魚価低迷と燃油高騰 対馬、壱岐 販路開拓に県のサポートを 2022長崎知事選 まちの課題点検・1

寒ブリの水揚げ作業をする植木さん(右)=対馬市、高浜漁港

 長崎県知事選の告示が3日に迫った。私たちが暮らすまちの現在地を確かめ、未来に思いを巡らせる4年に1度の機会でもある。農漁業、観光、インフラ整備、人口減少…。県内各地の課題を点検する。

 丸々と太った寒ブリが1匹、また1匹と漁船から降ろされていく。600~700キロ入るおけは、あっという間に満杯になった。
 1月26日午後、対馬市美津島町の高浜漁港。高浜漁協組合長、植木忠勝さん(67)が水揚げ作業の手を休めて言った。「きょうは大漁やね」。言葉とは裏腹に表情にはどことなく陰りがある。
 冬場は書き入れ時だ。年間の半分の水揚げがある。はえ縄や一本釣りで漁獲した寒ブリ、アラ、タイといった高級魚は、福岡や東京などの市場を通して全国の料亭、ホテル、レストランに流通。宴会の鍋や刺し身料理などに用いられる。
 しかし、新型コロナウイルス禍以降、飲食店などへの営業制限や宴会自粛で高級魚の需要は減少。それに伴い魚価も低迷し、コロナ前と比べ最大で半値程度にまで落ち込んでいる。
 昨年末、コロナの感染状況が落ち着き、ある程度売り上げは持ち直したが、年明けからの流行第6波が再び影を落とす。打開策として、植木さんは欧州市場にも加工した魚を卸せないか模索を始めた。欧州では日本の魚介類の需要が高く、日本ほど経済活動も停滞していないからだが、加工のノウハウ、言語の壁、慣れない外国人とのビジネス…など不安材料は多い。
 新たな販路を開拓し、苦境をしのごうと歯をくいしばっている。「頼ってばかりじゃ駄目なのは分かっている。でも県や金融機関が寄り添って手助けしてくれるとありがたい」。植木さんは控えめにそう言った。
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 県内有数のイカの水揚げを誇る壱岐市勝本町の勝本漁港。ずらりと並んだイカ釣り漁船が出港する気配はない。「燃料費の高騰でほとんどの船が出港をためらっている」。船団長の山口祐治さん(47)がつぶやいた。「みんな貯金を切り崩しとる。釣れないのに漁に出ても赤字やし…」。同じくイカ漁が盛んな対馬市豊玉町の船団長の男性(70)も諦め口調でこう語る。
 イカ漁は、イカをおびきよせる集魚灯を使うため、他の漁のほぼ倍の燃料が必要。価格高騰は死活問題だ。壱岐市の勝本漁協によると燃料用のA重油の価格は昨年の最安値で1リットル67円。それが現在1リットル100円にまで跳ね上がった。大型船の場合、一回出漁すれば燃料代は約10万円に上る。
 同漁協購買課の中村祐二課長は「国による価格抑制のための補助は元売り業者向け。漁業者にどれほど還元されるか」と疑問視。漁業者を対象に1リットル当たり10円の補助金が同市から出ているが、「長崎は離島県。もっと県が補助をしてもいいのではないか」と悲痛な表情で訴えた。


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