メクル第600号 キャスター 草野仁(くさの・ひとし)さん(77)=島原市出身= 夢実現のため完全燃焼して

「夢実現のために完全燃焼して」と話す草野さん

 土曜夜9時、テレビ番組「世界ふしぎ発見!」のMCといえば、誰(だれ)もが知っている草野仁(くさのひとし)さん。2歳(さい)から高校卒業までを長崎県内で過ごしました。今回は幼(おさな)い頃(ころ)のエピソードや、みんなへのメッセージを語ってくれました。

 私は満州(まんしゅう)(中国東北部)で生まれて、2歳の時に祖母(そぼ)の家があった島原市に引(ひ)き揚(あ)げてきました。
 小学校に入学したのは1950(昭和25)年、戦後間もない貧(まず)しい時代です。当時の給食はコッペパン1個(こ)と脱脂粉乳(だっしふんにゅう)1杯(ぱい)だけ。それでも元気いっぱいで、休み時間は校庭をかけ回っていましたから、かけっこ、野球、相撲(すもう)は誰にも負けませんでした。私(わたし)にとって学校は遊ぶ所、スポーツをしに行く所で勉強は全くしませんでした。
 とはいえ、両親ともに教員でしたので、厳(きび)しく指導(しどう)された部分もありました。宿題をやってなければコツンと拳骨(げんこつ)。また、遊びに夢中(むちゅう)になるあまり頼(たの)まれていた夕飯の買い物を忘(わす)れたときもコツンという具合です。
 中学生になると、父は「学校で起きたことを全部、報告(ほうこく)せよ」と言い、私は仕方なく先生とのやりとりや登下校の様子を話しました。すると父は注意深く話を聞き、良い所は褒(ほ)め、悪い所は「それはおまえのここが悪い」と分かるように説明してくれたのです。たまに「おまえの言うことにも一理あるな」となることもあって、父は客観的に私の全体像(ぜんたいぞう)を見て守ってくれているという信頼(しんらい)関係がありました。
 県立島原高に進み、県立長崎西高に転校し卒業。陸上部でいくつか記録も出しましたが、太もも周りが60センチもあってズボンが入らないのが悩(なや)みでした。
 進学先は兄2人と同じ東京大。入学後は、休まず一番前で受講(じゅこう)し、スポーツや映画(えいが)も楽しみました。
 就職(しゅうしょく)はテレビ時代の到来(とうらい)を見据(みす)え、大学で学んだ社会学を生かせると思いNHKに入局しました。元々は事件(じけん)や災害(さいがい)を自分で取材して伝える報道(ほうどう)記者志望(しぼう)でしたが、命じられたのはアナウンサー。ある意味、夢破(ゆめやぶ)れたわけですが、そこで私はアナウンサーの仕事の中で報道記者に近いことがやれるスポーツ担当(たんとう)をやりたいと申し出ました。各競技(きょうぎ)のルール、選手の経歴(けいれき)、過去(かこ)の試合結果などたくさん勉強しました。おかげで私にしかできない解説(かいせつ)、インタビューなどが評価(ひょうか)され、40歳の時にロサンゼルスオリンピック特番の総合(そうごう)司会を務(つと)めることができました。
 人は自分の想像(そうぞう)以上に幅広(はばひろ)い適応能力(てきおうのうりょく)を持っています。だから一見「夢破れた」と思われるような状況(じょうきょう)下に陥(おちい)っても、夢の実現(じつげん)に向けて完全燃焼(ねんしょう)してみてください。焦(あせ)らずにいろいろな経験(けいけん)を糧(かて)にすれば道は拓(ひら)けると断言(だんげん)できます。
 長崎は歴史(れきし)的にも文化レベルが高く、人の温かさ、優(やさ)しさを感じる場所です。一方で先頭に立って引(ひ)っ張(ぱ)っていこうという気概(きがい)を持った人が意外に少ない印象(いんしょう)があり、歴代総理(そうり)に長崎県出身者が名を連ねていないのは残念に思います。この記事を見て世界に羽ばたこうという覇気(はき)を持った若者(わかもの)が増(ふ)えることを期待しています。

【Q&A】思い出の味は煮魚
 ●高校時代の陸上部での記録は? スポーツ選手になろうと思わなかった?
 100メートル11.2秒、ソフトボール投げ86メートルなど。
 父親から「おまえには向いていないから陸上部をやめなさい」と言われて勉強に専念(せんねん)しました。
 ●島原での思い出の味は?
 煮魚(にざかな)。近所の漁師(りょうし)さんから買った新鮮(しんせん)なアジやイワシを毎日のように食べていました。また102歳(さい)まで生きた父は、肉より魚、肉を食べるなら豚肉(ぶたにく)を心掛(こころが)けていて、わが家では豚肉のすき焼きが定番でした。

 【プロフィル】1944年2月24日生まれ。島原市立第一小~市立第一中~県立島原高、長崎西高卒。東京大学卒業後、NHK入局。オリンピックをはじめ、さまざまなスポーツの実況(じっきょう)を担当(たんとう)。85年に退局(たいきょく)、フリーのキャスターに。情報(じょうほう)番組やクイズ番組の司会として活躍(かつやく)。中でも「世界ふしぎ発見!」(TBS系(けい))は放送開始36年目に突入(とつにゅう)。まれにみる長寿(ちょうじゅ)番組となった。その他、CM出演(しゅつえん)、講演(こうえん)、執筆(しっぴつ)など多分野にわたって精力(せいりょく)的に活動中。2010年から長崎市科学館の名誉(めいよ)館長でもある。

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