焼き物初心者必見、片桐仁とともに学ぶ“磁器・古伊万里”の楽しみ方

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。11月6日(土)の放送では、「戸栗美術館」で古伊万里の魅力に迫りました。

◆古伊万里とは…江戸時代に生まれた日本初の磁器

今回の舞台は東京都渋谷区・松濤にある「戸栗美術館」。ここは実業家・戸栗亨が収集した美術品を公開するため、1987年に創設した日本でも数少ない陶磁器専門の美術館。伊万里焼や鍋島焼などのほか、東洋陶磁を中心に約7,000点を所蔵しています。

片桐は、そんな戸栗美術館で開催された「古伊万里の重さを見る展覧会」へ。古伊万里は実用品だったこともあり、この展覧会では作品の重さも鑑賞のポイント。同館の学芸員・小西麻美さんの案内のもと、まず注目したのは「色絵 瓜文 皿」(江戸時代・17世紀中期)。

そもそも古伊万里とは、江戸時代に作られた伊万里焼のこと。現在の佐賀県と長崎県の一部にあたる肥前国で作られていた磁器で、陶器は陶土が原料ですが、古伊万里は陶石と言われる石を主な原料として作られた日本初の磁器。

そんな古伊万里は年代によって特徴があり、例えば、初期のものは白地に一色のものが多く素朴。そして、徐々に鮮やかで繊細になっていきます。そうした特徴を抑えておくことで、製作時期を推測できます。

この「色絵 瓜文 皿」の特徴としては、濃厚な絵付けの色彩。緑や黄、青の発色が美しく出ており、片桐は「周りの渦巻きみたいなものがすごいですね……」、「小さな丸がいっぱい。よくよく見ると狂気を孕んでいる」とその緻密な絵に感嘆。さらには「これは鯛の尾頭付きとかね、大皿でみんなで食べるようなものを置いたんじゃないか」とその使用法に思いを馳せます。こうして想像するのも焼き物の楽しみ方のひとつです。

続いては「染付 楼閣山水文 鉢」(江戸時代・17世紀前期)。その色味の少なさから初期のものだとわかります。ただ、「これはこれで味わいがありますね。特にド派手なものを見た後だと。料理を入れてもいい感じがしますね」と片桐。

実はこの作品の見どころは裏面にあり、そこにあるのは当時の陶工たちの指の跡。「指の跡がついてしまってもいいんですね!?」と片桐は驚いていましたが、この時代はOKだそう。なお、これは小物のわりに厚みがあり、重さは2.4キロ。この厚みが初期の特徴でもあります。

次に「色絵 魚藻流水文 鉢」(江戸時代・17世紀中期)を見ると、「この魚は変ですね。絵付けした人は(魚を)見たことあるのかな!?」と率直な感想を述べます。藻が水流を表現し、その流れに逆らって泳ぐ魚からは力強さが感じられるも、顔はなんとも独特。

そして、中期の作品とあって色合いは濃厚で「染付 楼閣山水文 鉢」とサイズ感は同等ながら、重さは1.6キロと軽くなっています。それは厚みの差で、それがすなわち技術の進化だと小西さん。

◆古伊万里の人形に反映されるは当時の流行の最先端

お皿に続いては、古伊万里の人形。「色絵 人形(若衆)」、「色絵 人形(町衆)」(江戸時代・18世紀前半)。

17世紀後半になると、古伊万里はオランダに輸出され、ヨーロッパの王侯貴族などの間で人気に。そのため実用品だけでなく室内装飾用のものも作られるようになりました。この人形はまさに輸出向けに作られたもので、デザインも大柄で、大胆な文様の作品が多く見られます。

片桐が「これはいいですよ!」と興味を示していたのは「色絵 鯉人形」(江戸時代・18世紀前半)。鯉にしがみつく人間の必死の表情が特徴の造形が面白い作品です。鯉が滝を登り、"出世したい”との思いが垣間見え、そうしたストーリー性も面白みのひとつだとか。

そして、「色絵 ういろう売り人形」(江戸時代・18世紀前半)。"ういろう”とは和菓子ではなく、外郎家が作り続けてきた薬「外郎」のこと。これは輸出向けの作品とは趣が異なり、国内向けの人形だそうで、おそらく歌舞伎で外郎売りをやった役者をモチーフとした、いわゆる受注生産のファングッズだろうと解説。

さらに、江戸時代でいうと超絶美人が模された「色絵 婦人像」(江戸時代・17世紀後半)。一重でシュッとした目が美人とされるなど、今とは美的感覚が全く違い、そこには髪型や着物など当時の流行を垣間見ることができます。古伊万里は、当時の最先端の流行を取り入れた作品が多く、その時代の特徴を知ることができるのも魅力です。

◆どう使われていたのか思いを馳せる、古伊万里の楽しみ方

片桐が「だいぶおどろおどろしいですね」と語るのは、その形とともに文様も特徴的な「染付 魚形皿」(江戸時代・17世紀中期)。小西さん曰く、伊万里焼全てに共通するのは使い方が残っていないこと。日常的に使われていたため書物などに書き残す必要がなかったと思われ、このお皿に何を載せていたのか、どう使われていたのかを夢想するのも醍醐味。片桐も「魚ですかね。全然違うものを載せていたかもしれない……」と思いを巡らせます。

そして、下の部分が欠け、上に2つの穴があいた「色絵 花文 皿」(江戸時代・18世紀前半)は、どういう風に使われていたのか考える片桐。「穴の感じはフックからぶら下げたようだけど、あのえぐれは……」と迷っていましたが、正解は「髭剃り用の受け皿」。西洋の床屋さんが使う受け皿で、これは輸出用だとか。

さらに、「染付 扇鼓文 段重」(江戸時代・18世紀末~19世紀初)。蛸の足のような葉っぱがついているので「蛸唐草」と言われるデザインが施されたこの作品は、お化粧に使う道具で、おしろいを溶くための道具として使われている例が浮世絵によく描かれているそう。

最後は14.05キロもある「色絵 牡丹文 蓋付壺」(江戸時代・17世紀末~18世紀前半)。この壺には、中国では富貴の象徴とされる牡丹の花が描かれていることからおそらく輸出向けの作品で、中には香辛料など別の何かを入れて海外に運ばれたものと推測。そして、それが再び日本に戻ってきたわけで、その壮大な由縁に片桐は「300年前に一度はオランダに行き、そこからまたどこから行ったものが巡り巡って日本に戻ってきた。物語がありますね」と感動。

奥深い古伊万里の世界を体感した片桐は、「江戸時代の伊万里焼を中心に見てきましたが、どう鑑賞したらいいのか正直わからない部分が多かったんですけど、難しく考えるよりは当時日用品として使われていたことを想像する面白さだったり、ストーリーを考える面白さが焼き物を見る魅力だとわかり、楽しかったです」と大満足の様子。そして、「古伊万里の新たな魅力、楽しさを教えてくれた戸栗美術館、素晴らしい!」と称賛し、江戸時代の空気を感じさせてくれた古伊万里の名品に大きな拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「瑠璃釉 瓢形瓶」

戸栗美術館に展示されている作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品をアンコールで紹介する「今日のアンコール」。今回、片桐が選んだのは「瑠璃釉 瓢形瓶」(江戸時代・17世紀中期)。

これは中国の作品を模し、日本で作られた作品だそうですが「こういうのに入れて、冷たく冷やして、お酒が飲みたくなりますよね」と顔を綻ばせつつ、「今あってもオシャレな感じで、これはいいなと思いましたね」と選んだ理由を明かします。

最後はミュージアムショップへ。トートバッグや和三盆、絵葉書など、戸栗美術館のオリジナル商品に惹かれつつ、「これ、すごい!」と声をあげたのは有田焼の小皿。「300円ですよ、安い!」と満面の笑みを見せる片桐でした。

※開館状況は、戸栗美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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