懸案解決に向け一歩を踏み出す1年に 22年のモータースポーツ界に期待すること

2年ぶりに有観客で開催された「東京オートサロン」。入場人数が制限されていたが、多くの人が訪れた(C)Koji TAGUCHI

 2022年となった。十干十二支の世界においては「壬寅(みずのえとら)」に当たり、「誕生」や「新しい成長」などが期待できる年になるという。今年こそ新型コロナウイルスを乗り越え、新たな成長の年としたいものだ。

 さて、ニュース番組で興味深いことが取り上げられていた。さまざまな職業を体験できる子ども向けテーマパークとして人気の「キッザニア東京」が、大人だけを対象とした職業体験イベントを行ったところ、参加者の約半数を大学生が占めたというのだ。

 学生が就活先を決めるための手段としてはインターンシップを代表格として数多くあるが、約80の職種から選択できるキッザニアというフォーマットは子供だけではなく、未来の選択を目前にした学生にとっても魅力的に映るのだろう。イベントを企画した関係者も「職業観を養うヒントとなったり、有意義な体験になったらうれしい」とコメントしていた。

 自動車の世界では1月14日から16日にかけて、千葉市の幕張メッセでカスタムカーの祭典「東京オートサロン」が開かれた。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、オンラインで無料参加できる「バーチャルオートサロン」のみの開催となった。そのため、観客を入れての開催は2年ぶりとなった。収容定員の50%という規制はあったものの、3日間で13万人近い入場者数を記録した。

 今年の東京オートサロンでは、ライフスタイルを訴求する展示が目立った。もちろん、主役はカスタムカーやスーパーカーの展示なのだが、キャンプを楽しめる装備が施された車やスポーツタイプ多目的車(SUV)の展示が確実に増えているのだ。コロナ禍で高まったアウトドア人気が自動車にも拡大していることを実感させられた。

 そうした展示に押されたことに加え、ドライバーたちのトークショーなど人気イベントが感染対策で中止となったこともあって、モータースポーツ関連の展示は以前ほど目立っておらず、寂しい思いをした。

そんな中、昨年のルマン24時間で初優勝した小林可夢偉が発起人となり、モータースポーツの未来を考える新たな試みがあった。それが東京オートサロンに合わせてトヨタがオンラインで開催した「レーシングドライバーによるモータースポーツ未来会議」だ。

 未来会議はオートサロン開催中の毎日行われた。その合計時間は7時間(14日に1時間、15日と16日はそれぞれ3時間)に及んだ。未来会議ではYouTubeや会員制交流サイト(SNS)をフルに活用。投稿などを通じて、ファンの「生の声」を拾う形で、モータースポーツを盛り上げるためにできるあらゆる方策について、熱い議論が交わされた。

 初の試みということもあったのだろう。ドライバー間の温度差を感じるなど、まだまだ手探りの部分も多かったが、このような試みを継続することで良いアイデアが生まれる可能性は十分に感じられた。

 実のところ、女性と子供をサーキットに足を向けされるかはモータースポーツ界にとって長きにわたって大きな問題であり続けている。今回の未来会議では出なかったが、筆者個人は冒頭で紹介したキッザニアの試みを取り込むべきではないかと考えている。

 もちろん、全く同じことをするのではない。女性と子供を対象に、ドライバーやメカニック、エンジニア、オフィシャル、ドクター、ケータリング、プレス…といったモータースポーツにかかわる職業体験を出来るエリアを作る。できれば、室内が望ましい。サーキットという場所は「暑い」か「寒い」しかない。ここが女性などを遠ざける一因になっていると感じるからだ。

 ここで女性と子供が職業体験をすることで、サーキットやラリー会場などへの印象が大きく変わるかもしれない。現在も各サーキットが子供向けのガレージツアーなどを実施しているが、参加できるのは事前抽せんに当たった20人から30人程度。これでは少なすぎる。早急な改善が必要だ。

 まずは、気軽に参加できるようにしなければならない。次に、参加した多くの人が楽しんでもらえるよう内容を工夫する。そのことで、良い思い出を持って、サーキットを後にしてもらう。「良い思い出を持って」もらうことが重要になる。

 過去にも少なくないドライバーが「どうしたらもっと多くの人が気軽に来てもらえるだろう」と考え、各人の構想を表明したことはあった。だが、それらが改革のうねりを生み出すことはなかった。だが、2022年は「壬寅」の年だ。モータースポーツの裾野をさらに広げて、基盤を強固にするための多様なアイデアが芽吹き、実を結ぶ1年となったらうれしいものだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

© 一般社団法人共同通信社