワッツに、ふと言った言葉から生まれたものだ。チャーリー・ワッツがアルバム・タイトルを尋ねたところ、オルダムは“まだ決まっていない”という意味で“Between The Buttons”という比喩表現を使ったのだが、チャーリーはそれがタイトルだと受け取ったのだ。チャーリーは1967年2月4日にこうMelody Makerに語っている。

「アンドリューにLP用の絵を描くように言われ、タイトルは“Between the buttons”だと言われたので、そのまま書いたんだよ」

チャーリーが書いたLPの裏に掲載された絵

このアルバムの一部は、1966年8月にハリウッドのRCAスタジオでデイヴィッド・ハッシンジャーとともに録音したもので、同年11月にロンドンに新しくオープンしたオリンピック・サウンド・スタジオで完成した。アルバムの楽曲の中では、アメリカで録音を開始して、ロンドンで完成させた曲もある。レコーディングについてギターのキース・リチャーズはこう語る。

「『Between The Buttons』は、俺たちが一息ついて、ツアーなどの狂気から少し距離を置いた最初の作品だった。だから、ある意味、僕らにとってはちょっとした新しい始まりのように感じたんだ……それに、みんな酔っぱらってたし」

『Between The Buttons』UKバージョン

『Between the Buttons』は、1966年4月の『Aftermath』以来となるザ・ローリング・ストーンズのアルバムで、UKで5枚目のスタジオ・アルバムとなった。アルバムには強力な曲が収録されているにも関わらず、ストーンズのレコードの中では過小評価されている作品のひとつだ。

全曲でリードボーカルをとり、タンバリンやハーモニカも演奏するミック・ジャガーを中心に、リチャーズ、ブライアン・ジョーンズ、ビル・ワイマン、チャーリー・ワッツのバンドメンバーに加え、何人かのゲスト・ミュージシャンが参加している。

イアン・スチュワートがピアノとオルガンを、ニッキー・ホプキンスがピアノを弾き、ジャック・ニッチェも参加。収録曲の「Connection」は、アルバム発売の翌週にロンドン・パラディアム公演で演奏され、2008年のマーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー映画『シャイン・ア・ライト』にも登場している楽曲だ。

1966年後半には、レコーディング技術の発展により大きな実験が可能になった時代だ。『Between The Buttons』の全曲にミックとキースのクレジットが入っているが、このアルバムは、音楽や曲作りのスタイルがそれまでと大きく異なっている。「Yesterday’s Papers」は、ミック・ジャガーが単独で作曲した最初の曲として知られており、ハープシコードでニッチェが参加している。また、「Something Happened to Me Yesterday」では、ブライアン・ジョーンズがサックス、トロンボーン、クラリネットを披露している。

UK版のアルバムには2曲が追加収録されている。1曲目は、キースとミックが作曲した優しいワルツ「Back Street Girl」だ。1968年にローリング・ストーン誌に掲載されたミックのインタビューでは、このアルバムの中で一番好きな曲だと語っている曲だ。

ブライアン・ジョーンズはこの曲で、ジャズへの傾倒を見せている。ブライアンはジャズ・サックス奏者のジュリアン・”キャノンボール”・アダレイを敬愛し、彼の名前のジュリアンを自身の息子につけたほどだ。ブライアンは、ビブラフォンの演奏にミルト・ジャクソンの影響を反映。アコーディオンの演奏は、ニック・デ・カロが担当した。

このアルバムのUK盤限定曲の2曲目は、ボー・ディドリー風のビートをベースにした「Please Go Home」だ。この曲はアメリカではベスト盤『Flowers』に収録された。

『Between The Buttons』USバージョン

『Between The Buttons』のアメリカ盤は、バンドにとってアメリカでは7枚目のスタジオ作品であり、新しいオープニング曲を選ぶことで、独自の個性を打ち出している。その1曲目とは、ミックとキースが共作し、デビッド・ボウイのお気に入りとなった「Let’s Spend the Night Together」だ。この曲は、1967年1月にイギリスで両A面シングルとして発売され、「Ruby Tuesday」と対になっていたが、この曲もアメリカ盤のトラックリストに加えられた。

『Between The Buttons』のUK盤とUS盤には、「Yesterday’s Papers」「Connection」「She Smiled Sweetly」「Cool, Calm And Collected」「My Obsession」「All Sold Out」「Who’s Been Sleeping Here」「Complicated」「Miss Amanda Jones」「Something Happened To Me Yesterday」という曲が共通して収録されている。

その評判とアルバムのジャケット

1967年2月、米ビルボード誌はこのUS盤のアルバムを好意的に次のようにレビューした。

「ストーンズのLPはどれもチャートの話題をさらってきたが、この最新作も例外ではないだろう。彼らのハードドライブなビートは全編に渡って貫かれ、シングルヒットの“Ruby Tuesday”と“Let’s Spend the Night Together”が収録されているので、即効性のあるセールス・アピールにもなっている。“Miss Amanda Jones”と“Cool, Calm And Collected”は、この勝利のパッケージの中でも傑出している」

『Between The Buttons』はチャートでも成功を残し、全米アルバムチャートで、全英より1ランク上の2位を記録。アルバムのアートワークの裏側には、チャーリー・ワッツによる漫画や絵が使用されており、ジャケットの表には、1966年11月中旬、オリンピック・サウンド・スタジオでの徹夜のレコーディングの後、写真家ゲレッド・マンコヴィッツが撮影した写真が使用されている。

バンドは夜明け前にロンドン北部のプリムローズ・ヒル公園にロールスロイスで到着。ゲレッドは、ワセリンをレンズに塗ってわざと白飛びさせたこの写真についてこう語っている。

「当時の幽玄で麻薬的な雰囲気を捉えている。ロンドンの有名なマキシーというヒッピーの原型のような人がいて、彼は一人で立ってフルートを吹いていた。ミックが彼のところに行ってマリファナを勧めると、彼は『ああ、朝食だ!』とだけ答えたんだ」

Written By Richard Havers

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ザ・ローリング・ストーンズ『Between The Buttons』
1967年1月20日発売

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