<社説>核兵器禁止条約1年 参加ためらう理由はない

 核兵器の開発から使用までを全面禁止する核兵器禁止条約発効から1年を迎えた。日本は条約の署名・批准に否定的で、3月開催予定の締約国会議へのオブザーバー参加にも慎重姿勢を崩していない。 岸田文雄首相は核禁止条約の署名・批准に関して「出口として非常に重要だ」と述べていた。それなら、被爆地広島選出の首相として、締約国会議へのオブザーバー参加を決断すべきである。

 これまでに核禁止条約に批准したのは59カ国・地域。発効に必要な50カ国・地域に達した後も増え続け、昨年はフィリピンやカンボジアなどが新たに参加した。批准の前段階に当たる署名は86カ国・地域(批准国含む)が終えた。

 これに対し米国は、安全保障への影響を考慮せず核廃絶を迫る「危険な条約」として、日本や北大西洋条約機構(NATO)同盟国に賛同しないように締め付けてきた。

 ところが、NATO加盟国のドイツとノルウェーが、その圧力をはねのけて締約国会議へのオブザーバー参加の方針を表明している。唯一の被爆国の日本が、オブザーバー参加すらためらうのはなぜか。「核の傘」に依存する米国の意向に配慮したのか。それとも核保有国が加わっていないため、参加しても現状は変わらないとみているからか。

 被爆国として、核廃絶に向けあらゆる可能性を追求するのは当然だ。保有国と非保有国の橋渡し役を自認するなら、オブザーバー参加をためらう理由はないはずだ。

 核禁止条約に背を向ける一方、岸田首相は、核禁止条約以外で存在感を示そうとしているようだ。

 首相はバイデン米大統領とテレビ会談し「核兵器のない世界」へ共に取り組む考えで一致した。会談前に核保有国の核軍縮交渉義務を定めた核拡散防止条約(NPT)の重要性を確認する共同声明も発表した。

 施政方針演説で核なき世界を目指すための「国際賢人会議」創設も打ち出し、今年中に広島で初会合を開くと表明した。核なき世界へ取り組み始めたことは前進であるが、まだ中身が伴っていない。

 憂慮するのは米中対立に伴う中国の動向だ。中国は台湾有事に備えて核戦力を増強している。例えば、小型核搭載も可能とされる中距離弾道ミサイル「東風26」の配備だ。核を敵の核攻撃に対する抑止力としてではなく、戦闘で実際に使用する兵器と位置付けているとすれば、安全保障上の重大な脅威である。

 これに対し、日米も台湾有事に備え南西諸島を拠点とする共同作戦計画を策定している。県民が戦闘に巻き込まれるリスクが飛躍的に高まる。

 東アジアの核軍拡に歯止めをかけなければならない。核禁止条約締約国会議や核兵器の非人道性に関する国際会議に参加し、核なき世界の実現へ一歩でも二歩でも前進するよう力を尽くすべきだ。

© 株式会社琉球新報社