「思い描く演技を」羽生結弦選手の地元仙台、高まる期待 メッセージ、のぼり、あふれるファンの愛

国際センター駅前のモニュメント

 フィギュア男子で3連覇が懸かる羽生結弦選手の出身地・仙台で、応援ムードが高まっている。勝負の神をまつる神社や「日本フィギュアスケート発祥の地」など、羽生選手ゆかりの地を歩くと、ファンや市民の熱い思いが伝わってきた。(共同通信仙台編集部)

 ▽PVできずとも、看板で気持ちを

  「目指せ3連覇!羽生結弦選手」。仙台市役所の外壁には1月末、青を基調とした縦1・5メートル、横13・5メートルの大きな看板が掲げられた。2018年平昌五輪の際は、市などでつくる実行委員会がパブリックビューイングを開催したが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大で見送りに。市スポーツ振興課の担当者は「本来は皆で集まって応援したかったけれど…。看板を通じて市民の気持ちを届けられたら」と話す。

仙台市役所に掲げられた看板

 ▽かまぼこ店、ツイッターの通知鳴りやまず

 「【募集】本社に応援メッセージを掲載したく皆様から案を募集します!」。1月28日、仙台名物・笹かまぼこで知られる「阿部蒲鉾店」のツイッターはこう投稿した直後から、通知が鳴りやまなくなった。表示回数は25万回、「いいね」は約1700件、リツイート(転載)は千件超、付いたコメントは約200件(2月3日時点)。普段は「いいね」が40件ほどで好調な方だという。

 本社は市中心部の大通り沿いにあり、羽生選手が平昌五輪で2連覇を達成した凱旋パレードで通った際、窓に感謝のメッセージを掲載した。当時、市民や全国から訪れたファン約10万8千人(主催者発表)が沿道を埋め尽くし、羽生選手はパレードカーの上から笑顔で手を振って歓声に応えた。阿部賀寿男社長が「今回も地元企業として応援の力の一助になれば」と、メッセージを募集しようと提案した。

 ▽本社の窓にメッセージ貼り出し

 1月31日までに寄せられたアイデアは、240件ほど。販売企画課の馬場直樹さん(38)が全て目を通し、皆の思いが集約できるように言葉を選んでつなぎ合わせた。条件は窓の数や位置を考慮し、11文字。悩んだ末、「翔べ羽生選手 夢よ叶え!」に決まり、2月2日の夕方、窓に貼り出した。

阿部蒲鉾店本社の窓に貼られた応援メッセージ

 「皆の思いがビシビシと伝わる熱いメッセージ。『そうだよね、そうだよね!』と共感するものばかりで、選びながら胸に迫るものがありました」と馬場さん。中国語やスペイン語で寄せられたメッセージもあったといい、反響に驚きを隠せない様子だった。

 ▽くまのプーさんと聖地巡礼

 「日本のフィギュアスケート発祥の地」とされる、青葉区の五色沼。一面に白く氷が張り、スケートリンクのようになっていた。寒空の下、歴史を記した案内板をながめていると、羽生選手の好きなディズニーキャラクター・くまのプーさんのストラップをかばんに下げた女性(56)と出会った。

「日本のフィギュアスケート発祥の地」とされる五色沼

 女性は、平昌五輪を期にファンになったという。本来なら北京の競技会場へ渡航する旅費の一部を、自宅のある高松市からの「聖地巡礼」に充てた。羽生選手と似た名前で注目を浴びた弓弦羽神社(神戸市東灘区)も巡り、仙台へ。大崎八幡宮(仙台市青葉区)などゆかりの神社を参拝し、御朱印を集めた。

 「けがを乗り越えて前を向く。有言実行の姿に勇気づけられます。コロナ禍なので、とにかく健康でリンクに立ってほしい」と笑顔。「天と地と」の演目で着用した衣装をモチーフにしたという鮮やかな水色のネイルが印象的だった。

羽生選手ファンの女性が集めた御朱印と、「天と地と」の演目で着用した衣装をモチーフにしたネイル

 ▽駅にモニュメント「地元の誇り」

 五色沼から近い仙台市地下鉄「国際センター駅」前には、羽生選手と荒川静香選手の功績をたたえるモニュメントが建っている。写真に収める仙台市の50代女性の姿があった。14年ソチ五輪のころから本格的に応援しているという女性は「地元の誇り。誰に対しても敬意を払う礼儀正しさもすばらしい」と魅力を語った。

国際センター駅前のモニュメント

 「羽生選手は仙台が好きで、たびたび話題に挙げている。それを聞いた市外のファンの友人らを案内しようと、今まで目を向けていなかった地元の神社や歴史に詳しくなりました」。羽生選手の言葉には、地元愛を再確認させる力があるようだ。

国際センター駅前のモニュメントの横には手形も

 ▽メッセージ付きのぼり、申し込み800件

 勝負の神をまつる、太白区の秋保神社。ソチ五輪後に羽生選手が参拝した。雪が残る参道には「4A着氷・北京五輪金メダル祈願」や「羽生結弦君が思い描く演技ができますように」など、ファンが応援メッセージを添えて奉納したという白いのぼりがずらりと並べられ、風にはためいていた。

のぼりが立てられている秋保神社

 神社によると、7年ほど前からのぼりを募集し、これまで羽生選手関連の申し込みは約800件。宮司の菅原望さん(37)がメッセージを一筆ずつ代筆する。年末から寄せられ始めた五輪にかけるメッセージは約50件に上った。年始は通常、1カ月待ちだが「なんとか五輪の開会式に間に合わせてほしい」というファンの要望に応えようと、急ピッチでのぼりを仕上げた。

のぼりが立てられている秋保神社

 コロナ禍で遠方から来られない人も多いが、希望者には設置したのぼりを撮影し、メール添付や写真の郵送で報告するサービスもある。菅原さんは「ファンの方々の思いに触れ、人ごととは思えません。皆さんの力が神様に届きますように」と願った。境内には、活躍を願う絵馬も数多く並んでいた。

 ▽コロナ禍で歓声はないけれど

仙台駅構内観光案内所の等身大パネル

 ゆかりの地を歩くと、羽生選手の根強い人気や演技に懸ける期待が伝わってきた。羽生選手の魅力を語る女性らからは、マスク越しにもやわらかな表情と羽生選手への愛情が見えた。コロナ禍で歓声を上げる応援は難しそうだが、市民やファンの熱い思いは今年も変わらないのだと感じた。

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