本線試乗で体感、JR東海新型「315系」の実力

多治見駅へ到着した315系試運転列車 本線試乗は名古屋~同駅間で行われました

2022年2月1日(火)、JR東海の新型在来線通勤電車「315系」本線試乗会が行われました。

315系は1999年にデビューした313系以来、JR東海としては22年ぶりとなる在来線用の通勤型車両です。直線を多用した幾何学的なデザインや8両固定編成での運用、従来車両の置き換えなど、鉄道ファン・一般の利用者を問わず「2022年の気になる新型車両」筆頭格といえるでしょう。デビューは今春のダイヤ改正より一足先、2022年3月5日(土)の予定です。

オールロングシート、8両固定編成で投入される315系(車内)。10両編成での運用がなくなる分は増発で対応するそうで、東海道新幹線を16両編成で統一するJR東海らしさを感じます

本日の試乗会では、運行開始に先立ち名古屋~多治見間を往復しました。315系が最初に投入されるのが中央本線の名古屋~中津川間ですから、ほぼ中間地点まで運行したかたちになります。本稿では、このあわせて1時間ほどの往復乗車で感じた315系の乗り心地について、詳しく解説していきたいと思います。

315系は静かな電車

211系などの従来車両との違いとして、最も気になったのは静けさでした。

騒音を抑えるには、大雑把に言えば「発生する音そのものを小さくする」「外部からの音を遮る」という二つのプローチがあります。前者として挙げられているのが、モーターなどの床下機器の低騒音化でした。

当日の配布資料から

力行時に発生するモーターの熱を、風を入れて冷ます。これが従来の開放モーターです。315系では全閉モーターが採用されており、風の通りを減らすことで音量を低減しています。継手はモーターからの駆動力を車輪に伝えるものですが、この形状の最適化が低騒音化につながりました。

もう一つのアプローチ、遮音性を高める工夫として、315系ではゴムを入れた「低騒音床構造」や複数のガラスで構成された「複層ガラス」を採用しています(複層ガラスは313系でも採用実績があります)。結果、120km/h走行時の車内騒音は211系比で約10dBほど低下したといいます。

たとえ話ですが、家の外で工事が行われている状況を想像していただくのが分かりやすいでしょうか。従来の車両を「窓を閉じる前」だとすれば、315系はまるで「窓を閉じた後」……もちろん報道陣向けの本線試乗ということで、かなり静かな環境であったことは否めませんが、あくまで体感としてそのぐらいの差があるように思えました。

JR東海の在来線車両で最も緑の濃い窓

紫外線・赤外線を99%カットするガラスを採用

鉄道ファンにとって気になるのは窓でしょう。JR東海の在来線車両の窓にはカーテンがついており、日差しが気になるときなどに使用されていますが、315系はカーテンレス化されており、窓回りがすっきりしています。これは赤外線・紫外線を99%カットするガラスが採用されたためです。

遮光性も高いため、同社の車両としては最も緑色の濃いガラス窓になっています。これがスマートフォン利用者にもありがたい。ロングシートの電車に乗っていると「窓からの日差しが反射して画面が見辛い」こともしばしばですが、今回の本線試乗ではそうした使いづらさを感じませんでした。

揺れの低減、座り心地の改善、つり革の増備……

つり革の高さは3パターンで、乗降口付近は頭をぶつけないよう最も高い位置に設置されている

一般利用者目線で気になるのは、車両の揺れや座席の座り心地といった快適性や使いやすさです。

315系では今年7月にデビューする新型特急「HC85系」と同じ、溶接個所を削減した台車構造(JR東海と日本車輌製造の共同開発)を採用。また、軸ばねの柔らかさを上下・左右・前後ごとに調整できる仕様とし、上下のばねを柔らかめに、前後のばねを固めにすることで走行安定性と乗り心地を両立しています。振動は211系と比べて3dBほど低減したそうです。

座席は背もたれが腰部の負担が少ない理想的な姿勢をサポート形状になっており、座席幅も1cm拡大したことで座り心地が向上。実際に座ってみると固さを感じることもなく、ちょっと上質なゲーミングチェアに座っているような気分になります。

混雑時、座れないときも安心して利用できるよう、つり革や手すりを増備しています。つり革の数は同社の車両としては最多だそうで、同じ中間車両で比較すると、211系の128箇所から157箇所と約2割ほど増えました。またつり革の高さも従来は180cm・170cmの二通りでしたが、315系ではさらに160cmのものを追加しています。

案内表示器もカラーユニバーサルデザインに対応したフルカラー液晶ディスプレイに。これはJR東海の在来線車両としては初めてで、1両ごとに6台設置し、ドア開閉方向や到着駅の設備案内、最新の運行情報等を表示します。

また、ベビーカーや車いすの利用者にとってはありがたい点として、車両とホームの段差が縮小が挙げられます。車両床面の高さを下げ、乗降口の床面をホーム側に傾斜させることで、211系比で5cm縮小しています。

ホームとの段差を縮小することで、ベビーカーや車いす利用者も乗りやすくなりました

他にもトイレの設置(全編成に1箇所)や車内セキュリティの強化(車内防犯カメラの設置)、冷房機能向上(AIによる自動学習・制御最適化、国内初)など、快適性や安心・安全といった面でも洗練されており、現代の最新通勤電車が備えるべき機能を網羅した「居心地の良い車両」と感じました。

安全面に関して追記すると、2022年夏以降は非常走行用蓄電装置も備え、変電所の事故や自然災害時でも、乗客が線路に降りることなく安全な場所まで走行できるようになります(第7編成までは別途改造して搭載、第8編成以降は新造時から搭載)。

今年は「315系」「HC85系」とJR東海の新型車両が矢継ぎ早にデビューします。役割は違えど設計には共通する部分もあり、まずは今春の315系に期待がかかります。

記事:一橋正浩

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