【高校野球】手術後も「自分と向き合う時間に」 花巻東・佐々木麟太郎の16歳らしからぬ風格

選抜出場を決め取材に応じる花巻東・佐々木麟太郎【写真:荒川祐史】

2009年の選抜準優勝を見て「花巻東のユニホームを着たい」と志す

小学1年生の時からの夢。それは「花巻東で日本一」になること。花巻東注目の1年生スラッガー・佐々木麟太郎はその挑戦権を手に入れた。第94回選抜高校野球大会の出場校が28日に決定した。しかし、昨年12月に胸郭出口症候群の手術を受けた麟太郎はまだ送球もスイングもできていない状態だ。間に合うかどうかは今後のリハビリの経過次第。不安や焦りがあるにもかかわらず、表情に一点の曇りはない。2005年生まれの16歳は終始、堂々としていた。【楢崎豊】

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地面には雪が積もり、冷たい風が吹き抜けた花巻の地。ナインは上空に向かって帽子を投げて、喜びを表現した。麟太郎にとっての初の甲子園切符。4歳の頃、菊池雄星(マリナーズFA)を擁して準優勝した2009年春の甲子園を見た時から「花巻東のユニホームを着て、日本一になりたい」と夢見て、小学1年生で野球を始めた。「とにかくうれしいです」と微笑んだ。

懸念点はまだキャッチボールや打撃練習ができず、リハビリ中であること。2月中旬からの再開を目指している。腕のしびれや脱力感といった胸郭出口症候群の症状は中学時代からあり、この時期を見込んで、両肩の手術、入院の計画を立てていた。全治は3か月程度。現在はその症状は消えているが、選抜開幕まではギリギリのラインとなる。

父でもある佐々木洋監督は「大会に間に合うかどうかはまだわからないですけど、田代(旭・2年)や他の子たちが力をつけてきているので、カバーしてくれるのではないかなと思います。早く治して戦力になってほしいなという思いです」と現状を説明した。その言葉から、麟太郎だけに頼るチームではないことがうかがえる。

麟太郎は「もちろん焦りもあるし、不安もあるんですが……」と正直な気持ちを明かしたが、選抜に「間に合わせたい」とは言わなかった。

「このタイミングを見て(手術を受けることを)決断したので、まずは治して、自分と向き合いながらやっていきたいと思います。監督さんもから『体と向き合って、調整していけばいい』という話をいただいているので、しっかりと治していきたいです」

選抜出場を決めて喜ぶ花巻東ナイン【写真:荒川祐史】

入院中は神宮大会などの試合映像をチェック、見えてきたものがある

憧れ続けた甲子園。出たくないわけがない。肩の可動域を広げるリハビリや下半身トレーニングをする視線の先では仲間たちがボールを追いかけている。「仲間が日本一に向かって練習している姿を見て、自分も頑張らないといけないと思います。そこが支えになっています」と刺激を受けている。入院先では、神宮大会の映像をチェック。これまでは技術を追い求めてきたが、客観的に自分のプレーを見る時間ができ、野球の見方、考え方に変化が出てきた。

「振り返る時間というものがそう多くはなかったので、課題が見つかったり、反省することができています。まだまだ改善していかないといけないところが多くあります。打撃の精度、変化球の対応、しっかりと追い求めてやっていきたいです」

ひとつひとつの言葉を丁寧に用いて、気持ちを表現する姿は16歳とは思えない。漂うプロ野球選手のような風格に驚かされた。患部の細かい説明を報道陣から問われても的確に回答し、胸郭出口症候群のことを頭で理解し、治療法について勉強していることが伝わってきた。

だからこそ、焦りが生む危険についても理解しているのだろう。周りが期待するのは、怪物1年生の本塁打かもしれない。だが、麟太郎は「本塁打は自分のひとつの武器であるのかもしれませんが、まずはチームのことに徹することが一番です」と個よりも和を強調していた。

もしかしたら、十分に調整できず、本調子ではない状態で甲子園の開幕を迎えるかもしれない。たとえ、そうだとしても、麟太郎は野球人として、未来への収穫を見つけ、チームに貢献するプレーで頂点を目指すだろう。監督が伝えた「自分と向き合いながら」という言葉に、今回の試練を乗り越える方法が記されており、それが成長の後押しとなる。高校通算50本の怪物1年生の魅力はその放物線だけではない。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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