核禁条約発効から1年 被爆3世の山口さん(19)「私たちは微力じゃない。力がある」

活水高時代に平和活動の一環で清掃した「未来を生きる子ら」の像の前で思いを語る山口さん=長崎市平野町、長崎原爆資料館

 核兵器の開発や使用、保有などを全面禁止する「核兵器禁止条約」が22日、発効から1年を迎えた。背景には、被爆者をはじめ非政府組織(NGO)など市民社会の活動があった。被爆3世で長崎市内の大学1年生、山口雪乃さん(19)もその一人。条約の採択・発効で「勇気をもらった」。悩み、葛藤しながらも、仲間と共に活動を続けている。

 山口さんは活水高平和学習部に魅力を感じ、2018年春に同校に進学。核兵器廃絶に向けて何ができるかイメージできず、活動は微力だと思っていたが、17年7月に国連で採択された条約を同部で学び、市民社会が世界を動かしたと知った。「1人の声が世界に影響を与えられる。誰もが声を上げていいんだ」。平和活動駆け出しの自分と“誕生”間もない条約が重なり、親近感も湧いた。
 19年には高校生平和大使としてノルウェーのノーベル賞委員会を訪ね、核廃絶を目指して国連機関に署名を届ける活動を紹介。現地の若者とも交流した。
 一方、平和活動の難しさも感じていた。条約発効要件の50カ国・地域の批准になかなか達せず、核保有国なども反発。署名活動の傍ら「身近な人に訴えて、どこかの国が署名してくれるのだろうか」。成果が見えず部活を去る仲間もいた。
 それでも少しずつ批准国は増え、21年1月に条約が発効した。「私たちは微力じゃない。力がある」。そう思えた出来事だった。
 昨年8月から、首都圏を拠点に核廃絶に取り組む学生団体「KNOW NUKES TOKYO(ノー・ニュークス・トーキョー)」に参加。課題は長崎での仲間づくりだ。同世代に核問題を自分の事と感じる人は少ない。関心があっても長崎には「集う場」がなく、広がりに欠ける。それでも「関心の無い人を巻き込んで運動を起こせるか。課題でもあるが、可能性も感じる」と前を向く。
 3月に予定される核禁条約の締約国会議も米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるドイツやノルウェーがオブザーバー参加を表明するなど状況は変化している。
 日本政府も「唯一の戦争被爆国と言うならオブザーバー参加してほしい」と山口さん。今後は政府や若い世代だけでなく、被爆者と若者の中間層など「いろいろな方向に訴えなければならない」と述べ、広島・長崎の平和教育を全国の学校で取り組めるようガイドブックの製作も考えている。
 山口さんにとって核兵器廃絶は“通過点”。「(多くの)人を巻き込み、核問題を考える過程に、私たちの活動があればいい」。被爆地から訴える。


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