人恋しいのよクリスマス〜『雨はこれから』第75話「朝採れ市場で捕まえて」より

テレビ局を辞めて漫画家を目指す、初老?の松ちゃん。彼のドヤにはなぜか多くのバイク乗りが集まって何かと騒々しい。クリスマスパーティーをやる場所にはうってつけだし?
Mr.Bike BGで大好評連載中の東本昌平先生作『雨はこれから』第75話「朝採れ市場で捕まえて」より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

なあ、たのむよォ‥男の懇願に冷たい女?

[「Mr.Bike BG」2022年2月号は1月14日発売。 - 株式会社モーターマガジン社]

ちょっといいオンナなら誰でもいいんじゃないか?と思っていたが、どうやらヒトシは本気でソノミに惚れてるらしい。

ウチを勝手にクリスマス仕様に改装して、パーティーを開こうとするのにはちと閉口するが、若者には若者の文化とやらがあるらしい。私には不機嫌を装うくらいしかできることはなかった。

パーティー準備には女手がいる。リナ1人じゃ心許ないということもあるだろう、ヒトシは懸命にソノミに頼み込んだが、ソノミはソノミでクリスマスにはやることがある。母親が営む店のクラブ歌手として働く彼女には、結構な数のファンがいるのだ。

そして、クリスマスをきっかけに、真剣な愛の告白を試みる男がもう1人いた。

ゼファー乗りの“ソウルスピード”(本名?知らん)だが、リナに惚れてたらしい。それなりに勉強してマッサージ師になった彼は、花束を抱えてリナに求婚しにやってきたのだった。

それどころじゃねーよ

ソウルスピードがリナに花束を差し出した途端、雨雪を凌ぐためにテントのように貼り付けた屋根布が剥がれ落ちてきた。ズザッと大きな音を立てて、ずり落ちてきた屋根布は、それを固定していた治具を伴って周囲を破壊した。

ああーっ、と絶望的なうめき声を上げるソウルスピードを尻目に、リナはこれ幸いと「そんなことしてる場合じゃないでしょ!ほら、手伝ってよ!」と叫び、勢いで ソウルスピードの精一杯の求愛を無かったことにしようとした。

アハハハッと、うっかり声を上げて笑ってしまった私に気づいたリナは、「松ちゃん、助けて‼︎」と叫んだ。
その叫びは、壊れた屋根布がもたらした災害に対してか、ソウルスピードからの予期せぬ求愛に戸惑う彼女の心模様なのか、私にはすぐに判別し難かった。私が言えることはただ、それどころじゃねーよ!、それだけだった。

楠雅彦 | Masahiko Kusunoki

車と女性と映画が好きなフリーランサー。

Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。蚊に刺されまくっても行きたい。

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