「豚肉」が再び引き合わせた古巣との縁 鷹が行う元ドラ1のセカンドキャリア支援

現在は三重で豚肉の販売を手掛けている元ソフトバンク・江川智晃氏【写真:福谷佑介】

江川氏が販売する「一志SPポーク」を使ったグルメが今季PayPayドームに

2004年のドラフト1位でソフトバンクへ入団し、2019年に現役を引退した江川智晃氏。引退後は球団スコアラーを1年間勤めたのち、故郷の三重・伊勢市へと戻った。昨年6月に「まるとも荒木田商店」を開き、母方の家業である「一志ピックファーム」が育てるブランド豚「一志SPポーク」を販売している。そして、今季から、その豚肉がソフトバンクの本拠地PayPayドームでも食べられるようになる。

引退後に務めたスコアラーを1年で退職した。「もうプロ野球界にはなかなか戻れないですし、福岡にも戻れる機会っていうのはなかなかないなと思ったので、そこを断つのは、めちゃくちゃ勇気がいりました」。今後、球界と関わることはなくなるだろう。大好きな福岡も離れなければいけない。「ただ、変わるなら早い方がいい」。葛藤の末に、故郷に戻る決断を下した。

福岡から、ソフトバンクから離れ、地元に戻った江川氏だったが、この「豚肉」が再びソフトバンクと引き合わせてくれた。今季、本拠地PayPayドーム内の飲食店で、江川氏が扱う「一志SPポーク」を使用したグルメが作られることになったのだ。1月には球団担当者が江川氏の元を訪れ、今後の方向性などを確認。シーズンに向けて具体的なメニュー開発などを進めていくことになったという。

形は変われども、再びソフトバンクと仕事をする機会を得た江川氏。「もうめちゃくちゃ嬉しいですね。上手くいくと思ってなかったので……。また一緒にホークスと仕事ができるなんて、ワクワクしかないです」と顔をほころばせる。かつての本拠地で、応援してくれていたファンたちに、思いがこもった「豚肉」を食べてもらえる。そんな喜びに溢れていた。

江川氏と球団を再び引き合わせたのは同期入団の元投手

江川氏の「豚肉」とソフトバンクを再び引き合わせたのは“人の縁”だった。繋いだのは、江川氏と同じ2004年のドラフトで3位指名を受けた元投手の高橋徹氏だった。横浜創学館高からプロ入りし、現在は球団の事業統括本部営業本部で働く同期生とは転身後も連絡を取り合っていた。その中で「一緒にできるんやったら嬉しいな」と話しており、高橋氏は実際に球団内の担当部署に相談した。

「徹も徹で仕事があるし、ここまで本当に動いてくれると思っていなかった」。ドーム内飲食の担当部署も乗り気だった。もともと、選手のセカンドキャリア支援には積極的な球団だ。「たとえ球団を離れていたとしても、応援できるのであれば、選手のセカンドキャリアを応援したい」との想いもあり、江川氏の販売する「一志SPポーク」のメニュー化の話は昨年12月に動き出した。

「すごくありがたいお話だと感じています。本当に人と人の繋がりって、すごく大事だなと思います」としみじみと語る江川氏。15年間の現役時代の“財産”として「出会えた人にすごく満足しています」と挙げる。実直な人柄で15年間、野球と向き合い、周囲の人と向き合ってきたことで培った人の縁が、引退してチームを離れた後に、また新たな縁を生み出した。

第2の人生を歩み始めた江川氏が密かに胸に抱くようになった思いがある。「選手の中には、セカンドキャリアを不安に思ってる選手も多分いると思います。僕は選手もやって、1年ですけど、裏方もやらせてもらいましたし、今の経験というものも伝えられる。誰かが聞いてきたらですけど、そこを伝えていくのも役目かなと思っています」。これも選手のセカンドキャリアの形になる。そんな思いも持ちながら、江川氏は新たな人生を歩んでいる。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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