早生まれの方が将来大成する? 誕生月で見るプロの傾向と少年野球で考えるべきこと

東京農業大学・勝亦陽一准教授(左)【写真:本人提供】

プロ選手数は4~6月生まれが最多も、結果を残す確率は1~3月生まれがトップ

生まれた月によって、野球少年の将来は決まってしまうのか。プロ野球選手に多い誕生月は確かにあり、少年野球では顕著な傾向が出ている。この興味深いテーマを掘り下げているのが、東京農業大学の勝亦陽一(かつまた・よういち)准教授。勝亦氏は現在の少年野球の仕組みを変える必要性を訴えている。

プロ野球選手に多い誕生月はあるのか――。勝亦氏は野球の競技成績と生まれ月の関連を研究してきた。約2000人のプロ野球選手を分析した結果、2つの結果が導き出された。

1.プロ野球選手は4~9月生まれが多い
2.プロで結果を残す確率は10~3月生まれが高い

勝亦氏のデータでは、1年を3か月ずつに分けるとプロ野球選手数が最も多いのは4~6月生まれで全体の約35%を占めた。次いで7~9月生まれの約30%、最も少ないのは早生まれの1~3月で約15%だった。つまり、プロ野球選手になる確率は誕生月の早い方が高いという結論が出た。

一方、タイトル獲得者やベストナイン選出者になる確率が最も高いのは1~3月だった。10~12月が続き、プロ野球選手数の割合と逆の傾向が表れた。この結果について勝亦氏は「同学年の中で誕生月が早い選手は遅い選手よりも早熟。才能を過大評価されてプロに入った可能性があります。10~3月、特に早生まれの選手数は少ないですが、突出した能力があったのでプロ入りし、活躍していると考えられます」と分析した。

勝亦氏は少年野球まで関連性を掘り下げている。高校生、中学生、小学生と年齢の若いカテゴリーになればなるほど、生まれ月が選手に与える影響は色濃く表れる。少年野球の場合、生まれ月による選手全体の割合に大きな差はない。最も多い4~6月生まれは26.9%、最も少ない1~3月生まれは22.5%と、日本人平均の25%に近い値となっている。ところが、全国大会に出場した選手数の割合は4~6月が45.2%で、1~3月は6.4%と大差が生まれる。そして、地域等の選抜チームに入る選手では、4~6月生まれは全体の半数以上となる56.1%で、1~3月生まれは4.2%まで下がる。

子どもたちに野球の魅力を伝える東京農業大学・勝亦陽一准教授(左)【写真:本人提供】

顕著な早生まれの子どもの野球離れ、仕組み作りが急務

この結果、何が起きるか。1~3月生まれの子どもたちは野球から離れていく。野球選手数の割合は4~6月生まれが小学校、中学校、高校と高くなっていくのに対し、1~3月生まれは小学校で22.5%、中学校で19.6%、高校で17.8%と下がっている。勝亦氏は次のように説明する。

「年齢が低いほど発育に差があります。同学年の中で生まれ月が早い子どもは体が大きいため、試合に出場する機会が多くなります。一方、1~3月生まれの子どもは試合に出られず、達成感や楽しみを得られないので野球をやめていきます。同学年の中で優劣を決めると、どうしても早く生まれた子どもが、いい経験をする傾向が高くなります。これは、才能の違いではなく、成長の度合いが原因です」

生まれ月によって成長に差が生まれることを指導者や保護者が知っておかないと、野球を楽しむ、才能が開花する前に野球をやめる子どもたちが増える不幸な結果を招く。少年野球の技術の差は、持っている力の差ではなく、単に成長のスピードの差である可能性が高いためだ。

そこで、勝亦氏は「試合をする限り、勝利を求めるのは当然です。チーム単位では限界があるので、勝利のみを求めてしまう現在の仕組みを変える必要があります。例えば、連盟に登録されている選手を、生まれ月や体格によってチーム分けして試合することで、出場機会の偏りをなくすことができます。地域や連盟で協力してリーグ戦を取り入れれば、チームの勝利だけでなく、個人の成績を評価することもできます」と訴えている。

トーナメント方式では、どうしても勝利至上主義になり、その時点で力のある選手に出場機会が偏ってしまう。勝亦氏と同じ考え方を持つチームは増えつつあり、選手の成長の度合いに合わせたチーム編成をしているところもあるという。「生まれ月の影響を指導者や子どもが把握するだけでも現状は変わってきます。子どもが希望に合うチームに入るのが理想です。新しい考えを持ったチームが増えて、子どもの選択肢が広がるのは好ましいことです」。

生まれた月によって才能に違いはなく、未来の可能性も変わらない。同学年の中で生まれ月の遅い子どもたちが不利になったり、誤って能力を見切ったりしないように、成長や可能性を妨げない仕組みづくりが大人たちの責任となる。(間淳 / Jun Aida)

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