「墓参り代行」真心込めて 五島あすなろ会 離島、コロナ禍で高まるニーズ

雑草を取り除く五島あすなろ会の利用者=五島市上大津町

 墓参りに行けない人に代わって掃除やお参りをする「墓参り代行サービス」。長崎県内でも複数の事業者が請け負っているが、とりわけ過疎・高齢化が進む離島部でのニーズは高い。五島市で事業を手掛けるNPO法人五島あすなろ会(籠淵町)の作業に同行した。

▽状況記録
 正月を控えた昨年12月上旬。上大津町の清浄寺。同会理事長の土岐寛志さん(41)はまず墓前に立ち、静かに手を合わせた。依頼者は東京在住の女性。目の前の墓には女性の父親らが眠っている。
 土岐さんは墓の周辺をスマートフォンで撮影し、状況を記録。作業員2人に作業の進め方を指示し、清掃や除草に取り掛かった。8月のお盆にも依頼を受けて訪れた場所。比較的きれいだが、それでも所々、膝元まで雑草が茂る。記者も軍手を借り、雑草を引き抜いていった。
 墓石を丁寧に拭き、水を入れ、新しい造花に取り換える。「依頼者によって、お供えする花の色も種類もさまざま」と土岐さん。依頼者の要望にはできるだけ応じるようにしている。作業開始から約30分。見違えるほどきれいになった。土岐さんがその様子を写真に収め、再び手を合わせた。
 次の現場は、車で10分ほどの距離にある松山町の墓地。土岐さんらは、墓石台を含むと高さ約2メートルの石塔を隅々まで拭き上げていった。

▽年間100件
 五島あすなろ会は就労継続支援B型事業所を運営。2015年に「墓参り代行サービス」に乗りだした。現在、年間延べ約100件を請け負う。料金は年1回コースが8千円から。お盆や年末、春秋の年間複数回のコースもあり、除草付きかどうかなどで設定は異なる。市のふるさと納税返礼品にも登録されている。
 全国の過疎地と同様、五島でも、島外に出た人が、居住先の近くの墓や納骨堂に遺骨を移す「墓じまい」が増えている。「墓参りを代行すれば五島に墓は残る。そうすれば、いずれ島に戻ってきてくれるかもしれない」。土岐さんがサービスを始めた理由を語る。
 B型事業所を利用する障害者らは普段、五島うどんを製造。代行サービスで閑散期の活動確保につながるし、「(利用者らが)屋外で活動している姿を見てもらいたい」と土岐さん。実際、障害者が作業をする様子を目にした市民から依頼が入ったケースもあったという。

▽気掛かり
 土岐さんから「完了」の報告を受け取った東京の女性は10年ほど島に帰っていない。長崎市内の親族が時折、お参りしてくれているが、古里の墓がいつも気掛かりだ。「罪滅ぼしというわけでもないが、信頼して頼んでいる。自分がお参りした気分」と話した。

掃除を終え、依頼者への報告のために写真を撮影する土岐さん=五島市上大津町

 コロナ禍の外出制限に伴う依頼もある。神奈川県の女性(60)は5年ほど前から同会の代行サービスを利用。五島市出身の夫(70)と一緒に毎年お盆に自らも墓参しているが、昨年夏は流行「第5波」で行けなかった。女性は「安心してお参りを頼むことができた」と振り返る。
 サービスは福江島が対象だが、二次離島の椛島も請け負っている。同市大円寺町の川中澄代さん(82)も依頼主の1人。
 澄代さんは奈良県出身。結婚後、夫長芳さんの地元の椛島や福江島に住んだ。その後、夫の退職後は福江島に定住。澄代さんは毎月欠かさず義父母の墓参りのため椛島に渡っていたが、夫の介護が必要となり、6年前から同会に依頼している。5年前に82歳で死去した夫も今、その墓に入る。

代行サービスの最後に手を合わせる土岐さん=五島市松山町

 椛島の思い出を聞くと、澄代さんは義父母のことをしみじみと語った。「関西から島に移り住んできた私を、自分の娘のように大事にしてくれた。今でも感謝している。お墓も大事にしないと」

 さまざまな人が、さまざまな思いで依頼する墓参り代行サービス。「大切な人が眠る墓に行きたくても行けない人がいる。依頼者の気持ちになって、真心を込めてお参りするようにしている」。土岐さんはそう言って、墓前に手を合わせた。


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