オミクロン対策、従来通りの「まん延防止」効果はあるの? 国内で最も早く流行の沖縄、琉球大の藤田次郎教授に聞いてみた

1月5日、感染者が急増した沖縄県で、那覇市の中心部の国際通りをマスク姿で歩く人たち

 国内で最も早く新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の流行を経験した沖縄県では、1月中旬に新規感染者が過去最多の1800人を上回った。入院者の増加に伴う医療現場の逼迫や、オミクロン株の特徴が不明であったことから全国に先駆けて「まん延防止等重点措置」が発出された。新型コロナの沖縄県専門家会議で座長を務める琉球大学大学院の藤田次郎教授は「オミクロン株はインフルエンザと類似点が多く、重症化リスクも従来株に比べ高くない。これまで通りの重点措置を継続するのにどの程度の意味があるのか」と疑問を呈し、オミクロン株の特性に合った出口対策を模索している。欧米などでは新規感染者は減少傾向にある中で、濃厚接触者の急増で社会インフラに影響が出たり、感染しても重症化リスクが低かったりと、規制緩和を進める国も出ている。藤田教授は、日本の濃厚接触者と認定された後に自宅などで待機する期間について「オミクロン株の潜伏期間の短さから考えても、濃厚接触の概念は馴染まない」と指摘する。各国のデータとともに、オミクロン株の対策方法を探ってみた。(共同通信=杉田正史)

 ▽濃厚接触者の待機期間「5日まで短縮可能」

 新型コロナを含めウイルス感染症の対策では、「潜伏期間」が重要だ。潜伏期間とは、ウイルス感染から発熱や喉の痛みなどの症状が出る期間のことを指し、この間にも人に感染させる可能性がある。藤田教授は、オミクロン株の潜伏期間とウイルスの排出ピークの時期に注目した。

藤田次郎・琉球大学大学院教授

 新型コロナの従来株の潜伏期間は平均5~6日だったが、オミクロン株は2日程度でインフルエンザとほぼ同じ日数だ。また、コロナウイルスが体内で増殖された後に体外に排出するピークは、従来株の「発症日」に対して、オミクロン株は「発症日から3~6日」となることが判明。この研究結果からどういった対策が導き出されるのか。

 藤田教授の考えはこうだ。現在、感染者の濃厚接触者の認定は、保健所が感染者からの聞き取りを基に、発症日の2日前まで遡って行っている。

 しかし、オミクロン株の排出ピークが発症日から3~6日という前提に立てば、発症日前まで遡る必要はなく、発症時点で感染者と近距離または長時間会話した人などを濃厚接触者とした方が現実に合った対策だという。政府は医療従事者やソーシャルワーカーを除き、濃厚接触の待機期間を当初の14日から7日まで短くしたが「オミクロン株では、5日まで短縮可能。医療従事者の休職もピークの今、感染対策に必要な環境整備や休職制度の構築など、納得感がある対策が重要だ。また、『発症日』に基づく対策は、感染拡大の予知に有効であり、結果的に新規感染者の急増に伴う保健所の負荷も緩和できる」と藤田教授は指摘する。 

記者団の取材に応じる後藤厚労相(中央)=1月28日夜、厚労省

 ▽重症化による入院リスクは「半分」

 オミクロン株の特性の一つとして重症化のしにくさが挙げられる。実際に、英保健当局の報告書によると、デルタ株に比べてオミクロン株の入院または重症化による入院のリスクは半分に、救急医療から入院に至るケースは3分の1にまで低下した。加えて、ワクチン接種が広まった効果も大きく、3回目接種から2~4週以内の人は入院リスクが92%減少、10週以上たった人でも83%低下した。一方で、2回目接種から25週が経過した人は44%と、3回目接種よりも大幅にリスクが上昇した。

 実際に、英国の大部分を占めるイングランドではワクチンの追加接種が進み新規感染者数が減少したことなどを背景に、マスク着用義務がなくなり、ワクチン接種証明も不要になるなど行動規制のほとんどが解除された。オランダでも入院者数が当初予測していたよりも少なく、レストランやバーなどの営業再開を許可するといった規制緩和が進む。

 藤田教授は重症化しにくい理由を「オミクロン株はウイルスが上気道での増殖にとどまり、肺に落ちてこないため肺炎が起きにくい」と説明、デルタ株以前と比較して重症者の少なさを実感する。琉球大病院の入院患者のほとんどは高齢者か糖尿病など基礎疾患を持つ人で、「もちろん高度肥満、高齢者、および基礎疾患のある方は人工呼吸管理になることもあるものの、多くの方は肺炎の治療というよりは、元々の病気の看護や介護がメインとなっている」と話す。

沖縄県の玉城デニー知事=1月24日午前、県庁

 新型コロナの致死率に関しては、沖縄県内で報告のあったオミクロン株の感染者約27000人の母数に対して、オミクロン株かどうか確認できなかった高齢者が1人と、インフルエンザよりも低い数字だった。だが「第7波以降の対策も予測しながら同時に対策を行うべきであり、重症化しやすい病原性のウイルスが流行してもよいように、ワクチン接種のさらなる加速が望まれる」。

 ▽感染のスピードが速い一方で…

 国内の新規感染者は連日最多を更新し、1月28日には1日当たりの感染者が初の8万人台となり、元日に確認された534人から一気に150倍以上も増加した。感染が拡大するスピードの速さに「世代時間」が関係しているとの見方が強まっている。世代時間は、ある感染者から他の人にうつるまでの日数で、その期間が短ければ短いほど次々にウイルスが広がっていく。デルタ株の約5日と比べて、オミクロン株が約2日と半分ほどになっている。

記者団の取材に応じる岸田首相=1月28日午後、首相官邸

 世代時間が短く、感染スピードが速い分、感染者のピークアウトを迎えるのも速いのではとの観測が広がる。デルタ株が猛威を振るっていた昨夏は、英国で1日当たり5万人台だったのが21万人超に、米国は約20万人が130万人を上回るまで跳ね上がったが、その後、感染者は減少傾向になっている。

 藤田教授も世界で初めてオミクロン株を報告した南アフリカの感染者数の推移を示しながら、「沖縄は既にピークアウトしつつある。国と県では規模が違うため、沖縄はよりコンパクトに短期間で収束すると考えている」と指摘。その半面で、日々の感染者に注目しすぎずに、「政府や自治体はオミクロン株の特徴にあった対策を打つべきではないか。第5波までのように画一化された対応を、全国に先駆けて沖縄から変えていく必要がある。科学的根拠に基づく意思決定を行うためには、感染源を的確に把握する疫学調査の手法と体制の検討が求められる。オミクロン株の病原性であれば経済と医療を両輪で実行するべき」と展望を示した。

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