グレイステクノロジー上場廃止へ、架空売上の自転車操業が破綻

 マニュアル制作専門会社のグレイステクノロジー(株)(TSR企業コード:294306579、東証1部)が2月28日、上場廃止になる見込みとなった。過大な予算を設定し、達成に向けたパワハラが横行していた。また、売上の前倒しなど、トップダウンで架空計上が横行。取り繕った業績で株価を上げ、株式売却益で架空売上を糊塗する騙しの経営が続いていた。
 グレイステクノロジーの役職員は約40名いるが、2021年8月までの約4年間で63名もの役職員が退職している。いかに理不尽なパワハラが常態化していたかを示している。
 グレイステクノロジーは、再発防止策を策定し、上場廃止後も事業を継続する方針だ。

過大な予算設定

 1月27日に公表した「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」は、上場企業としてコンプライアンス(法令順守)意識の欠落した内容が並ぶ。
 報告書によると、幹部は機関投資家と頻繁に面談を繰り返し、成長率見込みを尋ねられると「前期(実績)比20~30%増」と説明していた。理由は「10~15%(増)と伝えると(投資家から)そっぽを向かれてしまう」から。子供じみた発想が蔓延していた。現状を無視し、機関投資家への説明に合わせるため過大な売上目標が設定された。
 営業部員からの目標売上の報告が全体の目標数値に届かないと、部員は強い叱責を受けたという。そのため、見込みがなくても引き上げた目標を報告していた。
 だが、その数字でも経営陣の目指す目標に達せず、さらに上乗せを要求された。最終的に個人目標が前期実績の2倍になるケースもあった。毎週月曜日に行われる営業会議では、数字が足りない部員に取締役から厳しい叱責・追求が行われた。報告書では、営業会議は営業部員を「詰める場」と指摘している。

グレイステクノロジー

‌上場廃止が見込まれるグレイステクノロジー(TSR撮影)

架空売上の「始まり」

 2016年3月期から期をまたぐ売上の前倒しが始まった。元会長は、経営会議や取締役会など社外役員もいる場でも、営業担当役員を激しく罵倒、叱責した。そして、叱責を受けた営業担当役員は、部下に売上目標の必達を厳命する。叱責の「順送り」がはびこる社内の様子がうかがえる。
 こうしたことを背景に、達成困難な過剰ノルマのために、納品が完了前でも受領書にサインをもらい経理担当者に提出する、ノルマ達成への異常な事態が起きていた。前倒しても売上目標の達成が困難になってくると、経営陣が関与する大規模な架空計上が始まった。正式受注に関係なく、受注があったことにする荒っぽい手口だった。
 一部は正式な受注に繋がったケースもあったが、受注できなかった場合、役職員に発行された新株予約権の行使で得た株式売却資金を顧客名義でグレイステクノロジーに振り込み、正常な入金として偽装した。
 架空売上の合計は、2016年3月期から2021年3月期までの6年間で合計23億4700万円に達した。

グレイステクノロジー

自転車操業が破綻

 売上の前倒しや架空計上で予算を達成すると、2020年12月の株価は上場来最高値の4235円まで上昇した。株価を上げ、新株予約権の行使条件を達成すると、多額の株式売却益を捻出し、架空売上の原資に投入する。地獄の「自転車操業」にはまり込んだ。これら偽装をチェックする会計監査人に対しても偽装工作した。偽装入金する顧客の本店のある都市や地方にまで赴き、当該地域の支店から送金手続きをしていたほか、顧客担当者のメールアドレスの偽造やなりすましにも手を染めた。
 2021年に元会長が急逝し、外部から不正会計の疑いを指摘されると、たちまちこの自転車操業が発覚した。報告書では、元会長の罵倒や恫喝、人格否定について、「明らかに社会的相当性を逸脱するもの」と厳しく指弾している。ただ、元会長に迎合、盲従する経営陣は架空売上を止めることができず、報告書では「上場会社の経営陣として備えるべき最低限の道徳意識も欠落していた」と断罪している。
 報告書は、最後に「社会的信頼は失墜することが避けられないが」と前置きしたうえで、元会長の当初の目的だった「日本のマニュアルを変える」という原点に立ち返って、抜本的な再建計画を早急に策定することが必要と提言している。
 経営責任の明確化や必要十分な説明責任、パワハラの根絶、内部統制の抜本的な改革など、整備の必要性を求める意見も出された。

 上場会社として信じられない経営は、投資家や株式市場への信用低下を招いた。
 グレイステクノロジーの経営再建は、容易ではないだろう。初心に立ち返り、信頼回復への積極的な情報開示が第一歩となる。だが、その前に顧客と従業員、その家族からの信頼回復のため、いばらの道を歩む覚悟が必要だ。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年1月31日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

© 株式会社東京商工リサーチ