三浦たくあん窮地 衛生基準導入でコスト増「やめるかも」

浅漬けたくあんのたるが積まれた宮川会長宅の作業場=昨年12月、三浦市宮川町

 三浦特産の浅漬けたくあんを手掛ける農家が岐路に立たされている。食中毒を防ぐための改正食品衛生法の施行で、加工する際の衛生管理基準が厳しくなり、多額の改修費用がのしかかる。猶予期間は設けられているものの、廃業を選択肢に置く農家も。神奈川を代表する農林水産物や加工品の「かながわブランド」にも登録されている「地域の味」はどうなるのか。

◆まろやかな味に固定客

 浅漬けたくあん「まいるど」は、30年近く前に地元農家が「郷土漬物研究会」を結成し、試行錯誤の末に独自の製法を考えた。大根を5日間ほど天日干しした後、米ぬかで10日間漬け込むとまろやかな甘みと塩味が出てくる。毎年買い求める固定客も多く、同会の宮川祐一会長(49)方では2月まで約3万本の漬け込み作業に追われる。

 三浦海岸や高台で浅漬け用の大根がずらりと天日干しされる光景は、三浦半島の冬の風物詩にもなっている。

◆法改正、3年の経過措置も… 

 しかし、2012年、北海道で8人が死亡するなど浅漬けが原因の食中毒が発生したことを受け、国は昨年6月施行の改正食品衛生法で漬物製造業を営業許可の取得が必要な業種に追加。浅漬けは加熱工程がなく、製造中に十分な殺菌ができないとして、全ての工程で低温管理(10度以下)を徹底し、専用の製造場所を設けるよう求めている。

 3年間の経過措置があるものの、宮川会長は「製造専用のスペースを確保するには改修費用の負担が大きい」と指摘。これまで浅漬けたくあんによる食中毒の発生例はないといい、困惑は隠せない。会員の一人は「うちは施設の規模が大きいので、改修費用もかさむ。経過期間中にやめようと思っている」と打ち明けた。

◆秋田のいぶりがっこも

 改正食品衛生法の影響は全国に広がっている。秋田県の郷土漬物「いぶりがっこ」を昔ながらの製法で作る地元農家は小規模な高齢者が多く、多額の改修費用が賄えず対応に苦慮している。

 一方、同研究会には現在は10軒の農家が加入、栽培シーズン前には味比べをして最適な品種を選ぶなど努力を重ねている。

 県生活衛生課の担当者は「具体的な対応策などはアドバイスできるが、全国一律で決まったこと。基準に沿った対応をお願いしたい」と話している。

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