イ・ジュンギの出世作から大ヒット作まで―20代に演じた韓国ドラマ代表作

「悪の花」で、複雑な内面をもつ難役を真に迫る演技で魅せた韓国俳優イ・ジュンギ。そこで、彼がこれまで演じてきた主なキャラクターを分析。俳優人生の集大成ともいえる「悪の花」のペク・ヒソン役に、いかにしてたどり着いたのか、入隊前の20代に演じた韓国ドラマの代表作をおさらいします。


魅惑の2番手! 見守り男子役で人気爆発

「マイガール」 2005年-2006年

連ドラ初主演作。「美男〈イケメン〉ですね」をはじめ2番手男子を魅力的に描く人気脚本家コンビ、ホン姉妹によるヒット作で、イ・ジュンギはまさにその“魅惑の2番手”役。主軸は、口達者な元気娘ユリン(扮イ・ダヘ)と高級ホテル御曹司ゴンチャン(扮イ・ドンウク)の恋模様だが、イ・ジュンギ演じるソ・ジョンウの見守り男子ぶりが素敵で、人気が爆発。

ユリンの秘密にいち早く気づき、密かに助けるスマートさあり。一見軽薄に見えるが、明るく楽しいノリで落ち込むユリンを笑わせたり、彼女がゴンチャンに想いを寄せていることに気づくと、すっと身を引き恋のサポートをしたりと、男と男の絆も、愛する人の幸せも守るスタイルで、見守り男子の理想形。軽やかさと切なさが同居したキャラクターになっており、若き日のジュンギの溌剌とした姿が拝める。

イメージ払拭に全魂をかけた“男ドラマ”作

「犬とオオカミの時間」 2007年

イ・ジュンギ=アクション、という印象を形作った作品。制作費7億を投じ、タイで撮影されたド派手なアクションや映画並みのスケールの映像が話題に。タイ式キックボクシングや激しい戦闘シーンで見せるジュンギの華麗なアクションも視聴者を釘付けにした。

『王の男』以降、“美しい男”のイメージにもがいていたジュンギが、イメージ払拭に全魂をかけた作品でもあり、本作でMBC演技大賞・演技賞を受賞。この評価と自信がこの後の彼の俳優人生の土台となり、本作以降、ロマンスより“男ドラマ”を請け負う比重が強まっていく。本作のキム・ジンミン監督とは、のちの「無法弁護士〜最高のパートナー〜」で再び縁を結ぶことに。

「犬とオオカミの時間」©MBC&iMBC All right reserved.

アクションはもちろん、本作をスリリングかつドラマチックにしているのが、ジュンギの一人4役演技。優秀な情報員スヒョンと、「ケイ」という名で犯罪組織に潜入するスヒョン、事故により記憶をなくしたケイ、さらに、記憶を取り戻し、ケイのふりをするスヒョン、という4つの顔に変化していく緊迫感にハラハラさせられっぱなし。

最初のスヒョン役では、物静かだが意思が強くストイックな姿を、ケイとしては、ムエタイ選手になりすまし、組織のボスの部下になっていくタフさと緊張感を、さらに、スヒョンの記憶をなくしたケイは、残忍な性質が表れるともに、仇であるはずのマオと親子のような絆を結んでいく。やがて、記憶を取り戻したスヒョンは、自身がケイだったときの残忍さに気づき、葛藤。マオとの非情な運命を迫真の演技で見せていく。マオとの最後の対峙、その真実を知った瞬間のスヒョンの嗚咽に、心震える!

トップスターへ上り詰めた孤高のヒーロー役

「イルジメ[一枝梅]」 2008年

イ・ジュンギを名実ともにトップスターにのし上げた大ヒット時代劇。歴史上の人物を描いてきたこれまでの時代劇とは一転、悲しい運命により記憶を失い、市井で育った若き主人公が庶民のヒーローとなっていく物語は、その後の史劇ドラマの可能性とエンターテイメント性を広げることになった。

元コソ泥のセドル(扮イ・ムンシク)とその妻タン(扮キム・ソンリョン)のもと、南門市場を庭として育った陽気な青年。遊んでばかりだが、頭の回転が早く、弁も立ち、友達思いで家族思い。実は、王族の息子で父が暗殺される現場を目撃したことから記憶喪失に。成長したある日、記憶を取り戻し、親の仇を探すべく、仮面をつけた義賊「イルジメ」となっていく。

「犬とオオカミの時間」に続き、本作でも一人二役に挑み、その多重構造のキャラクター像で視聴者の心を鷲掴みにしたイ・ジュンギ。昼の顔、明るい庶民の青年ヨンでは、親からホウキで叩かれまくっているようなダメ息子だが、正体を隠すためにわざと陽気に振る舞っている様が逆に切ない。血のつながらない父セドルとの掛け合いは爆笑ものだが、その裏に隠す互いへの思いやりがほろほろと見え隠れし、しまいには泣かされる展開に。

一方で、夜の顔である義賊イルジメは、現代的で洗練された黒装束に身を包んだ姿にうっとり。外見だけではない。ワイヤーを使い、屋根の上で繰り広げる軽やかな身のこなし、フルショットで見せる剣術など、スタイリッシュなアクションの数々に目を奪われっぱなし。また、鉄製マスクからのぞく悲しみをたたえた瞳も惹き込まれるポイント。

互いに初恋である両班の娘ウンチェ(扮ハン・ヒョジュ)に対し、ヨンの姿では軽薄な青年を装い、イルジメの姿では仮面のまま彼女の窮地を助ける孤高のヒーローに。そのギャップも心惹く。


TEXT:高橋尚子(編集・ライター)

Edited:野田智代(編集者、「韓流自分史」代表)

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