世界的に有名な“侍姿のサポーター”誕生秘話 「最高の環境」カタールW杯の現地事情と被災地支援の輪

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スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太とスポーツキャスターの秋山真凜がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回はWebメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長が今一番気になるアスリートやスポーツ関係者にインタビューする「岩本がキニナル」のゲストに、ちょんまげのカツラと甲冑姿をトレードマークに世界中を巡るサッカー日本代表の名物サポーター・ちょんまげ隊長“ツンさん”が登場。今年11月に迫るFIFAワールドカップ・カタール大会の現地情報や長年サッカーを通して行ってきたボランティアなど、サポーター活動のリアルを語る。

(構成=篠幸彦、写真提供=ツンさん)

世界的に有名な“侍姿のサポーター”誕生秘話

岩本:ツンさんはちょんまげのカツラと甲冑を着た侍姿で日本代表を応援する名物サポーターで、さまざまな国のメディアにも取り上げられる世界的にも有名なサポーターなんです。

ツンさん:2008年の北京五輪からなので、もう14年ほど侍の格好で応援し続けています。

五十嵐:その格好を始めたきっかけはなんだったんですか?

ツンさん:最初はおとなしく、日本代表のユニフォームを着て応援していました。でも北京五輪で他国のサポーターを見たら自国にちなんだいろいろなコスプレをしている人がたくさんいたんです。そこで日本人のアイデンティティは何かと考えた末にたどり着いたのが侍でした。

五十嵐:当時はここまで反響があると思っていましたか?

ツンさん:どんな反響があるのかは、今もあまりわかっていないんですけど、地道に14年もちょんまげ姿でやっていると世界のサッカー界で知り合いが増えていきましたね。その中でFIFAに特集されたこともあったり、去年の11月から12月にかけてFIFAに招待されて今年のワールドカップ会場となるカタールに行きました。そういう反響はありましたね。

岩本:さらっと言いましたけど、これはすごいことなんですよ。

秋山:カタールに招待されるというのはどういうことですか?

岩本:今年の11月にFIFAワールドカップ・カタール大会が開幕しますよね。それを盛り上げるためのプレ大会となる「FIFAアラブカップ2021・カタール」が昨年の11月から12月にかけて開催されて、そこにツンさんは招待されたんです。日本を代表してというより、東アジアではツンさん一人だけだったんですよね?

ツンさん:そうですね。中国、韓国、日本から唯一招待されて、他の39カ国の名物サポーターと一緒に1週間、プレ大会の企画に参加してきました。

五十嵐:それはものすごく濃いメンバーが集ったんでしょうね(笑)。

ツンさん:僕のちょんまげと甲冑姿なんてひよっこに思えるコスプレだったり、世界的に有名なコロンビアやメキシコの名物サポーターだったり、フォロワーが35万人の有名なブラジル人サポーターだったり、ツワモノぞろいの中にひっそりと混じっていました。見る人が見たらコスプレ大会だと勘違いするくらい個性的な集団でしたね。

五十嵐:ツンさんはいつもどおりのスタイルで行ったのですか?

ツンさん:ちょんまげは新調していきました(笑)。よく有名人に会った時はひざまづいて「ちょんまげにサインしてください」とお願いするんですけど、今のちょんまげのてっぺんには元オーストラリア代表のティム・ケーヒルさんのサインが輝いています。

岩本:日本代表との試合で通算5得点を挙げていて、日本代表の天敵といわれた選手ですよね。

ツンさん:今は引退されてカタールワールドカップのアンバサダーを務めています。プレ大会では僕たちをもてなすホスト側だったので、調子に乗ってちょんまげにサインをお願いしたら笑ってサインしてくれました(笑)。

ワールドカップ“ファンリーダー”が語るカタール情報

岩本:プレ大会に招待されたツンさんたち各国のサポーターは、今回のワールドカップではどのような立場なんですか?

ツンさん:“ファンリーダー”という肩書になります。例えば五十嵐さんはカタールや中東というと、どんなイメージがありますか?

五十嵐:ぱっと思い浮かぶようなものがないですね。

ツンさん:ハワイやイギリスのように誰もが明確にイメージできるものがないかもしれないですね。例えば中東のイメージでいえば、治安が不安という面はあると思います。そういうマイナスなイメージを払拭して、ワールドカップを一緒に盛り上げるためにSNSで情報を発信していくのがファンリーダーになります。

秋山:カタールは実際に行かれてどんな国でした?

ツンさん:カタールは世界最大級の天然ガスの生産量を誇っているんです。それに対して人口が約280万人なので、ものすごく裕福な国なんです。治安も安全で、街並みは高層ビルがものすごくたくさん建っていて、みなさんが抱く中東のイメージとは違う国だと思います。

岩本:私もカタールには4回行ったことがあるんですけど、本当に過ごしやすい国ですね。カタールは宗教的な理由で、普段はホテルの一部でしかお酒を飲めないんですけど、ワールドカップ開催時は飲めるようになるんですよね?

ツンさん:ワールドカップの時は特別にツーリストエリアをつくって、お酒が飲める場所を設けるといっていました。昨年招待された時にそういうレクチャーを受けたので、SNSでそういったことも発信していきたいと思っています。

過去最高に快適なワールドカップ!? カタールの驚きのインフラ整備

五十嵐:ワールドカップ開催となると、スタジアムもそうですけど、いろいろなものが整備されているんでしょうね。

ツンさん:そうですね。プレ大会の時は4年前にはなかった地下鉄が整備されていました。新しいスタジアムも7つ建っていて、8つあるスタジアムがすべて地下鉄でつながっています。

岩本:今までのワールドカップと一番違うところですね。極端にいうと、1日に3試合を観戦できる可能性があるんです。通常のワールドカップは会場が離れているので、1日に1試合しか観ることができませんでした。

五十嵐:スタジアムの距離もかなり近いんですね。

ツンさん:かなり近いです。世界最新鋭の8つのスタジアムはすべて30〜40km圏内に建っているんですよ。

岩本:つまりすべてタクシーでいけるレベルということです。

ツンさん:実際にプレ大会で13時、16時、19時キックオフの試合をはしごできるのか実験してみたら本当にできました。

秋山:それはわかりやすいですね。

ツンさん:ワールドカップの歴史は長いですけど、過去最高にコンフォータブルな大会だと思います。

岩本:私も1998年のフランスワールドカップから毎大会取材していて、64試合ある1大会中に最高で25試合を取材したことがあります。これでもかなりすごいと思うんですけど、今回のカタールはこの数字を超えられると思いますね。

五十嵐:でもそんなに見たいものですか?

岩本:一般の方は仕事をそんなに休めないので、3泊5日とか、4泊6日とかで行くわけです。だからその中で1試合でも多く見たいと思うんですよ。

ツンさん:前回のロシア大会、前々回のブラジル大会は、とにかく移動距離が長くて60時間かかる場合もありました。移動するだけで疲れていましたね。それがタクシー1本で行ける距離というのは、サッカー好きにとっては最高の環境なんです。

五十嵐:そう聞くと、確かにサッカー好きには最高ですね。

「全然足りない!?」気になるカタールのホテル事情

ツンさん:一つ不安なのが、秋田県よりやや狭い面積の国で、かつ、人があまり移動しないのでホテルが取れないという心配があります。でもFIFAに聞いたら「これから豪華客船を何隻か用意して、5000室のホテルを用意するし、砂漠はいくらでもあるからそこにファンキャンプをつくるので、サポーターを困らせることはない」と断言してくれました。

岩本:8つのスタジアムで、平均4万人収容したとすると約32万人になりますよね。それだけで部屋は足りますか?

ツンさん:6万室しかないといわれているので、32万人は泊まれないと思います。

五十嵐:全然足りないじゃないですか(笑)。

ツンさん:それでもFIFAのレギュレーションである6万室は満たしているんですよ。一部屋に3〜4人で泊まったり、民間のマンションを借りたり、カタール周辺国のホテルに泊まるという選択肢もあります。

岩本:ヨルダンのホテルが対応するという話は聞いていますね。

ツンさん:それからドバイには高層マンションがたくさんあって、そこがエアービーアンドビー(Airbnb/バケーションレンタルサービス)で使えるということなので、なんとかなると思います。ただ、安くは泊まれないということだけは覚悟しておいてもらいたいですね。ブラジルやロシアでは大会終盤になって、泊まる人が少なくなるタイミングに一泊3000円で泊まれたこともありました。でもカタールではそういうことはないと思います。

五十嵐:一泊いくらくらいになりそうですか?

ツンさん:おそらく3〜5万円で泊まれると思います。でもそれは一部屋のルームフィーなので、仮に3人で行動すれば一人1万5000円程度で泊まることはできます。会社を5日間休んで、世界最高峰のワールドカップを10試合観戦できると思えば、サッカー好きにはめちゃくちゃ楽しい大会になると思います。ただ、あまり予算がない人には厳しい大会になるかもしれないですね。

岩本:東京五輪はコロナ禍でなければ一泊10万円以上といわれていたので、それと比べれば富裕層が暮らすカタールで一泊3万円というのはかなり抑えてくれていると思いますね。

ツンさん:その代わり、ブラジルや南アフリカと比べて、治安がものすごくいいというのは大きなポイントだと思います。女性が夜に一人で出歩いても問題がないくらいです。カタールは人口が少ないことと、国として軍隊や警察を治安維持にかなり動員しているので、僕が今まで行った国の中で一番安全だと思います。

岩本:それは本当に助かりますよね。ブラジルや南アフリカも行きましたけど、どちらも命懸けでした。

ツンさん:南アフリカは本当に命懸けでしたよね。

五十嵐:海外で夜に一人で出歩くなんてまず考えられないですよ。

ツンさん:プレ大会の夜に花火のイベントがあったんですけど、そこに地元の人たちやカタールで働く外国人たちが子どもを連れて来ていたんです。夜9時や10時にそういう光景を目の当たりにして、肌感覚として安全だと感じることができました。

“ちょんまげ隊”が続ける支援活動への思い

五十嵐:岩本さんとツンさんは昔から知り合いだと思うんですけど、どのような関係なんですか?

岩本:ツンさんとは10年以上の付き合いなりますが、関係値が深くなったのは2011年の東日本大震災の時です。ツンさんがサポーター仲間の“ちょんまげ隊”で被災地の支援活動と、活動報告を世界中で行っていたんです。その支援活動が素晴らしいと思い、「キャプテン翼」の作者である高橋陽一先生と一緒に一部サポートするようになったのがきっかけです。

秋山:そういったボランティア活動もされていたんですね。

ツンさん:今ではちょんまげ隊の本業であるサポーターよりもボランティアとしての活動のほうが有名になりました。去年も熊本県で水害があった時に30回くらい現地に行かせていただきました。それからこれは高橋先生と岩本さんにすごくお世話になったんですけど、8年前のブラジルワールドカップから継続して、被災地の被害の大きかった地域の子どもたちをワールドカップに招待するという活動もやらせていただいています。

岩本:毎回その活動が実現していて、本当に素晴らしいと思います。今回もやるんですか?

ツンさん:やります。プレ大会の時に招待企画が終わった後、自費で5日間カタールに残って現地の日本人会と日本人学校の会長から全面協力の約束を取りつけて帰ってきました。

五十嵐:素晴らしい取り組みですね。

ツンさん:それがサッカーであっても、野球であっても、やっぱりスポーツというのは人をすごく元気づけると思うんです。だからスポーツを通した被災地支援というのを10年以上続けています。

岩本:そうした支援活動の中で、「MARCH」という福島県の子どもたちを描いたドキュメンタリー映画がありますよね。

ツンさん:この10年で一番頑張ってきたのは、福島原発の近くの子どもたちへの支援です。福島は今でも大変な地域があって、そこでマーチングバンドをやっている小学生たちに演奏できる機会をつくってあげたいと思ったんです。その時にJリーグの愛媛FCが子どもたちを招待してくれて、その様子を映画にしようと思ったんです。

五十嵐:普通の支援だけじゃなくて、すごくスケールが大きくなってきましたね。

ツンさん:でも映画は予算もかかるし、一筋縄ではいかないことがたくさんあるんです。そこで「プライドinブルー」「アイ・コンタクト」「蹴る」など障がい者サッカーを題材にしたドキュメンタリー映画を手掛けられてきた中村和彦さんに監督にお願いしたり、岩本さんにプロデューサーになってもらったり、本当にいろいろな人に協力してもらって制作したのが「MARCH」なんです。

岩本:海外の映画祭で賞ももらいましたよね?

ツンさん:ロンドンの小さな映画祭ですけど、最優秀賞をもらいました。それが話題になって、フランスのニースの映画祭でも最優秀賞をもらえました。

“靴屋を経営するおじさん”はなぜ支援に奔走するのか?

五十嵐:本当に素晴らしい活動をされていますけど、ツンさんはもともと何をされている方なんですか?

ツンさん:もともとは千葉県の松戸で靴屋を経営するおじさんです。

五十嵐:靴屋さんからサポーターになって、そこからここまで活動を広げられたんですね。もともと靴屋をやりながらそういったことをやりたいと思っていたんですか?

ツンさん:じつはそれまでボランティアをやったことがなくて、10年前まではボランティアなんて嘘くさいと批判する側にいました。東日本大震災の3月11日も最初は何も動こうとしませんでした。でも東北で被災した子どもたちの「靴がない、着るものがない」という情報がネットに上がっていたんです。それで自分は靴屋なので、もし自分の家に靴がたくさんあったらどうします?

五十嵐:被災した方たちに靴がないのならお渡ししたいと思いますね。

ツンさん:そうですよね。僕みたいな体たらくな人間でも一度くらいなら偽善をやってもいいかなと思って、600足の靴をトラックに積んで福島の塩釜などの避難所に200足ずつ置いて回りました。一度の偽善のつもりがお調子者だから「また来週来ます!」と言っちゃって、気がついたら今に至るという感じですね。

五十嵐:自分で偽善と言ってしまうところがかっこいいですね。本当に素敵だと思います。

岩本:では最後になりますが、ツンさんが今後サポーターとして行っていきたい取り組みはありますか?

ツンさん:サポーターというのは、まさに名前のようにサポートをすることだと思っています。スポーツで頑張っている人たちも応援しますけど、そこでできた仲間をいい意味で利用させていただいて、障がい者支援だったり、被災地支援だったり、困っている人たちに対して何かサポートして、それでまた自分も気持ちよくスポーツを応援したい。その循環をつくっていきたいと思っています。

<了>

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