脱炭素・DX時代のまちづくり――「未来まちづくりフォーラム」で革新のヒントを探る

SDGs未来都市をはじめ自治体と企業・団体による「まちづくり」を目指す「未来まちづくりフォーラム」が2月25日、パシフィコ横浜で開催される。まちづくりに関連する団体、大学関係者で構成される「未来まちづくりフォーラム実行委員会」主催のもと、後援には内閣府をはじめとする8省庁(内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)と全国知事会、全国市長会、全国町村会の地方3団体が名を連ねる。企業と自治体、関連セクターがどのように連携し、成果を上げているのか、最前線で取り組む現状を、実行委員会に語ってもらった。(松本史郎)

笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長(以下、笹谷): 「未来まちづくりフォーラム」も4回目を迎えました。今年は「日本SDGsモデルの最前線、より良き回復(Build Back Better)に向けて」というテーマで、このフォーラムが今日加速する脱炭素・DX時代において、さまざまな連携を成果に繋げていくネットワークとしての足固めの年とし、来期以降のさらなる成長に繋げたいと考えています。

実行委員会に参加している企業もそれぞれに地方や外郭団体と連携し、新たな取り組みや改革を進めていますが、今年のテーマでもある「Build Back Better」を自分たちの組織、企業がどのように捉え、いまなにを発信しようとしているのか、その現状の認識と共有をしていきましょう。

地域と共に創るテクノロジー活用

山本圭一・NTT ドコモ 地域協創・ICT推進室 第二・第一担当課長(以下、山本) : この数年は社会の変化に対するダイナミックな動きを強く感じています。弊社でも脱炭素化への流れの中で小売電力サービス「ドコモでんきGreen」の提供を発表しましたが、これは数年前まで誰も考えていなかったことです。

ドコモグループは昨年、2030年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「2030年カーボンニュートラル宣言」や、女性の登用・働き方改革、DXによる社会課題解決など、具体的な目標を明確に宣言したことで、これらが弊社の経営指標となり、活動の意義や意図に定義されました。これも社会の変化への適応であると捉えています。

弊社は数年前から、AIやテクノロジーの活用をテーマにした地域創生セミナーを全国で展開しており、2021年12月末現在83の連携協定を自治体等と結び、さまざまな地域創生の取り組みを行っています。そこで実感するのは、地域の変革において、外部の力の活用はとても重要だという点です。

例えば養殖現場では、20年近く変化が起こっていないと言われています。そこにSociety 5.0や技術革新を実装するための情報インフラは重要なファクターであり、その実装をコーディネートする役割を弊社のような企業が担うことは、ひとつの責任のように感じています。

笹谷:養殖にICTを導入するという取り組みは、昨年のフォーラムでの発表がきっかけとなり、NHKのEテレでの放映につながりましたね。やはり発信することで反応が生まれ、連携の輪が広がることは非常に大切です。昔のように「見てる人は見ている」というスタンスではなく、積極的に発信していかなければ、世界にも届かないし、若い世代にも刺さりません。

山本:養殖現場での取り組みはその後、企業・自治体等から多数の問い合わせをいただくことになり、連携の輪が広がっていることを実感しています。今回のフォーラムでは、弊社が「ライフスタイル共創ラボ」という形で進めている事例として、豊田市とタッグを組んだ「新しいヘルスケアのあり方」を発表します。弊社のAIやデバイスを使ったテクノロジーと、豊田市の実績、経験、ノウハウを組み合わせ、人々の生活が健やかに、安心できるものになるための技術検証を進めています。

笹谷:ICTを活用した地域創生の取り組みという意味では、NECネッツエスアイもドコモとは異なるアプローチで全国展開をしていますので、次は藤田さんから活動を紹介していただけますか。

藤田園子 NEC ネッツエスアイ コーポレートコミュニケーション部 部長(以下、藤田):NECネッツエスアイでは2030年以降の世界に向けて「コミュニケーションで創る包括的で持続可能な社会を目指す」ということを指標としてきました。新型コロナウイルス感染症の拡大により社会の意識や働き方が多様化する中で、コロナ以前に戻るのではなく、デジタル化の力を使いながら、新たな世界をどう描くのか、という方向へ社会は向かっていると感じていますし、弊社も全力で取り組んでいこうと決意しています。

昨年は全国に先駆けて、徳島県と一緒にローカル5Gを使ったさまざまな取り組みを行わせていただきましたが、企業の中の働き方改革で培ったものが、自治体や日本国中で適用できると実感しました。特にセキュリティは自治体が最も重要視する部分でもありますので、デジタル化や5Gを使って働き方の多様さと安全性を両立し、自治体と共に社会に実装していくことが、いま私たちが一番注力しているところです。

また、この取り組みは働き方だけに留まらず、人々が暮らしやすいウェルビーイングな「まちづくり」まで考え方が広がっています。デジタルと5G、そしてセキュリティ性を備えた「まちづくり」を通して、さまざまな課題を解決しながら、自治体と力を合わせてより良い未来創りに尽力していきたいと思っています。

笹谷:NECネッツエスアイはZoomを日本で最初に導入したり、非常にイノベーションが起こりやすいカルチャーをお持ちですよね。

いまのお話では、企業の働き方改革を「まちづくり」まで展開させている点が素晴らしいと思います。一企業から「まちづくり」までという、この展開は大事ですよね。私な二つのSが大事だと思います。Sustainability(サステナビリティ )とScaling(スケーリング)です。本業を使って創造性とイノベーションを広げていけるのが企業の力ですし、SDGsでそれを広げていくことが期待されています。

NECネッツエスアイは結果的に収益構造も向上し、経済的成果にもつながっていますが、この辺りはエコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)の田口さんのご意見も聞いてみたいですね。

本業として取り組む地方創生の課題

田口真司 エコッツェリア協会 事務局長 (以下、田口):以前から社会性、環境性をもって事業に取り組んできた企業と、そうでない企業には大きな差が生まれていると思いますし、いままで準備を進めていた企業に注目が集まるのは当然だと思います。ただ、競争優位というのもありますが、これから変わっていく、追い付いてくる企業とも一緒に社会づくりを広げていきたいですし、そういうメッセージを、このフォーラムでは伝えていきたいですね。

当日は、札幌で開業したホテルが木材や食材に地域の物を使い、地域循環型の事業を仕掛けている取り組みを紹介します。これからの「まちづくり」は、行政主導ではなく、さまざまなステークホルダーが自ら手を上げ、実施して、発信していくのだと思います。

笹谷:CSV(共通価値の創造)に取り組むにあたって、社会課題の定義と企業の動機を正当化することが難しかったわけですが、そこを客観化したのがSDGsの17の目標と169のターゲットで、これをうまく使って取り組みを明確化する、さらに田口さんのような非営利組織とコミュニケートしてプラットフォームや発信を行う、といったそれぞれの得意技をうまく生かすことが大切かな、と思います。

小寺さんはCSV発祥の頃から活動していらっしゃいますよね。

小寺徹 一般社団法人CSV開発機構 事務理事(以下、小寺):われわれの会員企業は基本的に大手ですが、コロナから一年、大手企業の存在価値、存在意義って何なのか、ということを徹底的に議論しています。

もう地方創生に大手が乗り出して何とかする、という時代ではなく、企業は次のCSVを模索しながらも、いままでと同じ考え方では根本的に地方と相容れないこともあって、ビジネスの在り方を見つめ直すタイミングに来ています。

われわれが続けてきた林産資源を活用する「まちづくり」にはカーボン・ステップの可能性がありますが、技術のみでできることはもう終わっていて、街の構造そのものを見直す必要があると示唆されています。そうなると、豊かに生きる暮らしとは何かを考えなければなりません。

社会が変化する中で、必ずしも経済的な豊かさを望まない世代も増えてきています。街で生きる住民の方、地元の企業、そして地方創生に取り組む大手企業、それぞれが異なるレイヤーにあり、それぞれに益をもたらせる「まちづくり」をしなければならない。

来春から3年の時間をかけて、川上と川下の自治体を結びつけ、脱炭素というテーマは掲げながらも、豊かさとは何か、豊かな暮らしかたとは何か、ということの一つの結論を、実証事業を通して見つけていこうと動き出しています。

笹谷:いままさに問われているのは、企業のパーパス(存在意義)ですよね。あなたの企業は何のために存在するのか、という。今年から参加された損保ジャパンもグループとして新たなパーパスを設定されましたよね。

良きパーパスが良き活動を支える

鈴木順子 損害保険ジャパン サステナビリティ推進部 課長代理(以下、鈴木):SOMPOホールディングスでは今年度から新たな中期経営計画がスタートし、「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」というSOMPOのパーパスを定めました。

損保ジャパンはグループの中核会社ですが、パーパス実現に向けて「Innovation for Wellbeing(イノベーション フォー ウェルビーイング)」というブランドスローガンを掲げ、祖業である損害保険事業を発展させつつ、その先にある安心・安全・健康の領域に生まれた新たな社会課題の解決に貢献できるよう、取り組みを進めています。

多様化・複雑化する社会課題を解決していくためには、SDGsの目標17番目でもあるパートナーシップが重要だと考えています。弊社には全国に510拠点、2万3000人の社員と4万8000店の販売代理店があり、このネットワークを生かして、それぞれの地域課題に向き合い、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。

中でも自治体との連携協定は、現在200を超える自治体との締結を行っていますが、ここ1~2年で、連携協定をさらに進めた形で何ができるのか、という動きが増してきています。
また、パートナーシップという観点で言うと、弊社は早くからNPOとの協働で社会貢献活動を進めており、その実績は現在まで300を超えるものになります。

今回のフォーラムでは、自治体との連携協定の中からどんな事例が生まれているか、そして自治体の方や現地で取り組む社員の声なども拾い上げて、より具体的なお話を伝えられればと思っています。

笹谷:ウェルビーイングという概念は、実はSDGsの国連合意文書の総論の中にも「精神的、肉体的、社会的ウェルビーイングが達成された社会を目指す」という形で記載されていますよね。そういう明確な目標の下で制定されたSDGsなのだということに改めて立ち返ると、損保ジャパンの「イノベーション フォー ウェルビーイング」というスローガンがこれにシンクロしていることが、より鮮明になります。

金子知生・日本製紙 バイオマスマテリアル事業推進本部 バイオマスマテリアル・コミュニケーションセンター センター長(以下、金子):弊社でパーパスに当たるのは「世界の人々の豊かな暮らしと文化の発展に貢献します」という理念です。昨年、2030年を目指したビジョンを掲げ、そこからバックキャスティングして、さまざまな取り組みを進めています。

弊社のコアコンピタンスは森林資源の保有、活用、創造になりますが、特に「3つの循環」を維持することが世界に役立つ企業としての活動だと考えています。1つ目は「森林資源の循環」で、これは伐採量と同等かそれ以上の植林により、資源が枯渇しないようにすることです。2つ目は「木から作られる製品の循環」で、カスケード型(数珠つなぎ)に木材を余すことなく活用し、需要と消費をなくさないことで、ビジネスを護り、植林も減らさないための大切な循環となります。そして、3つ目が「使い終わった紙の循環」で、油で汚れたり防水加工された紙もリサイクルできるようにすることで、森林資源の大きなライフサイクルを繋げ、世界に貢献していきたいと思っています。

いま弊社が注力しているものの一つが地方自治体や外郭団体、地域の食品事業者と連携したSDGs型の商品開発です。このキーとなっているのが、サステナブルなオーガニック素材「セルロース・ナノファイバー」になります。セルロース・ナノファイバーは環境省が作成した第五次環境基本計画の中でもイノベーティブなものづくりを支える新素材として挙げられています。この素材を使って世界に通じるSDGs型のブランド商品を作り、地産地消、地産多消を超えた「地産世消」に向かいませんか、と訴求していきたいと考えています。

笹谷:環境省の描いたビジョンに自社独自の技術で作られた素材が登場するというのは素晴らしいですね。世の中に良いパーパスを持って事業に取り組んでいるところには、どんどん焦点が当たってくるということなんですね。

コラボレーションの芽を発見することもフォーラムの重要な役割

笹谷:ここまでみなさんにお話を伺ってきて、脱炭素、デジタル技術、ウェルビーイングと、Build Back Betterに向けたキーワードが見えてきたと思います。

今回のフォーラムでは、社会をより良い未来に向かわせる5つの変革、カスタマーエクスペリエンス(CX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、エンプロイーエクスペリエンス(EX)、グリーントランスフォーメーション(GX)、ヒューマントランスフォーメーション(HX)この5Xを総合したサステナビリティトランスフォーメーション(SX)に対して何らかの提示があれば良いと考えていましたが、それぞれ該当する話題が出ていたので、当日も有意義な講演を期待できると思います。

ただ、その実現となると、どれも一社では難しいものです。そのためのコラボレーションの芽を発見することもフォーラムの重要な役割となります。本日お互いの話を聞いた上で、企業のみなさんから改めて、パートナーシップという観点で感じたことをお聞かせください。

単独での取り組みからパートナーシップへ

鈴木(損保ジャパン):社会課題は地域ごとに違いますし、それぞれの課題を解決するために誰とパートナーシップを組むのかを考えることは必要だと思います。弊社の場合は、弊社が地域の起点となって、自治体や地域の企業、NPOなどとラウンドテーブルのような形を作り課題解決に取り組む動きが始まっていて、地域連携や地域で活動されているみなさまとも、そういったところで協力し合える可能性があるのではないかと思っています。

金子(日本製紙):弊社の場合は、日本各地の工場が地域との連携拠点となっています。熊本県八代市に工場がある関係でセルロース・ナノファイバーを使った商品開発を熊本県で行っています。ですので、工場の立地でみなさんにご協力できることがあれば、ぜひお声がけいただければと思いますし、逆に工場を持たない地域で、どのように地元のキーマンと繋がっていくのか、ノウハウやアドバイスを教えていただけると嬉しいです。

山本( NTTドコモ):みなさんのお話はとても勉強になりました。損保ジャパンさんとは本業の通信事業で良好な関係を築けていると聞いています。われわれも全国に拠点がありますので、地域への取り組みというところでも、何かお役に立てる部分があれば、ぜひ一緒に協業していきたいですね。

藤田( NEC ネッツエスアイ):私たちは「共創」が未来を切り開いていく力になると思っています。企業が得たものを自分たちの競争力のみに使うという時代ではなく、開放してみなさんと一緒に共有し、次の新しい価値を一緒に生み出していく、というのがあるべき形ではないかと思います。みなさまのお話を伺い、これから一緒にできることが広がっていくことを期待しています。

笹谷:「まちづくり」という意味では、例えばデジタル田園都市構想などは、みなさんの話を組み合わせたようなものです。言い換えれば、みなさんの力を発揮する余地は十分にありますし、そのキーワードはサステナビリティとウェルビーイングでSDGsの狙いとシンクロしています。そして、企業間のアライアンスも大いに必要となります。こういう場から、そのようなコラボレーションが生まれてくることを期待したいと思います。

企業・組織が持つ資源を課題解決の力に

小寺(CSV開発機構):CSVとなった時に、われわれが一番苦労するのは企業のビジネスのスケール感です。大手企業にとっては引き出しに眠っているようなものを出していただけるだけでも、地域はいくらでも動きますし、それをA社のできること、B社のできること、と組み合わせていけば、企業に負担もかからず、地域は非常に喜ぶ、という形を作っていけます。

「未来まちづくりフォーラム」には、大手企業同士が本気でコラボレーションを実現した、社会課題の解決とビジネスを両立させた、という実例が生まれる事を期待したいですね。

田口(エコッツェリア協会):地方創生の中で、地域で活動する個人はたくさんいますし、動きも早いのですが、それが全体の大きな力にはなっていません。そこには組織の力が必要ですが、東京資本の企業は地域から都合の良い時しか来ないと思われているケースも非常に多いので、その信頼関係を再構築することと、すでに地域で活動している個人の動きや仕掛けに企業が上手く乗ることで、組織と地域が繋がり「まちづくり」を進めていけると思っています。

いまわれわれが仕掛けたいと考えているワーケーションの場合、ワークスペースと少しのバケーションしか接点がなく、地域との繋がりが生まれにくいという課題があります。例えば日本製紙さんの工場があって、その一部を開放して他社の人も訪れるようになると、地域との交流や繋がりも生まれたり、またあるいは高校や大学がない地域であれば、工場や企業の拠点は、子どもたちが仕事や働くということを学べる場にもなります。そんな話を、ぜひみなさまと掘り下げていきたいです。

笹谷:企業・組織の持つ資源や経済力は社会課題を解決する大きな力となります。

一方で、課題自体や地域に関わる構造の複雑化・多様化により、大手であっても一企業で取り組んでいく時代はもう終わったといえるでしょう。

コロナの混乱以降、大きく変わった社会をより良き明るい未来に繋げるためには、企業、自治体、団体、あるいは個人も含めて、ネットワークとコラボレーションによる連携・協働が不可欠であり、その指針を提示するのがSDGsなのだと思います。

CSVも含めて、企業は本業として取り組む以上、社会性・環境性だけではなく収益化も実現しなければいけません。「未来まちづくりフォーラム」を発信の場、コラボレーションの場として大いに活用していただき、企業が取り組む「まちづくり」の良き実例が生まれ、後に続く多くの企業へと繋がり、団体の活動も活性化していく。そのような唯一無二のフォーラムを目指す設計を工夫します。これからも実行委員のみなさまのお知恵をお借りしていきたいと思います。

取材場所の提供:エコッツェリア協会 3×3 Lab Future

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