見たい未来@長崎 2022知事選<5> 長崎大情報データ科学部教授・小林透氏 優秀なIT人材生かして

「魅力的な仕事をつくり出せる提案力を持った人材が不可欠」と語る小林氏=長崎市文教町、長崎大

 -本県におけるIT人材の教育環境は。
 長崎大と県立大に情報分野の学部・学科があり、「情報工学」「情報セキュリティー」「データサイエンス」という情報分野の3本柱をほぼ網羅している。全国的にみても教育環境は充実している方といえる。
 両大学とも定員を増やし、数年後には毎年200人程度の卒業生が見込まれる。長崎にとって大きな力。これを使わない手はない。ただ、県民にはあまり知られていない。あらゆる分野でデジタル化が進み、IT人材は引っ張りだこだが、今は長崎に残る学生が1割程度。何か手を打たなければ、ただの人材供給基地になってしまう。

 -育てた人材を地元で生かしていくには。
 IT産業のメインの仕事は、お客さんの困り事を改善するシステム開発など。だから、企業の多い首都圏に仕事が集中する。そこから仕事を取ってくるには、地方にいても魅力的な仕事をつくり出せる提案力を持った人材が不可欠。新型コロナウイルスの影響でウェブ会議が当たり前になり、(仕事を頼むのが)必ずしも近い会社でなくてもよくなった。魅力的な仕事が増えれば当然、地元に残る人も増えていくはずだ。
 あとはスキルを磨ける場所かどうかもポイント。地方にいても先端技術を学べたり、違う会社の人ともつながる場があったり。県がワーケーションの場を安く提供すれば、来た人は大学で技術を学び、仕事終わりにはビールを飲みながら大学教授らと議論ができる。そんなことをセットで提供してはどうか。大学だけでは難しいので、行政と一緒にやっていければ面白い。

 -担当ゼミでは、コロナ禍において、接触せずに公衆機器を操作できるアプリなど次々に発表している。
 全部が私のアイデアというわけではなくて、学生たちとの会話の中で生まれたものが多い。長崎にはダイヤの原石のような学生がたくさんいる。彼らを磨き、輝かせることで仕事や雇用が生まれ、(県民の)所得も上がる-。そんな好循環が生まれることを期待したい。

 -長崎の地でIT産業が発展する可能性は。
 少子高齢化が全国より速いペースで進むなどネガティブな面はあるが、それは長崎に限った問題ではない。だから、地域の課題解決のため、ITを使ったサービスを開発することは多くの人のためにもなる。特に長崎は離島も多く、さまざまな実証実験ができる場所。地名は世界的に認知度が高く、いいサービスが生まれれば「長崎モデル」として広めていくことも可能だろう。
 今はまさに人を育てる仕込みの時期。10年くらいたつと、会社を起こそうという動きも増えてくるはずだ。究極の理想は米国のフェイスブック(現メタ)やアップルといった「プラットフォーマー」が誕生すること。そんな夢物語を語っても今は笑われるだけだが、世界の人に「長崎モデル」を使ってもらい、世界中から長崎にお金が集まってくるようになれば-なんて夢のある話ではないか。

 【略歴】こばやし・とおる 1962年生まれ。仙台市出身。東北大大学院工学研究科修士課程修了。87年、NTTに入社し、情報セキュリティーやウェブ技術などの研究開発に従事。2013年に長崎大大学院工学研究科教授、20年から現職。同大副学長(情報担当)。


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