<県政の現場から 2022知事選> 九州新幹線長崎ルート 全面開業、見通せず 武雄商議所会頭「長崎はもっと行動を」

九州新幹線長崎ルート(博多-武雄温泉-長崎)

 九州新幹線長崎ルート(長崎-博多)は今秋、長崎-武雄温泉がフル規格で部分開業する。1973年の整備計画決定から約半世紀かけて開業にこぎつけたが、長崎県やJR九州が求める武雄温泉-新鳥栖のフル規格化に佐賀県が反対しているため、全面開業は見通せない。
 佐賀県西部のJR武雄温泉駅。在来線のホームに上がると、隣には真新しい別のホームが整備されていた。新幹線と在来線特急の「対面乗り換えホーム」だ。長崎発の新幹線が到着すると、乗客は対面のホームに止まっている在来線のリレー特急に乗り換え、博多方面に向かう。
 これは武雄温泉-新鳥栖の整備方式が決まらないことによる暫定措置だが、県は現行の長崎-博多の所要時間が約30分短縮され、最速で約1時間20分になるとアピールする。国土交通省によると、長崎-武雄温泉間も直行ならば20分余りで着くという。
 「武雄と長崎が新幹線で近くなることに期待はありますよ」。こう話すのは武雄商工会議所会頭の溝上邦治氏。「交流が始まれば温泉を中心とした観光の強化を図ることができ、長崎にとっても武雄やその周辺が新たな経済圏となる」という。「ただ関西や中国地方から大勢の観光客を呼び込むのは難しいのではないか」と懸念し、武雄温泉-新鳥栖のフル規格整備を熱望する。
 部分開業のままでは関西方面から新幹線で来て博多でリレー特急に乗り換えなければならないが、全線フル規格ならば長崎まで直通となる。県によると、新大阪から最速で約3時間15分、博多からは約51分で長崎に到着する。
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 だが佐賀県は並行在来線の在り方や財政負担など複合的な課題があるとして「フル規格は求めていない」との方針を堅持する。事態打開のため国交省は2020年6月を皮切りに計5回、佐賀県と協議を重ねてきたが、具体的な進展は見られない。
 佐賀県知事の山口祥義氏は元総務省官僚で、過去には長崎県総務部長を務めた。長崎県側に対する山口氏の個人的な感情が佐賀県の姿勢の根底にあると関係者の間ではささやかれているが、山口氏は20年秋にこうした見方を否定している。
 だが実際、今月の知事選で4選を目指す長崎県知事の中村法道氏(71)も19年5月を最後に、山口氏と会って新幹線に関し対話することはできていない。中村氏は1月26日に記者団に「山口知事とは一緒に仕事をした仲間でもある。協議の機会が得られるよう再度努力したい」と改めて述べた。
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 国交省は武雄温泉-新鳥栖の23年度着工を想定していたが、現状は厳しい。与党は北陸新幹線の敦賀(福井県)-新大阪についても同年春の着工を目指している。通常であれば両区間の財源論議は22年度にセットで行われるが、長崎県は「議論に乗り遅れるのではないか」と危機感を強める。
 武雄商議所会頭の溝上氏は「今後も人口減少は確実に進み、地域住民の足である在来線の維持は難しくなるのではないか。JR九州には新幹線で利益を出して在来線もしっかり守ってほしい」と望む。「つまりは佐賀と長崎の将来をどう考えるかだ。私たちは佐賀県でフル規格の必要性の周知に努めるので、長崎県の人たちももっと行動を起こしてほしい」と訴える。
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 知事選には医師の大石賢吾氏(39)、会社社長の宮沢由彦氏(54)ら新人4人も立候補を予定している。


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