目標は「地下鉄を核にした生活まちづくり企業」 民営化4周年迎える大阪メトロの戦略は MaaSでワクワクする大阪を【コラム】

写真:鉄道チャンネル編集部

商都・大阪の地下を走るのがOsaka Metroです。前身は大阪市交通局。公営だった大阪市営地下鉄を民営化して、「大阪市高速電気軌道」として2018年4月に営業開始しました。公営ビジネスを民営化する手法は、JRグループ(前身は国鉄)や東京メトロ(前身は帝都高速度交通営団=営団地下鉄)にも共通します。

Osaka Metroを取り上げたきっかけは、2022年1月に東京都内で開かれた2回目の展示・商談会「MaaS EXPO」。プログラムに「Osaka Metroグループがめざす都市型MaaS構想」があり、取材させていただきました。Osaka Metroグループが目指すのは「交通を核にした生活まちづくり企業」。270万都市の大阪市でなぜMasSなのか。戦略を探りましょう。

利用客数は関西私鉄トップ、全国では4位

MaaS EXPOで講演したのは、Osaka Metroの上新原公治執行役員(交通事業本部MaaS戦略推進部〈企画〉担当)兼同部第1部長。MaaSに力を入れる理由を、「人口減少が本格化する関西圏にあって、移動はもちろん日常生活のあらゆる場面を便利・快適にすることで、一人ひとりの生活を豊かにし、大阪のにぎわいづくりに貢献する」とします。

セミナーを終えた上新原Osaka Metro執行役員。MaaSの狙いを「自宅から駅、そして駅から最終目的地までの移動を快適にするファースト&ラストワンマイルのモビリティー(移動)サービス充実」に集約しました。(筆者撮影)

MaaSの話に入る前に企業プロフィールを。地下鉄は御堂筋線、谷町線、四つ橋線、中央線、千日前線、堺筋線、長堀鶴見緑地線、今里筋線の8路線で、営業キロは新交通システムのニュートラムを含めて137.8キロ。ほかにバス高速輸送システム・BRTの「いまざとライナー」も運行します。輸送人員は約9億3000万人(2019年度。日本地下鉄協会調べ)で、大手私鉄では東京メトロ、東急電鉄、東武鉄道に次いで全国4位にランクされます。

市営交通の民営化で、大阪市バスを引き継いだのが大阪シティバス。こちらは86系統に534台のバスを運行、1日平均利用客は約20万人に上ります。

MaaSで移動のストレスを減らす

「大阪をMaaSでつなげる。」をキャッチフレーズにしたOsaka MaaSのビジュアルイメージ(画像:Osaka Metro)

本題に入ります。大阪は地方圏に比べて公共交通が便利なのは確かですが、一部に交通空白地帯も存在します。駅やバス停が遠いエリア、バス停は近くても本数が少ないエリアでは、移動にストレスを感じる住民もいるのが事実です。

自宅からのバス停への移動、バスから地下鉄への乗り継ぎを便利にして、ストレスを減らし移動を快適化する。コロナ収束後に期待される、大阪を訪れる訪日外国人観光客も地下鉄やバスでラクラク移動できるようにする。それが、Osaka Metroが考えるMaaSです。

自宅最寄りから乗車できる「オンデマンドバス」

Osaka Metroのコーポレートカラー・OMブライトブルーを基調にしたオンデマンドバス(画像:Osaka Metro)

大阪市24区のうちOsaka MetroがMaaSターゲットとするのが南東部の生野区と平野区。生野区は人口12万7000人。地下鉄は千日前線が走ります。生野区の南隣の平野区は人口19万6000人。地下鉄谷町線が天王寺、梅田(谷町線の駅名は東梅田)と結びます。

MaaSの実践策が、自宅から地下鉄駅までの移動を便利にする「オンデマンドバス」。2021年3月30日の運行開始から来月末で1周年を迎えます。利用客が時間や場所を指定してバスを呼ぶ仕組みで、事前に電話やスマートフォン専用アプリで予約すると、ルートから離れたエリアでもバスに乗車できます。

バスは8人乗りのマイクロタイプで、利用者の予約データからAI(人工知能)が導き出したルートをたどって走ります。運賃は大人210円、子ども110円で、市内を走る路線バスと同額。運賃は現金かクレジットカードで支払います。

オンデマンドバスは地域住民に好評で、当初予定を延長して現在も運行。2021年12月からはルートが拡大されるとともに、指定エリアが月額5000円で乗り降り自由になる「デジタル定期券サービス」も始まっています。

利用客の7割が「オンデマンドバスで外出したい」

MaaS EXPOの講演では、オンデマンドバスの利用者アンケート結果が報告されました。回答者261人の満足度は4分の3に当たる76.2%が「とても満足した」。「オンデマンドバス利用で外出したい」も、70.5%と7割を超えました。

上新原執行役員は、「大阪中のすべての人々に、新しい生活様式に対応した圧倒的に便利で快適な移動・交通を提供したい」と宣言して、セミナーを終えました。

MaaSをイメージした新型車両

特徴的なデザインの中央線の新型車両・400系電車。新機能では、非常時に乗務員室から異常を確認できる防犯カメラを搭載するほか、21インチのワイド液晶ディスプレイは、日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語で案内表示します。コロナ対策として空気浄化装置も装備します(画像:Osaka Metro)

続いては、セミナーでも披露された新型車両の話題。本サイトでも紹介済みですが、Osaka Metroは中央線に新型車両400系(6両23編成)と新造車両30000A系(6両10編成)を導入します。デビュー予定は30000A系が2022年7月、400系が2023年4月です。

中央線は2025年に開催される「大阪・関西万博」会場の夢洲(ゆめしま)へのアクセス路線。Osaka Metroは中央線を〝未来への路線〟と位置づけ、新製車両でイメージアップを図ります。

400系で特徴的な前面はガラス張りの展望形状とし、宇宙船を意識させる未来的デザイン。MaaSとの関連性もイメージさせます。セミナーでは、2024年度中に400系電車の大阪港―夢洲新駅間で自動運転の実証実験に乗りだすプランも明かされました。

Osaka Metroのすべてが分かる一冊

サブタイトルは「民営化で変わったもの、変わらなかったこと」。『そうだったのか!Osaka Metro』は新書判、248ページで気軽に読める一冊です(画像:交通新聞社)

ラストは本稿と併読していただるような、Osaka Metroのガイドブックを紹介しましょう。交通新聞新書として2021年6月に出版された『そうだったのか! Osaka Metro』がおすすめの一冊です。

鉄道ライター・カメラマンの伊原薫さんが、大阪の地下鉄の過去・現在・未来を紹介。歴史では、1903年の大阪市電誕生に始まり、大阪名物だった最初期の「2階付電車」(この写真はなかなかインパクトがあります)、大正時代にキタ(梅田)とミナミ(難波)を結ぶ大量輸送機関として構想された市営地下鉄、最初の地下鉄は1両編成だったにもかかわらずホーム長は8両対応の180メートルもあったことなど、〝眼からうろこ〟のこぼれ話が満載です。

1933年に仮駅で開業した御堂筋線梅田駅は、2年後の1935年に「梅田本駅」として現在と同じ場所に移転しました。初期からエスカレーターが設置されていたのが目を引きます(画像:交通新聞社「そうだったのか!Osaka Metro」から)

本コラム的に注目なのは、大阪市交通局がOsaka Metroに生まれ変わるまで。先輩といえる国鉄の分割民営化は、巨額にのぼった赤字を棚上げし、新生JRになって地域密着の経営を実践する狙いでしたが、大阪市交通局の地下鉄事業は2003年度から単年度黒字、2010年度には累積欠損も解消して、経営的には順調でした。

ただ、公営ビジネスは駅ビルなどの関連事業に制約も多く、自由な経営環境を求めて民間企業への転換を決断したそう。しかし、完全民営化には一部異論もあり、2007年前後にはいったん議論が凍結されるなど紆余曲折もありました。こうした経過は全国的にほとんど知られておらず、私も本書ではじめて知る話が多くありました。本書は気軽に読める新書版で、こぼれ話のコラムも満載。発刊が2021年6月なので、コロナの影響も記されています。

最後にクイズを2題。

第1問「Osaka Metroの列車が走るのに、Osaka Metroのものでない路線があります。それはどこ?」(ヒント。北大阪急行線など相互直通運転する路線ではありません)
第2問 「Osaka Metroには、終点の1駅手前止まりの列車が一定数あります。それはなぜ?」

気になった方、よろしければ本書でご確認ください。

記事:上里夏生

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