天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール「いて座A*」 いまだ研究途上で予測不可能なカオス状態

【▲この銀河中心部のX線画像は、2006年から2013年までのスイフト衛星による観測をすべて統合したもので、「いて座A*」はその中心にあります。低エネルギー(300〜1500電子ボルト)のX線は「赤」、中エネルギー(1,500〜3,000電子ボルト)は「緑」、高エネルギー(3,000〜10,000電子ボルト)は「青」で表示されています(Credit: NASA/Swift/N. Degenaar)】

われわれの銀河系(天の川銀河)の中心方向である「いて座」に「Sgr A(Sagittarius A star:いて座A)と呼ばれる天体があります。元々は強い電波源である「Sgr A」(Sagittarius A)として見つかったのですが、その後の観測で3つの部分に分けられ、そのうちの大質量ブラックホールに対応すると考えられている天体を「Sgr A」と呼ぶようになりました。そこには太陽質量の約400万倍のブラックホールの存在が想定されています。この研究は2020年のノーベル物理学賞にもつながっています。

いて座Aは強力な電波、X線、ガンマ線を放射しています。一方で可視光は介在するガスや塵によって遮られています。また、いて座Aは日々点滅し、ブラックホールから観測される通常の放射の10倍から100倍も明るいバーストを発していることが何十年も前から知られています。

大学院生のアレクシス・アンドレス(Alexis Andrés)氏が率いる国際研究チームは、いて座Aが、日によって不規則にフレアを起こすだけでなく、長期的にもフレアを起こすことを突き止めました。

この研究は、アンドレス氏が、アムステルダム大学のアントン・パヌーク天文研究所(Anton Pannekoek Institute of Astronomy)が運営するASPIREプログラムに学部生として参加した2019年夏に開始されました。その後数年間、彼は研究を続け、このたび研究結果が「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載されることになりました。

研究チームは、この謎のフレアについて調べるため、NASAのスイフト衛星(ガンマ線バースト観測衛星)による15年間のデータを分析しました。その結果、2006年から2008年にかけて高い活動性を示し、その後4年間は急激に活動性が低下しました。ところが2012年以降、フレアの発生頻度が再び上昇し、研究者はパターンを見分けるのに苦労したということです。

今後数年間で、いて座Aからのフレアの変動が、通過するガス雲や星によるものなのか、あるいは銀河の中心にあるブラックホールから観測される不規則な活動を説明できる「何か」が存在するのかどうか、解明に向けて、さらなるデータの集積が期待されます。

論文の共著者であるオックスフォード大学のヤコブ・ヴァン・デン・エイエンデン(Jakob van den Eijnden)博士は、今回の研究成果について次のようにコメントしています。「フレアがどのように発生するかは、正確にはまだわかっていません。以前は、ガス状の雲や星がブラックホールのそばを通過した後に、より多くのフレアが発生すると考えられていましたが、その証拠はまだありません。また、周囲のガスの磁気的性質が関係しているという仮説も、まだ確認できていません

天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールは、いまだ研究途上で予測不可能なカオス状態にあると言えるようです。

こちらの動画は、広い視野から見た天の川銀河から始まり、超巨大ブラックホール「いて座A」にズームインしていきます。さらに、光速の約30%で「いて座A」を周回するガスの軌道運動のシミュレーションも拡大表示しています。

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Video Credit: ESO/Gravity Consortium/L. Calçada/N. Risinger (skysurvey.org)
Image Credit: NASA/Swift/N. Degenaar
Source: Royal Astronomical Society / 論文European Southern Observatory(ESO)
文/吉田哲郎

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