昭和を彩った80年代男性ヴォーカル “泣ける失恋ソング” ランキング  涙で枕を濡らすこと必至? 男性ヴォーカルで聴く失恋ソング

みなさん、最近泣いてますか?

―― かく言う私はこないだ久々に腹筋をしたところ腹をつってしまい、痛いやら情けないやらで思わず泣いてしまいました…… んな事ぁどうでもよくて、今回は「昭和を彩った80年代男性ヴォーカル “泣ける失恋ソング” ランキング」と銘打ち、カウントダウン形式で曲を紹介していきます。

第10位:ルビーの指環 / 寺尾聰

“泣ける失恋ソング” というお題でこの曲を外すわけにはなるまい。『ザ・ベストテン』における前人未到の12週連続1位の偉業はダテではなく、その他あらゆるヒットチャートでも1位を独占。年末のレコ大では作詞賞(松本隆)、作曲賞(寺尾聰)、編曲賞(井上鑑)の主要3タイトルを総ナメという、まさにランディ・バース級のメガヒットとなった。

2年経ってもかつての恋人の幻影を追いかけてしまう未練がましい男が主人公だが、案外男なんて大なり小なりこんなもんである。

第9位:Friend / 安全地帯

安全地帯の全盛期にリリースされた、彼らのキャリアでも屈指の壮大なバラードだ。わずか14行の歌詞は至ってシンプルで、誰が読んでも失恋が題材だと分かる。“Friend” の意味は、玉置浩二いわく「恋人同士が友達になっちゃう話。ある意味ではもっと大きな愛になったって解釈でもいいんです」と意味深。

当時の玉置浩二は女優・石原真理子との不倫スキャンダルの渦中にあり、本曲はその道ならぬ恋の終わりを暗示している…… というのは穿ちすぎだろうか。

1986年10月24日、『ミュージックステーション』記念すべき第1回放送での歌唱曲でもある。

第8位:Missing / 久保田利伸

アルバム『SHAKE IT PARADISE』収録され、『夜ヒット』披露時に雛壇で聴いていた松田聖子が思わず涙を流したという有名な伝説を持つ一曲。久保田利伸を代表する一曲だが、意外にもシングルカットはされていない。

ブラックミュージックをルーツにしたソウルフルなボーカルは音楽業界のみならずお茶の間にも衝撃を与え、瞬く間に時代の寵児となった。作詞作曲は久保田自身によるもの。パフォーマンスだけではなく創作面でも類稀なる才気を発揮した。意外にも野球少年で、元日ハム・広瀬哲朗とは中学時代にバッテリーを組んでいた。

第7位:今でも君を愛してる / 桑田佳祐

ソロアルバム『Keisuke Kuwata』収録。サザン関連の失恋ソングは数多あれど、迷いに迷った挙句、個人的な好みでこの曲を選ばせてもらった。多重録音によるコーラスを中心としたシンプルなサウンドが大人の洗練を感じさせる。

明るい曲調に切ないメロを付けさせたら、桑田の右に出るものはいない。2012年の『I LOVE YOU -now & forever-』に収録されるまでベスト盤には未収録の状態が続いたため、同時期の桑田ソロ「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」や「いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)」に比べると知名度はさほど高くない。

第6位:泣かないで / 舘ひろし

1980年代の邦楽を語る上で、いわゆるバタくさい「歌謡曲」の存在も忘れるわけにはいかない。男のダンディズムを追求し続けた石原軍団の中堅・舘ひろしの「泣かないで」もまた、埠頭の香りが漂よう正統派の歌謡曲に仕上がっている。

なんたって「俺の為に泣かないで」である。半端な男が歌ったってギャグにしかならないが、舘ひろしだと違和感がないところはさすが “ダンディー鷹山”(あぶない刑事)。

妄想を広げるなら、この歌の主人公は「わたしのために争わないで」の名フレーズで有名な「けんかをやめて」(河合奈保子)の彼女と付き合えば色々とうまくいくのではないだろうか。

第5位:クリスマス・イブ / 山下達郎

令和の12月にもしっかりサブスクの総合ランキングに登場した国民的クリスマスソングといえば、ご存知「クリスマス・イブ」である。大半の人にとってこの曲を聴くのは一年間でも一定の期間に限られると思うが、 “クリスマス” という強烈なフィルターを取り除けば実に秀逸な失恋ソングであることに気付かされる。

なんなら真夏に湘南で聴いたって十分泣けるだろうし、現に私は意識的にこの曲をシーズン問わず聴くようにしている。だってクリスマス時期だけにしか聴かないのはもったいないくらい、本当によくできた曲なのだ。

JR東海のCMばかり語られがちだが、1989年公開の映画『君は僕をスキになる』主題歌としても使われている。

第4位:いっそセレナーデ / 井上陽水

自身も出演した「サントリー角瓶」CMのタイアップソング。冷蔵庫からおもむろに電話機を取り出すという摩訶不思議なシーンが印象的だが、それ以上に当時36歳・井上陽水が放つ怪しげな色気に惹かれる。「角は、なんつーか、心のご飯です」という軽佻浮薄なキャッチコピーも実に80年代らしく、商品広告というよりは、まるで陽水のミュージックビデオを観ているような錯覚に陥る。

そのCMを彩るのが、ムーディで都会的な「いっそセレナーデ」だ。これだけ雰囲気のある曲に「いっそ」なんてカジュアルな語感を与えてしまうのはさすがのセンス。まさしく陽水にしか作れない至高のバラードである。

第3位:最後のHoly Night / 杉山清貴

夏といえば杉山清貴、杉山清貴といえば夏。かつて夏アーティストの代表格といえば杉山清貴という時代があった。オメガトライブを解散した後、ソロとしての最初のヒット作「さよならのオーシャン」もやはり夏の歌。だが意外にも、自身最大のセールスを記録したのはクリスマスソング「最後のHoly Night」だったりする。とはいえ歌詞に「summer」「夏」というフレーズがちらほら登場するのはご愛嬌。

歌詞は読めば読むほど解釈の広がる内容だが、作詞を務めた売野雅勇によればプロデューサー藤田浩一との3時間に及ぶブレインストーミングの末に書き上げたのだという。決して純愛を描いた内容ではないが、「本当に好きなひとと 最後のイヴは過ごしたいと言ったね」なんて、キープくんをあっさり捨てるような軽はずみな失恋模様がいかにも80年代っぽくていい。

第2位:伝わりますか / ASKA

元々はドラマで共演したちあきなおみへの提供曲だったが、ソロアルバム『SCENE』でセルフカヴァー。繊細さと力強さが同居した伸びやかな歌唱には感涙を禁じ得ない。

「全てを無くす愛なら あなたしかない」と想いを募らせる相手は、おそらく家庭のある男性。伝わらない想いを胸にしまいながらも、諦めきれない気持ちから「娘心が悪戯」しそうになる夜もある。そんな切ない大人の失恋を、日本で一番ロマンチックが似合う男・ASKAが見事に描ききった。

抜群の歌唱力と表現力、そして甘いルックスを併せ持つASKAだからサマになるのであり、そこらの男がカラオケで情感たっぷりに歌い上げたところで猿真似にしかならないので、やめておいた方が賢明だろう。

第1位:そして僕は途方に暮れる / 大沢誉志幸

あまりにもベタな選曲だが、敢えて外すのも不自然というもの。「オールタイム映画ベスト」を考えるときに、なんだかんだ言いながら『スタンド・バイ・ミー』を上位に入れるように、80年代の失恋ソングの金字塔といえばやはりこの曲を置いて他にはないのである。

作詞を手掛けたのは後に『月刊カドカワ』の連載などで人気を博す詩人・銀色夏生。「見慣れない服を着た 君が今 出ていった」で始まり、同じフレーズで終わる詞の世界は、まるで一編の短編小説を読んでいるかのよう。

白眉は終盤の一節「君の選んだことだから きっと 大丈夫さ 君が心に決めたことだから」。歌謡曲で描かれる別れ際というのは、引き止めるか、敢えて気丈に見送るかのどちらかに大別されるが、この主人公の彼女に対する健気な信頼は今聴いても新しいし、何よりもセンスがいい。だからといってポジティブに別れを捉えるのかと言えばそうではなく、「そして僕は途方に暮れる」のである。

ハスキーな大沢の声、淡々とバックに流れるシンセアレンジ。別れの空虚さをこんなにも上品かつ湿り気なく表現した歌を私は他に知らない。80年代のみならずオールタイム失恋ソングの決定版だ。

―― というわけで、「昭和を彩った80年代男性ヴォーカル “泣ける失恋ソング” ランキング」を極私的な好みで選ばせて頂いた。徳永英明や稲垣潤一が入っていないことなど異論反論はあるだろう。オーケー、それはごもっともな意見だ。くどいようだが、これはあくまで “私の” TOP10であり、人それぞれ十人十色のTOP10があって然るべきだ。

ぜひ皆様もマイベストを考え、なんならプレイリストを組んで就寝前にでも聴いてみることを薦めたい。きっと涙で枕を濡らすことになるだろう。

カタリベ: 広瀬いくと

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