第27回「青い烏(カラス)のブルース」〜療養中のPANTAが回顧する青春備忘録〜

アルバム『PANTAX'S WORLD』の続きで。このアルバムには頭脳警察前にブルースを封印した自分から解禁された「青い烏(カラス)のブルース」というマイナーブルースが収録されている。そしてウエスト・ロード・ブルース・バンド(以下、WRBB)のギターとしてその名を馳せる塩次伸二のギブソン335が入り込んだ感情の起伏とともに思い切り炸裂している楽曲だ。残念ながら数年前に栃木の佐野市での公演中、彼は亡くなってしまった。2年前の九州行きの折に大分で彼の墓参りに行けたのだが、そのレコーディングを遡ること数年前に、名古屋のイベントの後、伸ちゃんを入れたWRBBのメンバーと麻雀卓を囲むことになった。そんなに強くないと自負する自分が、なぜかその日に限って独り勝ちしてしまい、せっかくWRBBに勝ったのだからと、祝勝記念にB.B.キングのアルバムを購入させてもらった。そしてそんな話が風を伝ってWRBBの連中にも伝わり、ずいぶんと喜んでもらったという話を聞く。 そんな縁もあり、ブルースの封印を解いた折にはぜひとも伸ちゃんに参加してもらおうと思い、このレコーディングに参加してもらったのだった。そしてため息も切らぬ素晴しいプレイの連続する中、スーパープレイを連発する伸ちゃんのギターがこの「青い烏(カラス)のブルース」に限ってミスってしまう摩訶不思議な現象に突き当たってしまったのだ。テイク3、テイク4と続く中、たまらず「伸ちゃんともあろうものがいったいどうしたのかな?」と思わずストレートに声を投げてしまったのだが、「だってブルースにサビないから……」という悲鳴にも似た叫びが間髪を入れずに返ってきた。 確かにこの「青い烏(カラス)のブルース」は通常のアメリカンなブルースではなく、日本のブルースの女王という呼び方をされている淡谷のり子さんとまでは行かないまでも、ある意味とても和風に作られている。伸ちゃんの言うように、通常のブルース進行とは違い、サビで盛り上がるような構成になっているため、前半で入り込めば入り込むほど、ついそのサビの存在を忘れてしまうのだろうということは容易に想像できることであった。 その後、そのサビの存在を十二分に認識してもらい、そして乗り越え、とんでもなく素敵なプレイを魅せてくれた故・塩次伸二に感謝とともに、今も思いを寄せるばかりである。

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