世界でも稀なパレットのコレクションを片桐仁が初体験「生き様がそこにある!」

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。11月13日(土)の放送では、「笠間日動美術館」でパレット画の魅力に迫りました。

◆国内外の画家のパレットが一堂に! 圧巻のコレクション

今回の舞台は、茨城県笠間市にある「笠間日動美術館」。ここは日本で最も歴史のある画廊のひとつ、東京・銀座の「日動画廊」創業者・長谷川仁が1972年に創設。

敷地内には3つの展示館があり、国内外の名品3,000点以上を所蔵しています。なかでもフランス館には有名画家の作品が数多く並んでいますが、今回片桐は画家たちが愛用した"パレット”が展示された世界的にも希少なパレット館へ。

同館の管理部長・亀山浩一さんの案内のもと、館内に足を踏み入れると「本当にパレットばかり。 スゴいですね!」と思わず声をあげる片桐。全部で350点あるパレットの多くは、画家に依頼し絵を描いてもらったもの。パレットもそれぞれ作者によって色使いなどさまざまな特徴があり、片桐は「四角いものや丸いもの、小さいものも大きいものもある。(普段)絵を描いているところは見られないが、それを覗けたような気持ちがする」と作家の創作過程が詰まったパレットに早くも興味津々。

パレット館には常時200点ものパレットが展示されていますが、そのなかに1枚だけ油絵が。それは、パリの風景画を多く描いたフランス人画家モーリス・ユトリロの「プール=レ=ゼシャルモ(ローヌ)」(1934年)。なぜこの作品だけが展示されているのか……その理由は、膨大なパレット・コレクションの始まりがユトリロだから。

ユトリロの作品の隣には、彼のパレット(1933年頃)も展示。これは、ユトリロが当時お世話になっていた画商に贈ったものだとか。

片桐は「これがユトリロのパレットなんですね!」と感動し、「パレットに絵を描いて贈るというのは粋」と舌を巻きます。このパレットを長谷川仁が目にし、心を動かされたことがパレット画を収集するきっかけに。

詩情に溢れる静謐な作品を多く残したユトリロ。パレットに描かれた絵にも彼の特徴がしっかり見られます。「この絵も、もしかしたらこのパレットで描かれていたかもしれない。そう考えるとすごいコレクションですよね。パレットが横に並んだ瞬間に、そこにユトリロがいるような印象を受けますね」と感慨深そうに語ります。

続いては、昭和の美人画家の第一人者、柔らかな曲線と繊細な色調で描いた美しい女性像で知られる東郷青児のパレット(1967年頃)。

これはコレクションが始まった1967年に東郷からいただいたもの。そこにはパレットの曲線を活かした独特の構図で女性が描かれており、「見てすぐに東郷青児さん(のもの)だとわかりますね」と片桐。さらには「この女性の構図は面白い。このパレットのために決めたような構図。売り物というよりは、思いの丈をその時のイメージで描いたみたいな感じ」との感想も。個性が際立ち、東郷の優しい思いが伝わる作品となっていますが、このように作家の個性を感じとることができるのもパレット画の大きな魅力だとか。

◆垣間見えるは作家の性格…また、師匠・弟子では大きな違いも

次は昭和期を代表する洋画家、安井曾太郎のパレット。彼はこのコレクションが始まる前に他界しており、これは遺族からいただいたもの。そのパレットに特別な絵が描かれているわけではありませんが、色がしっかりと配置され、安井の几帳面な性格が伺えます。

そして、ここ笠間日動美術館には、安井の「実る柿」(1937年頃)もあり、一緒に見ると計算された構図や色使いにパレットとの共通点が。片桐も「(『実る柿』を描いた際)このパレットを使ったんじゃないかっていうのがわかるというか、面白いですね。絵と並べたときにその人の息づかいを感じる」と話します。

さらには安井の弟子、風景や花を独自の点描で描いた作品が人気を集める高田誠のパレット(1967年頃)も。これは高田が実際に使っていたものですが、師である安井とは色の置き方が異なっていて、「師匠と弟子のパレットが見られるのも面白い」と片桐。そうした発見も、このパレット館の醍醐味です。

また、現役アーティスト、土井久幸のパレット(2017年)もあります。彼は、日動画廊が主催する公募展「昭和会展」で、最高賞の「昭和会賞」を2015年に受賞。どこか懐かしさを感じるような柔らかな作風が特徴で、ヨーロッパの情景を描いたクレパス画で高い評価を得ており、そんな新進気鋭の作家とのコネクションがあるのも画廊ならでは。

片桐は、「アーティストと直接会っているのが強み。そうした付き合いのなかでパレットがもらえるわけで、画廊とアーティストの関係が見えますよね」と感心しきり。このパレット・コレクションは画商だからこそできたものとも言えます。

◆アーティストのエネルギー、生き様が刻まれたパレット

一目見た片桐が「すごいパレットがありますよ!」と興奮していたのは、このコレクションのなかで最も大きい、昭和の洋画家・鴨居玲のパレット(1984年)。

その大きさは「穴が開いているけど持てない。本当にこれを使っていたんですか!?」と疑うほど。絶望や死を感じさせる暗く重たいタッチで知られる鴨居は、「自画像の画家」と呼ばれ、多くの自画像を残しましたが、自殺未遂を繰り返すなど、私生活でも苦悩にも満ちた生涯を送りました。

そして、その自画像は赤や黒を基調とすることが多く、パレットにも「黄色がないですよね。鮮やかな。鴨居玲さんの絵の色味ですね、完全に」と片桐。

さらには「まるでルオーの絵のよう。(このパレット画の)エネルギーはすごい!」、「凄まじい……生き様を感じますね。鬼気迫るものがある」と他の作家にはない、狂気の世界に圧倒されます。ちなみに、笠間日動美術館には、彼の絶筆となる「自画像(絶筆)」(1985年)も所蔵しています。

最後は、現在最も注目される洋画家のひとり、遠藤彰子のパレット(2010年)。「これは三次元ですね」と片桐も話すように、FRP(繊維強化プラスチック)を使って作った立体の油壺がセットに。「パレットから飛び出しちゃっていますね」と笑みを浮かべつつ、「海があって、子どもたちが遊んでいて、ワニがいて、油壺はもう全部ワニになっちゃって……楽しい作品ですね」とコメント。

世界でも稀なパレット・コレクションを体験した片桐は「パレット館と聞いて、どういうことなのかなと思っていたら、画商ならではの繋がりがあり、いろいろな画家のパレットが並んでいる。寄贈してもらうその関係も素晴らしいし、絵とはまた違うアーティストのエネルギーが籠っているというか、生き様がそこにあることをまざまざと感じることができるパレット館、面白かったです!」大満足。

「ユトリロから始まった画家たちの魂が込められたパレットたち、素晴らしい!」と称賛しつつ、新たなアートの楽しみを教えてくれたパレット画に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、萩谷巌の「パレット」

笠間日動美術館・パレット館に展示されている作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品をアンコールで紹介する「今日のアンコール」。今回、片桐が選んだのは、萩谷巌のパレット(1973年)。

そこには美味しそうな果物が描かれていますが、片桐は「これだけ実物感がすごい」と驚き「普段使っているパレットの余白に描くっていうルールを完全に無視していて、元の絵具が全然見えないし、もう純粋にこの形のキャンパス」と苦笑い。しかし、迫ってくるようなその作品に大いに惹かれたそうです。

最後はミュージアムショップへ。東郷青児のパレット画のクリアファイルに見惚れつつ、パレット館のパンフレットを見つけます。すると「こうして見るとまた印象が変わりますね」と新たな発見に喜び、鴨居玲のパレットのページを眺めながら「こうやって見ると普通にいい感じだけど、あの厚みを知らないから(笑)」と実物を思い浮かべながら、再びパレットの世界に浸っていました。

※開館状況は、笠間日動美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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