ブラジル人監督はネルシーニョだけ 今季は「欧州の風」が吹きそうなJ1

J1 昨年の柏―C大阪 後半、ゴールが決まり、笑顔を見せる柏・ネルシーニョ監督=三協F柏

 人類は厄介なものに遭遇してしまったものだ。インドで開催されている女子のアジア・カップ。この「なでしこジャパン」が参加している大会で、インド代表が新型コロナの影響により、台湾戦で試合に必要な13人をそろえられなかった。インド代表は大会から撤退することになった。開催国が満足に試合をすることなく大会から姿を消す。前代未聞だろう。

 このような状況を見ると、今後の大会でも同じようなことが起こるのではないかと心配になる。解決しなければならない問題がたくさんあることを考えると、11月にカタールで開幕するW杯がフルスペックで行われるかどうかは怪しいところだ。

 日本協会やJリーグから送られてくるプレスリリース。そこにも連日、選手を含めた感染者の情報が含まれている。Jリーガーを含めたサッカー関係者は、かなり注意して厳しい制限の中で生活している。それでも感染するのだから、集団で行動することの難しさを感じる。

 J2のアルビレックス新潟は新型コロナの影響で19日から高知キャンプを一時休止した。各チームは予定通りのトレーニングが積めるかどうか戦々恐々としているだろう。キャンプ中止などという事態にでもなれば、大きなハンディを背負うことになってしまう。

 それでも、コロナ禍での3度目のシーズンが迫ってくる。開幕はJ1が2月18日、J2は2月19日。スタジアムにフルで観客を迎えられる状態にならなければ、そろそろ経営的に限界に近づいているクラブもあるだろう。

 そんな新シーズンのJ1のチーム体制を見て、感じることがあった。常に日本サッカーの師であったブラジル人監督が、柏レイソルのネルシーニョ監督だけになってしまったのだ。

 一昔も二昔も前にサッカーに接してきた人たちは、サッカーといったらブラジルだった。最も分かりやすい例が、JFLの鈴鹿ポイントゲッターズに移籍したカズこと三浦知良だろう。2月に55歳になる日本サッカーのレジェンド、カズは紛れもないオジサン。その年代の人々の憧れは常にブラジルだった。静岡学園高1年生だったカズはプロ選手になるという夢をかなえるために海を渡った。ブラジルにはサッカーのすべての要素があったのだ。

 サッカーの取材の現場に長くいて一番変わったこと。それは通信手段だ。1998年フランスW杯の頃は電話回線につないで原稿を送っていた。今、ワープロはパソコンになり、さらに無線LANが使えるように。通信の発達はサッカー界も変えたのではないか。情報量は驚くほど増えた。

 インターネットが発達し、課金制のペイ・パー・ビュー方式の番組は種類が豊富になった。若者のサッカーの基準は欧州になったのだろう。チャンピオンズリーグに出てくるチームは世界選抜の様相を呈している。優勝を争う上位チームは、W杯を制した代表チームよりも強いのではないかとさえ思われる。

 南米の田舎であっても、才能ある若い選手はあっという間に欧州クラブの情報網に引っかかり、すぐに青田買いされる。子どもの世界の、いわゆるストリートサッカーの王様は、あっという間に「野性児」から「欧州風」になっていく。

 かつて言われた「欧州の組織」に対する「南米の技術」。ブラジルやアルゼンチンの持つ優位性は、映像の発達もあって薄れたのではないか。Jリーグが始まった30年ほど前、ブラジル選手のボール扱いは、ただただ素晴らしかった。しかし、現在は日本選手の中でプレーしていてもブラジル選手の技術が突出しているわけではない。情報を得た日本選手のレベルが上がったからだろう。

 南米のクラブ王者を決めるコパ・リベルタドーレス。昨年11月、これを制したのはブラジルのパルメイラス。このチームで活躍するのは2017年に新潟でプレーしたホニ。もちろん、ホニはブラジルに戻って飛躍的に成長したのだろう。ただ、欧州のビッグクラブで活躍するブラジル選手と比べると、やはり見劣りはする。

 少なくとも欧州のトップレベルのチームに所属する欧州出身選手は、それが「武骨な」といわれたドイツの選手であっても南米の選手に引けを取らない技術を身につけているのが当たり前になった。サッカーに必要なボールを扱う技術が同等ならば、違いを生み出すのに必要なのは組織力と戦術だ。かつてブラジル流のサッカーであふれていたJリーグも、ここにきて転換期に差し掛かったのだろう。

 今季、J1には欧州にルーツを持つ監督が6人いる。セルビア出身、オーストリアのミハイロ・ペトロビッチ(札幌)、スイスのレネ・バイラー(鹿島)、スペインのリカルド・ロドリゲス(浦和)、スペインのアルベル・プッチ・オルトネダ(FC東京)、イングランド出身、オーストラリアのケビン・マスカット(横浜M)、ドイツのミヒャエル・スキッベ(広島)。Jリーグにこれほどの「欧州の風」が吹くのは初めてなのではないか。監督たちはそれぞれの特徴を見せてほしい。先の見えない世の中で、観衆はそんな試合を求めている。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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