史上2例目、2020年発見の小惑星が「地球のトロヤ群小惑星」だと確認される

【▲ 地球のトロヤ群小惑星「2020 XL5」(左下)の想像図。小惑星のすぐ上には地球と月が、画像右上には太陽が描かれている(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine; Acknowledgment: M. Zamani (NSF’s NOIRLab))】

アリカンテ大学のToni Santana-Rosさんを筆頭とする研究グループは、2020年に発見された小惑星「2020 XL」地球のトロヤ群小惑星であることを確認したとする研究成果を発表しました。発表によると、これまでに地球のトロヤ群と確認された小惑星は2010年に発見された「2010 TK」が唯一の例とされており、2020 XLは観測史上2番目に確認された地球のトロヤ群小惑星となります。

■推定直径約1.2km、向こう4000年間は地球のトロヤ群小惑星であり続けるとみられる

【▲ 木星のトロヤ群小惑星(緑)と水星~木星までの惑星(白)の位置を示したアニメーション。トロヤ群小惑星は木星(Jupiter)に先行するグループと後続するグループに分かれている(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))】

トロヤ群小惑星とは、太陽と惑星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、惑星の公転軌道上にある「L4」(太陽から見て惑星の60度前方)や「L5」(同・60度後方)を中心とした安定した軌道に乗っている小惑星を指します。

よく知られているのは5000個以上が見つかっている木星のトロヤ群小惑星です。2021年10月に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「ルーシー(Lucy)」は、二重小惑星の「パトロクロス」「メノイティオス」をはじめとした複数の木星トロヤ群小惑星の接近探査を主な目的としています。

関連:NASA探査機「ルーシー」10月16日打ち上げ予定、木星トロヤ群小惑星に初接近

【▲ 太陽と地球のラグランジュ点を示した図。トロヤ群は「L4」や「L5」を中心とした安定した軌道を公転する小惑星のグループだ(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva; Acknowledgment: M. Zamani (NSF’s NOIRLab))】

研究グループは今回、2020年12月12日にハワイの掃天観測システム「パンスターズ(Pan-STARRS)」によって発見された小惑星2020 XLの軌道やサイズなどを調べるために、セロ・トロロ汎米天文台の「SOAR望遠鏡」(口径4.1m)、ローウェル天文台の「ローウェルディスカバリー望遠鏡」(旧称ディスカバリーチャンネル望遠鏡、口径4.3m)、テネリフェ島にある欧州宇宙機関(ESA)光地上局の望遠鏡(口径1m)を使って観測を実施しました。

過去に取得された約10年分の観測データも用いて分析を行った結果、研究グループは2020 XLが地球のトロヤ群小惑星(地球の前方にあるL4を中心とした軌道を公転)であることを確認しました。前述のように、地球のトロヤ群として確認された小惑星としては史上2例目となります。推定される2020 XLの直径は約1.2kmで、これまでに唯一確認されていた地球のトロヤ群小惑星である2010 TK(推定直径約400m)の3倍ほどのサイズがあるとされています。

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ちなみに、2020 XLが地球のトロヤ群小惑星であるのは一時的な状況のようです。研究グループによると、2020 XLは少なくとも今後4000年ほどの間は地球のトロヤ群であり続けるものの、いずれは他の天体の重力による影響を受けて軌道が変化し、地球のトロヤ群小惑星ではなくなるとみられています。

また、研究グループは観測データの分析結果をもとに、2020 XLは「C型小惑星」の可能性が高いと考えています。C型小惑星は地球へ落下した様々な隕石のなかでも有機物が豊富で始原的な「炭素質コンドライト」に対応する小惑星で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」がサンプルを採取した小惑星「リュウグウ」もC型小惑星に分類されています。

■将来は地球のトロヤ群小惑星の探査や資源採掘も?

地球の既知のトロヤ群小惑星は今回で2つになりましたが、研究グループはこれが全てではなく、未発見のトロヤ群小惑星がまだまだ存在するかもしれないと予想しています。ただし、地球のトロヤ群小惑星捜索のハードルは高いようです。

米国科学財団の国立光学・赤外天文学研究所(NSF/NOIRLab)によると、地球に先行あるいは後続する位置関係にあるトロヤ群小惑星を探すには、日の出や日の入りに近い時間帯の低い空に望遠鏡を向ける必要があります。この場合、地球の厚い大気によって観測が難しくなる上に、そもそも口径が4m以上ある望遠鏡の多くはそのような低い空に向けることができないといいます。

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また、最近ではスペースXの「スターリンク(Starlink)」に代表される衛星コンステレーションの構築が地球低軌道で盛んに進められていますが、日の出・日の入りに近い時間帯はこれらの人工衛星による光害(ひかりがい)が観測の妨げになりやすい時間帯でもあります。

関連:観測への影響は? 衛星コンステレーションの「光害」を評価した研究成果

このように地上から探すことが難しい地球のトロヤ群小惑星ですが、研究グループはそれでもなお探す価値があると期待しています。始原的な小惑星からは太陽系初期の情報が得られる可能性がありますし、なかには地球の月よりも安いコストで到達できる軌道を公転するものが見つかるかもしれないといいます。研究に参加したNOIRLabのCesar Briceñoさんは、地球のトロヤ群小惑星について「太陽系における高度な探査活動の理想的な拠点や、あるいは資源の供給源になるかもしれません」とコメントしています。

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文/松村武宏

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