【タイ】コロナ後の労働力確保に懸念[経済]

国内は少子化、出稼ぎ者も戻らず

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タイで労働力不足が顕在化しつつある。少子高齢化により長期的に労働力の減少が続くとみられることに加え、足元では新型コロナウイルス感染症の流行を受け、出稼ぎ外国人労働者が大量に帰国したまま戻らず、労働集約型産業を中心に労働力確保が難しくなっている。また、コロナ禍で不振が続く観光業からは将来性への不安から就職希望者が減少し、優秀な人材確保が難しくなっているとの指摘もある。

1970年に120万人だったタイの年間出生数は、2020年に初めて60万人を下回った。女性1人が生涯に出産する子どもの平均人数を示す合計特殊出生率は1.51。合計特殊出生率が2.1を下回ると、人口構成における高齢者の比率が高まり、労働者不足を補うために外国人労働者への依存が高まる。新型コロナの流行による経済不安などから、タイの出生数の減少はさらに加速するとみられている。

また、景気悪化による失業率の上昇で、フリーランスや自営業などに転身した人も増えており、新型コロナ収束後を見据え、企業からは近い将来の人手不足を懸念する声が高まっている。

バンコクポストによると、特にミャンマーやラオス、カンボジアなどの近隣国からの出稼ぎ労働者への依存が高い労働集約型の産業から不安の声が目立つという。

タイでは昨年、新型コロナの感染拡大と、それに伴う工場閉鎖などから大量の出稼ぎ労働者が解雇され、大半がそれぞれの母国に帰国した。その後、外国人の入国が厳格化されたことで出稼ぎ労働者の多くが現在もタイに戻っていない。新変異株「オミクロン株」の流行により、タイ経済の本格的な景気回復の時期は現在も見通せていないものの、既に48万6,000人規模の労働力が不足しているとの指摘もある。

■ミャンマーの政情不安も影響

タイ貿易・産業雇用者連盟(ECONTHAI)のタニット副会長によると、タイで働く出稼ぎ労働者の7割はミャンマー人が占める。ECONTHAIは、タイ政府に対して、引き続きミャンマーからの出稼ぎ労働者を受け入れられるよう、ミャンマー政府との間で覚書を交わすよう求めている。

ただし、昨年2月のミャンマーの軍事クーデター後の政情不安が続く中、ミャンマー人の出稼ぎ労働者が以前と同様にタイに戻ってくるかは不透明だという。タイに逃れてきた難民を労働力として活用する案もあるものの、難民の多くはタイ国内の企業が求めるスキルなどの条件を満たしていないなど、課題も多いと説明する。

一方、ミャンマーに次いでタイへの出稼ぎ労働者が多いラオスやカンボジアでは、中国主導の投資案件が増えつつあり、タイから帰国した労働者の多くは、母国で就業機会を得られることから再びタイに戻る労働者は減っているという。ラオス政府やカンボジア政府も自国の経済成長に向けて、自国民の若い労働力を確保したい意向であり、タイへの出稼ぎ労働者は減少基調にあるとみている。

ECONTHAIは、差し当たっての労働力不足を軽減するため、国境付近に出稼ぎ労働者受け入れのための専用施設を設け、タイへの入国希望者を可能な限り迅速に受け入れる体制を整えるよう政府に訴えている。

日系人材会社の担当者はNNAに対し、「タイでは政府主導により労働集約型産業から高度産業化への移行を進めているが、産業構造の高度化はそれほど容易ではない。少子高齢化によって、自国民の労働力が減少が続くと予想される中、ミャンマーなどの近隣国からの出稼ぎ労働者への依存度はこれからも高まるとみられる」と話した。

■敬遠されるホスピタリティー産業

人手不足は労働集約型産業に限らない。その一つが新型コロナで不振が続くホテルなどのホスピタリティー産業だ。タイ・ホテル協会(THA)のマリサ会長は、「各ホテルは新型コロナ後の本格的な観光回復を前に、人手不足をどのように埋めるか頭を悩ませている」と危機感を隠さない。

マリサ氏によると、ホテル業はこれまで若手とベテランをうまく組み合わせることで運営してきた。ホテル運営には、豊富な経験やスキルを持ったベテランが、それらを若手に継承していく必要があるが、新型コロナで長らく不振が続くホテル業界を、就職先として選ぶ若年層が減っているという。

外国人旅行者を主な宿泊客とするホテルでは、英語によるコミュニケーション能力は必須だが、新型コロナで不振をかこつホテル業界がそうした人材を確保するのはさらに難しくなっていると説明する。さらに、システムのメンテナンスやITエンジニア、デジタル人材などのバックオフィスでも人手不足は深刻化しているという。

新型コロナによる観光業の不振などからホスピタリティー産業は就職先として敬遠されつつあるという=タイ・プーケット県(センタラ・ホテルズ&リゾーツ提供)

先の日系人材会社の担当者は、タイの観光業について、「コロナ禍による不安定産業としての風評被害や、労働者不足に伴い人員不足になることは必至」と指摘。タイではホスピタリティーなどを学んでいる学生も多くいるものの、これまでは観光業という非常に大きな労働市場があったことがその一因だったと分析。「『観光立国』としての神話が崩れつつあり、そもそも観光業で代表されるホテル業などでの勤務は、深夜勤務や立ちっぱなしの仕事など、元々きつい仕事という印象もあることから、ワーク・ライフ・バランスを重視する若者からは就職先として敬遠されつつあり、人員確保は引き続き難しくなる」とみている。

同担当者は、「タイでは既に人員不足の課題は多くの階層で始まっている」と指摘。コロナ危機以前から、優秀な管理職層やITなどに代表されるエンジニア層の人材不足が指摘されており、コロナ禍を経て人材問題はますます顕在化しているという。日系企業にとっても、日本人が望むレベルの管理ができる優秀な管理職人材の不足、他国に引けを取らないレベルのスキルを持ったエンジニア不足の課題は、年を追うごとに悪化しており、22年以降もそれらの人材ニーズが高まるとみている。