見たい未来@長崎 2022知事選<3> 波佐見に移住した陶芸家・長瀬渉氏 価値観 都会と違っていい

「人が少なくなることにネガティブになり過ぎないほうがいい」と語る長瀬氏=波佐見町中尾郷

 -東彼波佐見町での暮らしは19年目に入った。
 妻が佐賀県有田町の窯業大学校で絵付けの勉強をするため、一緒に来たのがきっかけ。当時はまだ「移住者」という言葉をあまり聞いたことがなく、自分もそんな意識はなかった。言葉が定着したのは2011年の東日本大震災後くらいではないか。今は自分探しの延長のような感じで移住がトレンドになっている。
 波佐見での暮らしに不便はない。インターネットがなければ違ったと思うが。最近は移住の失敗例も成功例もある程度、広く知られてきている。失敗で多いのは、ロケーションありきや良い部分の情報のみを基に移り住んだパターンではないか。

 -県内において波佐見は移住者による地域活性の先進地となった。その中心で活動してきて見えるものは。
 (製陶所跡を再活用した人気スポット)「西の原」を造った当時、訳が分からずとも私の意見を聞き、面倒を見てくれる大人がいてありがたかった。今の世の中は当時と違い、何をやるにも「若い人の、外の人の知恵を借りればいい」というのが当たり前。それはそれで問題だと感じる。地元の人たちでできることさえ、都会の会社に仕事を取られているような場面も見えてしまう。
 コロナ禍は補助金事業が増え、地元の力を掘り起こすチャンス。最近では近隣の東彼杵町の若手グループが資金がない中、知恵を出し合って面白い取り組みを続けている。彼らや私たちの取り組みを踏まえて思うのは、熱狂的状況を生むにはほどよい貧乏がいいんだなと。お金がなければ知恵や技術を持ち寄り、結果的に人ごとではなくなるから。

 -将来を見据え、力を入れているのは。
 自分が暮らす集落は窯元が多く、人口300人ほどだが、高齢化率が高く、20年後には100人を切るだろう。ここを維持するために「稼ぐ集落づくり」を始めた。ふるさと納税の返礼品として好調だった経験を生かして、地域の陶芸商品を整理、高品質化を図り、窯元の新たな販路をつくっていきたい。やり方次第で十分稼げるし、売り上げの半分でも集落に納められれば、存続どころか空き家の管理まで可能だ。
 もう一つは教育。長女が通う小学校で音楽や図工などをボランティアで教え、時間があれば昼休みに一緒に遊んでいる。一緒に楽しんでくれる保護者や先生たちがもっと増えればうれしい。田舎だからこそ教育の独自性を持てる部分はあるのではないか。教育でも、働き方でも、都会の人たちと価値観は違ったほうがいい。

 -本県が目指すべき姿や知事に求めるものは。
 人が少なくなることにネガティブになり過ぎないほうがいい。人口を増やすというより、地域の文化度を高めるようなことが必要ではないか。それが高まれば地域の風向きは自然といい方向に変わっていく。
 知事に求めるとするならば「聞く耳を持って」。政治哲学うんぬんではなく、自分の目で見て、自分の気持ちで考え、本音の見えるリーダーを期待したい。

 【略歴】ながせ・わたる 1977年生まれ。山形市出身。東北芸術工科大大学院修了、東京芸大工芸科研究生修了後、2003年に波佐見町へ移住。現在は陶郷・中尾山(中尾郷)に「ながせ陶房」を構える。海の生物を忠実に再現した作品で数々の賞を獲得した。

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