伊藤詩織さんが自分の裁判以外で伝えたかったこと 「同意」がなくても裁けない法律、教育の不備

東京高裁判決を受け、記者会見する伊藤詩織さん=1月25日午後、東京都千代田区

 「不同意性交は犯罪だときちんと議論されれば、私の身に起こったことが法律の中で裁かれるようになる」。性暴力被害を訴え、先日、東京高裁でも勝訴したジャーナリストの伊藤詩織さんは、判決後の記者会見でこう語った。伊藤さんや弁護士が強調したのは、性暴力が罪に問われにくい原因として刑法の不備があることや、そもそも日本社会で性教育が不足している現状だ。実名で被害を公表してから約4年半も闘い続けた思いとは。(共同通信=斉藤友彦)

 ▽13歳という幼さで不同意の立証が必要

 伊藤さんの被害は刑事手続きで不起訴にされ、検察審査会でも「不起訴相当」と門戸を閉ざされてしまった。だからこそ「ここまで民事裁判で闘ってきた」と語った伊藤さんは、地裁判決に続いて高裁判決でも「同意のない性行為だった」と認定したことを「とても大きなことだと思う」と評価した。この間、自身の身に起きたことだけでなく、性暴力被害について考え続けてきた。そして「不同意性交(が罪に問われること)は世界のベースラインになりつつあるのに、日本では変わっていない」という問題点に行き着いた。

 

東京地裁、東京高裁などが入る裁判所合同庁舎=東京・霞が関

 現行の刑法では、強制性交罪などが成立するためには「被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫」が立証されないといけない。ただ現実的には、明確な暴行や脅迫がなくても、性交を強制されてしまう被害は多い。加害者との力関係や立場の差が原因となるケースも一例だ。

 しかも「性交同意年齢」は13歳。これは性交への同意を自分で判断できる年齢という意味だ。13歳未満に対する性的行為は犯罪になる。言い換えれば、暴行や脅迫を立証できなければ、性暴力を受けたのがまだ幼い中学1年でも、加害者は罪に問われない恐れがある。13歳は諸外国に比べてあまりに低い。

 ▽国際的に遅れた日本の性教育

 刑法の性犯罪規定を変える議論の一環で、法務省の検討会では「不同意性交」の規定導入が論点の一つになっている。だが検討会では「同意のない性行為は処罰すべきだ」と委員の意見が一致した一方で、どう法律に落とし込むかという点でまとまらなかった。

 伊藤さんの代理人で、この問題に詳しい角田由紀子弁護士は会見の中で「何が不同意かを、客観的な事実として認定されるため、どう言語化して刑法に規定するか。犯罪かどうかをそこで決めるので、大変難しく、厳密にやらなければいけない。けっこう時間がかかるんじゃないか」と、同意・不同意を刑法に盛り込む難しさに一定の理解を示した。

 一方で、角田弁護士と代理人の一人である西広陽子弁護士は、根本的な課題として「日本の性教育が国際的に遅れていることが問題だ」と指摘した。

会見する伊藤さん(中央)と代理人弁護士

 性教育がなぜ大事なのか。「自分の体が大切なように、他人の体も大切だから、勝手に触ったりしてはいけない。相手の同意がいることを、子どもの頃からきちんと教える必要がある。基礎がきちんと教えられていないから、性的同意という言葉がなかなか入っていかない」(角田弁護士)

 ▽15歳でも性交を教えない

 日本の性教育不足は、これまでも指摘されてきた。中でも問題視されているのは、文部科学省が最低限の学習内容として定める「学習指導要領」だ。中学校の保健体育では、思春期の生殖機能の成熟を扱う場合に「妊娠の経過は取り扱わない」と記述されている。性交によって妊娠することが、15歳になっても教えられない。

 

 それなのに暴行・脅迫にあらがわなければ被害者が「同意」したとみなされる年齢は13歳のままだ。伊藤さんは13歳だった自分を振り返って「当時の私もそういったことを詳しく知らなかった」と語った。

 そして会見の最後に強調した。「性教育を充実させていくだけでなく、法律を変えていく大人が考えを入れ替えないといけないと強く感じている」

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