<県政の現場から 2022知事選> 石木ダム 完成の道筋描けず 家屋強制撤去の判断先送り

付け替え県道の工事現場で座り込みを続ける反対住民=東彼川棚町

 長崎県東彼川棚町の治水と佐世保市の利水を目的に、県と同市が同町に計画する石木ダム建設は、国の事業採択から46年が経過した。この間、知事は久保勘一、高田勇、金子原二郎、現職の中村法道(71)=3期目=と4代に及ぶが、水没予定地に暮らす13世帯の理解をいまだ得られていない。県は2025年度の完成を目指すが、その道筋は描けないままだ。
 今月11日朝、石木ダム建設現場。反対住民13世帯は新年最初の抗議の座り込みを始めた。昨年と同様、本体建設予定地そばと付け替え県道の工事現場の2カ所に陣取る。住民の一人は「正月はゆっくりと過ごせたが、きょうからまた逆戻りだ」と、いつ終わるとも知れない県とのにらみ合いにため息をついた。
 中村氏は、13世帯の宅地を含む全用地を収用した19年9月を最後に、反対住民と面会できていない。その後、20年11月、住民側が「事業の白紙撤回が対話の条件ではない」との姿勢を示したため、県は対話の実現に本腰を入れ始めた。
 だが佐世保市との調整に時間を要し、対話に向けた事前協議を住民側に提案したのが21年5月。書面で計9回やりとりをしたが工事中断の条件が折り合わず、県は対話期限とした8月末を過ぎると本体工事に踏み切った。長年蓄積された相互不信の払拭(ふっしょく)が一筋縄でいかないことを裏付ける形となった。
 中村氏は今任期中、家屋などを強制撤去できる「行政代執行」について、判断を下すのではないかとみられていた。その根拠は18年7月、長崎地裁が反対住民らによる事業認定取り消し請求を棄却した際、中村氏が「任期中に(行政代執行の)方向性を出したい」と踏み込んだからだ。万が一「やらない」となれば事実上の事業断念につながる可能性がある。
 だが先月の知事選出馬会見では「任期中に行政代執行をするという趣旨ではなかった。必要な判断を下すべき時期になれば、一つの結論を出さなければならないという思いだった」と説明。あくまでも対話による立ち退きを追求し、行政代執行は「最後の最後の手段」と強調。事実上判断を先送りした形だ。
 反対住民の一人は「13世帯もの家屋を強制撤去するなんてできるわけがない。結論を先延ばしにして、生殺しにされている気分だ」と批判する。
 石木ダムは完成時期を9回延期し、現在は25年度に設定。次の知事の任期は26年3月までの4年間でちょうど完成時期と重なるため、判断を迫られる局面が必ず訪れる。
 「次の4年間では必ず決着させてほしい」。知事選で中村氏を支援する自民佐世保市議らの間ではこんな声が強まっている。
 知事選に立候補予定の医師、大石賢吾氏(39)は早期完成を掲げ「対話」と「決断」を強調。会社社長の宮沢由彦氏(54)は「見直し」、市民団体代表の寺田浩彦氏(60)と元大学助手の田中隆治氏(78)は「中止」としている。
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 来月3日に長崎知事選が告示されます。県政の現場を歩き課題を考えます。随時掲載。


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