北朝鮮が25日と27日に発射したのは新型長距離巡航ミサイルと短距離弾道ミサイル「KN23」 金正恩氏は軍需工場視察

By Kosuke Takahashi

北朝鮮は1月25日に「長距離巡航ミサイル」を2発、27日に「地対地戦術誘導ミサイル」を2発それぞれ発射したと発表した。朝鮮労働党機関紙の労働新聞が28日、報じた。

これで今年に入って4週連続で6回目、合わせて10発の発射となった。単月としては既に過去最多の発射数となり、かつてないハイペースで発射を続けている。北朝鮮のミサイル開発は運用能力の向上や発射形態の多様化、変則的な軌道など、技術面でも実践運用面でも新たな水準に達しており、日韓など周辺国に与える脅威がぐっと増している。

労働新聞は、25日発射の2発の長距離巡航ミサイルについて、国防科学院が「長距離巡航ミサイル体系更新のための試験発射を行った」と述べ、「9137秒(約152分)飛行し、1800キロ先の目標の島に命中した」と報じた。

一方、27日発射の戦術誘導ミサイルについては、「発射された2発の『戦術誘導弾』は、目標の島を精密に打撃した」と報じ、「爆発威力が設計上の要求に満足されることが確認された」と伝えた。

北朝鮮が1月27日に2発を発射した「北朝鮮版イスカンデル」と呼ばれる短距離弾道ミサイル「KN23」(労働新聞)

「長距離巡航ミサイル」は、昨年9月11、12両日に初めて発射され、形状がアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」によく似ている新型長距離巡航ミサイルとみられる。この9月の発射時にはミサイルが楕円と8の字型の軌道に沿って、2時間以上も1500キロの距離を飛行し続け、標的に命中したと労働新聞は伝えていた。

アメリカのトマホーク(ブロック IV)(写真:米海軍)と北朝鮮の新型長距離巡航ミサイル(写真:労働新聞)

そして、27日発射の地対地戦術誘導ミサイルは、ロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の北朝鮮版(米軍コード名はKN23)とみられる。

●韓国軍合同参謀本部の発表は?

韓国軍合同参謀本部は25日、北朝鮮が同日、巡航ミサイルとみられるもの2発を日本海に向けて発射した模様だと明らかにしていた。

また、同本部は27日、北朝鮮が同日午前8時ごろと8時5分ごろ、東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムフン)市付近から日本海に向け、短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体2発を発射したと発表していた。飛行距離は約190キロ、高度は約20キロと推定された。北朝鮮は、高度を低く抑えて高速で飛翔させる「ディプレスト軌道」で発射したとみられる。迎撃側はミサイルの最大高度が低くなることから、レーダーでの探知が難しく、また飛行時間も短いため、迎撃がより困難になる。

なお、北朝鮮メディアは金正恩(キム・ジョンウン)党総書記(国務委員長)の25、27両日のミサイル発射時の立ち会いの有無については触れていない。

●金正恩総書記が軍需工場を視察

その一方、その一方、28日付の労働新聞は、金正恩氏が重要武器システムを生産している軍需工場を現地視察したと報じた。側近とされる趙甬元(チョ・ヨンウォン)党政治局常務委員と金正植(キム・ジョンシク)党軍需工場部副部長、実妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長が同行した。いつどこの軍需工場を視察したかといった具体的な日付や場所については触れられていない。

ミドルベリー国際学研究所のジェフリー・ルイス東アジア不拡散プログラム所長は28日、この工場が咸鏡南道の龍城(リョンソン)機械連合企業所内の「2月11日工場」である可能性が高いとツイートで指摘した。金正恩総書記は過去にこの地を何度か訪れている。北朝鮮では工場の名称に数字がつく場合、軍需工場を意味する場合がほとんどだ。

労働新聞に28日掲載された写真では、金正恩氏の取り巻きの一部の人の顔にぼかしが入れられている。ミサイル開発をけん引してきた金正植氏らがアメリカの経済制裁を受けたことから、他の幹部の制裁逃れの目的もあるとみられる。

軍需工場を視察する金正恩総書記(労働新聞)
軍需工場を視察する金正恩総書記(労働新聞)

労働新聞によると、金正恩氏は「朝鮮の武力の現代化と国の国防発展戦略の実現で工場が担っている位置と任務が非常に重要である」と強調し、昨年1月の第8回党大会が提示した軍需政策と方針を徹底的に貫徹するよう訴えた。

第8回党大会で示された国防5カ年計画では、今月5、11両日にも発射された極超音速兵器の開発や超大型核弾頭の生産、原子力潜水艦の保有など5つが最優先事業として挙げられた。

28日付の労働新聞は、このほか、金正恩総書記が咸鏡南道咸州(ハムジュ)郡連浦(リョンポ)にある温室野菜農場の建設予定地を視察したと伝えている。北朝鮮は2019年11月28日、この地からは短距離弾道ミサイル2発を発射した。

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© 高橋浩祐