部員11人、創立2年で全国大会へ 岐阜アミーゴヤングは一体どんな練習をしている?

有山裕太監督【写真提供:岐阜アミーゴヤング】

有山裕太監督「野球が好きなら、どんな子もうまくなる」

3月に岡山県倉敷市で開催される中学生の全国大会「ヤングリーグ春季大会」に、岐阜市の硬式野球チーム「岐阜アミーゴヤング」が初出場する。創立2年足らず。しかも部員は11人と極端に少ない。メンバーに野球エリートもいない中、なぜ全国大会への切符を手にできたのか。その強さは偶然ではなく、理由があった。

なぜ、創立から2年も経たずに全国大会へ出場するチームがつくれるのか。本当に部員は11人だけなのか? 将来有望な小学生を集めたエリート集団ではないのか? チームの周りでは疑問ばかりが沸き上がる。

「岐阜アミーゴヤング」は2020年4月につくられた。部員は11人で、現在の中学2年生が1期生。つまり、チームには中学1、2年生しかいない。それでも、全国大会をかけた昨年11月の東海支部予選で準優勝し、第2代表で初めての全国への切符を手に入れた。“常識破り”のチームに周囲がざわつく中、有山裕太監督は「全国的なレベルで見たら、全然力が足りていない」と冷静だ。

大阪桐蔭高出身の有山監督は2008年夏の甲子園で優勝した時に捕手を務めた。その後は奈良産業大学(現・奈良学園大学)、四国アイランドリーグplusの香川でプレーした。指導者となるのは、岐阜アミーゴヤングが初めて。チームに入ってくる子どもたちに求めることは1つしかない。

「野球が好きかどうか。それだけです」

有山監督にはトップレベルで学んだ知識や経験がある。ただ、意欲のない子どもたちはそれらを吸収できない。だからこそ、野球への情熱を大切にする。「野球が一番好きなら、他の子が遊びに行ったり、ゲームをしたりする時間に野球の練習をするのが当たり前だと思います。本当に好きなら練習できます。好きで練習すれば、どんな子もうまくなります」。野球が好きならうまくなる。その言葉に、有山監督の自信も滲む。

選手に指導する有山裕太監督【写真提供:岐阜アミーゴヤング】

1つのメニューで複数の成果を追求、ベーランで1日の練習が終わることも

有山監督は、個々の選手に力がつけば自然とチームは強くなると考えている。日々の練習で重視するのは「効率」と「精度」。例えばランニングのメニューでは、少年野球で一般的な走り込みはしない。同じ距離を走るならベースランニングにして、体力づくりと同時にベースの踏み方や回り方など走塁技術を磨く。指揮官は「1つの成果のために1つの練習をするのが好きではないんです。効率よく、いくつものことを身に付けてほしいと思っています」と意図を説明する。

そのベースランニングで、1日の練習が終わることもあるという。キャッチボール、ノック、バッティングなど、有山監督は日々の練習メニューを組み立てているが、それぞれのメニューを納得いくまで続ける。「選手たちが今できる完璧を求めているので、そこに達するまで繰り返します」。練習の目的はメニューの消化ではなく、技術の習得や精度の向上にあるため妥協がない。

選手への課題の与え方にも特徴がある。有山監督は日々のノルマを選手に課さない。伝えるのは目標と期限の2つ。体力を強化する冬の期間であれば、体力テストの日にちを設定する。その時に、決められた回数の腕立て伏せや足上げ腹筋などをクリアできるように、それぞれの選手が計画を立てる。

こうした練習や指導方針は選手の成長につながっている。中学1年生の皆川瑛翔投手はチームに入団当初、直球の最速が98キロだった。その球速は入団して約8か月で127キロまで上がり「小学校の頃と違って中学では体力がついて球速が伸びました」と笑顔を見せる。日々の練習で体力や技術が身に付いただけでなく、普段から半分に切った軟式ボールを握って握力を高めるなど、自主性や考える力も育っている。

チームには小学校時代に各ポジションで2番手、3番手だった選手もいる。中学生になって初めて硬式に触れた選手もいる。11人の部員は決してエリート集団ではない。それでも、創立2年で中学1、2年生しかいない岐阜アミーゴヤングは全国大会出場を決めた。周囲はその快挙に驚くが、強さを裏付ける根拠があった。(間淳 / Jun Aida)

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