車いすテニス界に新星「金メダル取れる」 小3で大手術、乗り越えた中学生

ショットを打つ小田さん=21年11月

 車いすテニスのジュニア世界ランキング1位が愛知県一宮市にいる。中学3年の小田凱人さん(15)。史上最年少となる14歳11カ月でその座についた。車いすテニスを始めて6年。昨年、急成長を遂げ、一気に世界中から注目される存在になった。コーチも「実力だけでなく、人間性でも金メダルを取れる器」と太鼓判を押す小田さんの素顔に迫った。(共同通信=白鳥喬太郎)

 ▽海外大会で優勝、「やばい選手になる」

 「もっと強く!」。練習拠点の岐阜インターナショナルテニスクラブ(岐阜県岐南町)のコートに小田さんの声が響く。精悍な顔つきに浮き出る大粒の汗。小田さんを乗せた車いすが縦横無尽にコートを駆け巡る。

 中1から指導に当たる熊田浩也コーチ(36)によると、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会がほぼなく「充電期間」だった。

 21年に多くの大会が解禁になると、左利きと長いリーチを武器に、格上の選手に次々と勝利。熊田コーチは「練習の成果が結果に表れた。21年4月に、1カ月の間に海外大会で3度優勝し、『やばい』選手になるといよいよ確信した」。

 ▽今日このまま入院してください

 

練習する小田さん=21年11月

 小田さんは小3になったばかりの15年5月、左脚に違和感を覚えた。「靴下も履けないほどの痛み」だったが、どうしても出たかったという小学校の運動会に参加。直後、地元の医師に勧められて受診した大学病院で「悪性の骨肉腫」と告げられた。

 「今日、このまま入院してください」という医師の言葉に絶句した。同9月、股関節に人工関節が必要となり、この関節を固定するため、左の腹直筋を太ももに移植する大手術を受けた。

 ▽テニスに「一番びびっときた」

 リハビリの日々が始まった。最も困難だったのは、左右のバランスを取ること。「きれいに歩けないし、左側をかばってもうまく歩けなかった」。フラストレーションがたまり、手術箇所の激痛に落ち込むこともあった。

 そんな中、担当医に「退院したら、パラスポーツに挑戦してはどうか」と提案され「希望を持てた」。病床でむさぼるようにユーチューブを見て「一番びびっときた」車いすテニスを始めると決めた。

 9カ月後に退院。その頃には「できることが増えて自信がついていた」。テニスの協会に電話して練習場所を探し、小4から本格的に競技を始めた。テニスは未経験だったが、楽しさは動画で感じた通り。「風を切って思い切り車いすをこぐのが気持ちいい」。すぐにのめり込み、小学校高学年、中学と成長にするにつれ、実力を伸ばしていった。

 ▽左側の筋肉がない…でもやりようはある

 とはいえ、順風満帆だったわけではない。

 左腹部の筋肉を太ももに移植した影響で、左半身を支える十分な筋肉がない。股関節も「体を倒せる角度は60度くらい」。ドロップショットにうまく対応できないなど、体が思うように動かない難しさを感じた。

笑顔で語り合う熊田浩也コーチ(左)と小田さん=21年11月

 それでも自己流で鍛錬を重ねた。手前に落とされたボールには、左脚を車いすの後ろ側に引き込むような構えで対応。左の股関節より左膝が低くなり、体を倒しやすくなった。

 この体勢は左右のバランスを保つのが難しいが、筋力や体幹のトレーニングでカバー。新たな課題に直面しても「考えればやりようはある」と前を向き続けるのが小田流だ。

 ▽インスタに上げます

 昨年12月には、トルコ・アンタルヤで行われた二つの国際大会に遠征。年齢制限のないシニアの大会だ。「優勝経験があるコートなので相性は良いはず」との宣言通り、出場したシングルス、ダブルス全ての種目で優勝してみせた。

 遠征続きの日々にもストレスはない。「トルコではケバブが気に入りました。海外の食べ物も気候も気にならないですね」。テニス漬けの日々でも、遠征での様子は「インスタグラムに上げます」とはにかみ、中学生らしい一面も見せる。

国際大会で優勝した小田凱人さん(左)=21年12月、トルコ・アンタルヤ(小田さん提供)

 この大会の結果が加点され、国際テニス連盟が1月に発表したシニアの世界ランキングで9位に浮上。国枝慎吾選手をはじめ、トップテンに入った他の選手は全員が20代以上で、10代は小田さんだけだという。

 ▽人間性も一流になって

 トップテン入りし、最上位の大会にも出場できる可能性が高まった。熊田コーチは「今年は四大大会に出たいし、十分戦える。パリ五輪でのメダル獲得も夢じゃない」と期待を膨らませる。

練習後に笑顔を見せる小田凱人さん=2021年11月、岐阜県岐南町

 中学卒業後は通信制高校に進み、遠征や練習を生活の中心に据えるつもりだが、周囲が期待するのは技術の向上だけではない。

 岐阜インターナショナルテニスクラブのオーナー呉岡勉さん(56)は「多くのファンに愛される選手になってほしい。凱人はひた向きで、その素質がある。人間性も一流になってほしい」と語る。全国に「小田凱人」の名前が知られる日ももうすぐだ。

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