【新型コロナ】神奈川県、低リスク感染者は「自主療養」扱いに変更 パルスオキシメーター配布も配食手配もなし

 神奈川県は27日、新型コロナオミクロン株による感染拡大で保健所、検査センター、発熱外来などがひっ迫している現状に対処するため、受診せず自身で検査を行って陽性となった県民で、かつ低リスクと判断できる感染者については受診なしでそのまま自宅療養を選択できるようにすると発表した。対象者には県から「自主療養届」を発行するという。28日から適用される。

発症、症状悪化時には自らの連絡求める、配食サービス、パルスオキシメーターの貸与なし

 神奈川県は26日夜、新型コロナウイルス対策本部会議を開き、現在の感染拡大状況に対処する新方針について議論した。新方針とは50歳以下で、かつ基礎疾患のない低リスクの陽性者を対象とする「自主療養」扱いの新設だ。

 会議に提出された資料によると、現在感染の爆発的な拡大で保健所および発熱外来の業務が極大化しひっ迫が起きており、通常医療とハイリスクの感染者に対する対応のリソースを確保するため、県が実施している無料検査や自身の判断で行った検査において陽性となり、かつ50歳以下、基礎疾患なしの県民については、医療機関を受診せずにそのまま自宅療養を「選択できる」ようにするという。選択した場合は、県は感染症法に基づく発生届を提出をしないかわりに、独自に「自主療養届」を発行する。また療養期間中の健康観察、具体的には県からのLINEなどの積極的なサポートは、希望しなければ実施しない。実施を希望した場合でも、自動電話など有人によるものは行わないという。

 感染症法に基づく「発生届」を発行しないため、自主療養届を選択した感染者は正式には「感染者」「患者」とはならない。つまり感染者でありながら、感染症法が求める外出自粛等の協力要請対象とはならないことになる。したがって県ではパルスオキシメーターを配布したり、配食サービスの提供は行わない。

 自主療養開始時には無症状、あるいは軽症だった場合でも、当然その後悪化する可能性がありえる。県の担当である阿南統括官は会議でこの点を質問された際、そのリスクは独居の方が自宅で脳梗塞を発症した場合と同等程度と判断していると回答した。つまり県は、もはやそのリスクは通常医療と同等であり、特段の対応を取る段階ではなくなったと判断していることになる。また具体的には、状態悪化の場合は、引き続き現在の自宅療養者(発生届を提出した感染者)に提供している緊急連絡用窓口に同じように連絡できるようにするので対応できるとした。

 しかし現実としては、この新しい対応でリスク回避ができるのかといえば不十分だと言わざるを得ない。当メディアが今回の新しい対象となるであろうケースを含む複数の感染者に取材したところ、現時点でも無料検査で陽性となった人については事実上自宅療養しかなく、医療機関を案内してほしいと要請しても、政令市の住民だった場合、その政令市が用意しているコールセンターを案内されるだけで積極的な対応が行われていないことを確認している。なお県内のどの政令市でも、感染者が激増しているためコールセンターにかけてもほとんど繋がらない状態であり、事実上なんのサポートも得られないに等しい。神奈川県は3つも政令市を抱えており、すなわち感染者の多数が政令市内のため、非常に大きな懸念だ。

 またコールセンターの対応を諦めて自身で医療機関を探そうとしても、近隣でどの医療機関が発熱外来を設置し、診療可能なのかの情報提供も丁寧にはなされず、県のホームページでPDF等で公開されているだけである。当然それぞれの医療機関がどれくらいひっ迫し、対応が難しいのか可能なのかも自ら連絡しなければ分からない。

 つまり現状、無料だから検査を行い、受診しないまま陽性と診断される人が大多数となっている現状においては、事実上せっかく検査しても何のメリットも得られないことになる。現実としては自宅療養をほぼ強要され、健康観察の連絡も希望しなければなされず、外出禁止を求められるべきなのに「発生届」を出さないために県からの配食サービスも受けられず、状態が悪化しても、県の緊急用窓口でもすぐに医療機関のサポートが得られるとは限らない。自身で探すにしてもどこが対応してくれるかの情報にすらアクセスが簡単ではない。

 会議に出席した県の担当者や黒岩知事は、この新しい措置が24日に出された国の「検査なしで診断、受診なしで療養開始」を可とする方針にも沿っており、陽性者を見捨てるものではない、そう誤解されてはいけないと強調していたが、事実上、低リスクだからという理由で、自治体自ら感染症法の対象から外しているのは事実で、その点で自治体のなすべき責務を放棄したと言わざるを得ない。

 これまで、当初低リスクだった感染者が自宅療養中に突然連絡ができないほど悪化し、気づくのが遅れ間に合わなかった例が現実に複数例発生している。それを認識していながら、体調悪化の際に自分で連絡できる窓口を用意しているからリスクを回避できるというのは詭弁だというしかなく、このような姿勢の県が、ハイリスク者に対するケア、サポートが本当にできるのかも疑問を持たざるを得ない状況だ。

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