【作家の値うち】石原慎太郎『太陽の季節』(1955) 文藝評論家の小川榮太郎氏が現役作家100人の主要505作品を、100点満点で採点した『作家の値うち』が作品評を特別公開! 亡くなった石原慎太郎さんのデビュー作にして代表作、『太陽の季節』です。

82点 傑出した存在による古典的な青春小説

表題作を含む最初期の短編集。

「太陽の季節」は昭和30年、一橋大学在学中に発表され、戦後の若者から「大人」たちへの殴り込み的な挑戦状として、大きな反響を巻き起こした。芥川賞の受賞を巡り選考委員間で賛否が大きく分かれ、佐藤春夫が「風俗小説」「ジャナリストや興行者の域を出ず」と酷評したのに対し、川端康成が

「極論すれば若気のでたらめとも言えるかもしれない。このほかにもいろいろなんでも出来るというような若さだ。なんでも勝手にすればいいが、なにかは出来る人にはちがいない」

と書いて擁護したことは今もよく知られていよう。

川端の予言は当たり、石原は作家としてのみならずあらゆる意味で傑出した存在であり続けた。

「太陽の季節」は拳闘の孤独な戦いを愛する若者の潔癖な意識を、簡潔な筋のいい文章で一気呵成に籠いあげた古典的な青春小説だ。多くの酷評が出たのが今となっては不思議な気がする。

ここにあるのは 近代日本小説の多数を占める病的な自意識でなく、 若い牡の、肉体と精神とが葛藤なく一体となった清潔な肖像である。その意味で、本作は初期短編『Xへの手紙』で「女は俺の成熟する場所だった」と書いた小林秀雄の後継と言ってもいい。

一方、三島由紀夫が目指していたものをはじめから苦もなく手に入れていたこの青年を、三島が複雑な思いで眺めたのも間違いないだろう。

他の所収作では「処刑の部屋」「黒い水」が殊に秀逸。生きている手応えへの飢渇、激しい欲動が、どの所収作からも何と鮮烈に滴っていることだろう。

小川榮太郎 | Hanadaプラス

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