補償光学で鮮明に捉えられた“若き星から吹き出すジェット”

【▲ 若い星から吹き出したジェット「MHO 2147」(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA; Acknowledgments: PI: L. Ferrero (Universidad Nacional de Córdoba))】

こちらの天体は「いて座」と「へびつかい座」の境界付近の方向およそ1万光年先にある「MHO 2147」。蛇行した細長い雲のようなMHO 2147の正体は、若い星から双方向に吹き出したガスのジェットです。画像は赤外線による観測データを波長に応じて擬似的に着色したものであるため、可視光線を捉える人の目で見た姿とは異なります。

画像を公開した米国科学財団の国立光学・赤外天文学研究所(NSF/NOIRLab)によると、中央の淡いピンク色の部分には複数の若い大質量星が潜んでいる可能性があるといい、ジェットの流れによって生じた空洞の内壁が空洞内にある星によって照らし出されています。ジェットに沿って見え隠れする青い部分は、若い星から放出されたガスと周囲のガスが衝突したことで励起した水素分子の分布に対応しています。

ジェットを吹き出したとみられる若い星は、画像中央の赤外線暗黒星雲(赤外線の波長でシルエット状に見える暗黒星雲)に隠されています。NOIRLabによると、ジェットがこのように曲がりくねった姿になったのは歳差運動によって時間とともに吹き出す方向が変化したためであり、ジェットを吹き出す若い星が他の星の重力による影響を受けた可能性があるようです。

MHO 2147を分析した研究者は、ジェットを吹き出した若い星が三重連星を成しているかもしれないと考えています。また、ジェットがほぼ途切れのない曲線を描いていることから、若い星は連続的にジェットを吹き出したことが示唆されるといいます。

【▲ MHO 2147の特に興味深いとされる部分4か所を拡大したもの。右上はジェットの中央付近で、複数の若い大質量星が潜んでいる可能性があるという(Credit: NOIRLab)】

ジェットの構造を精細に捉えたこの画像は、チリのセロ・パチョンにあるジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」(口径8.1m)を使って地上から撮影されました。地上に建設された天体望遠鏡は地球の大気によるゆらぎの影響を受けますが、その影響を打ち消す「補償光学」(AO:Adaptive Optics)と呼ばれる技術を利用することで、宇宙望遠鏡にも匹敵する解像度を得ることができます。

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補償光学はジェミニ南望遠鏡だけでなく、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」やヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」などでも利用されています。冒頭の画像はNOIRLabから2022年1月20日付で公開されています。

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Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA
Acknowledgments: PI: L. Ferrero (Universidad Nacional de Córdoba)
Source: NOIRLab
文/松村武宏

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