1時間に1本のひかり

 【汐留鉄道俱楽部】 静岡に転勤になった。東京出身の人間で、入社以来、JR西日本やJR四国管内に勤務したことはあり、東海道新幹線には数限りなく乗っているが、JR東海管内に住むのは初めてだ。

 静岡は東京から新幹線「ひかり」でほぼ1時間。1時間といえば、同じ東京から中央線なら高尾、東北・高崎線なら久喜や鴻巣辺り、総武線では千葉は越えるが成田までは届かない。乗っていて本当にあっという間。まあ新幹線とはそういう乗り物なのだと思う。

停車中のひかり(右)を猛スピードで追い抜くのぞみ=静岡駅

 ただ便利とは言ってもそれは乗っている時間の話で、静岡に止まるひかりは1時間に1本しかない。ダイヤ上、のぞみの本数が圧倒的に多いがゆえに、ひかりやこだまは通過待ちが多くなる。1時間に2本のひかりのうち、もう1本も静岡停車にすると、必然的にのぞみに追い越されることになり、終着駅までの時間が余計にかかってしまうことになる。

 そもそもひかりが停車する静岡はまだいい方で、隣の新富士や掛川は1時間に2本のこだましか選択肢はない。熱海から浜松まで、県内に新幹線の駅が六つもあるのに、なんとなく冷遇されていると感じる県民も多いという。駅に近い場所に住んでいるので、のぞみが立て続けにビュンビュンと通過する音を聞くと、複雑な気持ちになる。

 学生のころだからもう30年以上も前だけれど、かつては東海道線に「東海」という急行が走っていて、東京―静岡を3時間弱で結んでいた。後に特急に格上げされたが、その後廃止されてしまった。現在、在来線の普通列車で行こうとすれば、熱海や沼津での乗り換えが必須。急行というものがJRからは姿を消してしまったが、そこそこの距離を走る、あれはあれで便利な存在だったんだけどなあと思う。

 

JR東海の在来線の駅名標(上)と新幹線の駅名標=静岡駅

 さてJR東海の管内に来て感心するのは、駅名標だ。駅名標って、駅の天井からぶら下がったり、ホームに立ったりしている、駅の名前が(両隣の駅名とともに)書いている掲示板のこと。東海のスタイルは,駅名が平仮名で大きく書いてあって、とても見やすい(新幹線は高速で通過するときに識別しやすいためだろうが、漢字が主、平仮名が従だ)。

 所在の市町村名が(政令指定都市は区名も)書いてあるのもいい。普通列車に乗っていると「あ、県境を越えたな」「こんな所まで○○市なのか」なんて感じ取れる。

 何よりいいのが平仮名の書体。かつての国鉄で多く使われたもので(現在は東海が「スミ丸ゴシック」として登録しているという)、はけや筆で1字1字書いていた名残が感じられる、いい味わいの字だ。この書体に関しては、中西あきこ「されど鉄道文字」(発行・鉄道ジャーナル社、発売・成美堂出版、2016年)、「駅の文字、電車の文字」(同、18年)の2冊に詳しい。これ、「ああ、鉄道ファンにこういう視点もあるんだな」と感心させられた、なかなかの著作です。

 ☆共同通信・八代 到

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