「やらないと試合に出さない」は一切なし… 筒香嘉智が語る日米指導者の“違い”

パイレーツ・筒香嘉智【写真:Getty Images】

2シーズンを過ごす中で気付いた米国での指導者と選手の距離感

百聞は一見にしかず、とはよく言うが、渡米3年目をパイレーツで迎える筒香嘉智内野手もまた、これまでの2シーズン、米球界がどのような場所なのか、自分の目で見て、肌で感じて、情報をアップデートしている。

例えば、メジャーではチーム全体として臨む練習時間が短いが、全体練習の前後を利用して選手は個々に膨大な量の練習に励んでいる。スプリングトレーニングでは朝5時台から球団施設にやってきてトレーニングする選手は多い。成績を残している選手ほど、練習熱心な印象だ。

その他にも、メジャーと3Aの間には大きな実力や待遇の差があるし、選手の勝負に対するこだわりは強く、大一番では桁外れの集中力を発揮。予想以上に時間や規律を守る感覚は薄く、チームとしての足並みが揃わないこともある。こういったことは、実際に体験したからアップデートできた情報でもある。

同様に、これまで2年を過ごす中で、監督やコーチら指導者と選手との距離感や関係性についても、いろいろな発見があったようだ。何よりもまず「監督と選手は、日本よりすごく距離が近いなと思いました」と話す。

「日本よりも選手は監督やコーチに対して自分の意見をはっきり言います。それに対して、日本であれば『生意気だな』『選手の立場で何を言っているんだ』となりかねないところですが、全く何もない。反対意見を言われても『なんだ、お前?』とはならずに、『どうしてそう思うんだ』と会話が始まる。すごくいい関係性だと思います」

アストロズのダスティ・ベイカー監督は誰もが気軽に立ち寄れるようにと、監督室の扉はいつも開けたまま。レンジャーズを2度ワールドシリーズへ導いたロン・ワシントン元監督(現ブレーブス三塁コーチ)の部屋には、私生活の悩みを相談する選手の姿もあった。

ブレーブスのアルビーズを指導するワシントン三塁コーチ【写真:Getty Images】

コーチと意見が食い違っても「尊重してくれるし、否定されることはない」

日本では指導者と選手の間には主従関係のようなパワーバランスが生まれることが多いが、メジャーでは対等に近い。ただ「完璧に対等かと言えば対等ではないんです」と筒香は続ける。

「対等ではないし、敬意がない近さでもない。お互いに敬意を持っているから生まれる近さで、それぞれの役割を尊重しているんですよね。正しい表現か分かりませんが、ちゃんと会話ができるんです」

想像とは違い、メジャーにもスキルや考え方などを細かく指導し、実践させるのが好きな指導者もいる。だが、日本にいる同様の指導者と決定的に違うのは、聞く耳を持っている、つまり会話が成立する点だ。

「意見の違うコーチもいますが、選手がやることを尊重してくれるし、それを否定することはありません。『どうしてこういうバッティングをしているの?』とあれこれ質問は受けても、『ダメだ』『やるな』とは言われない。とりあえずやってみて、上手くいかなかったら考える。選手から『この感覚がよくない』『ここが気になる』と相談を受ければ、『じゃあこうしてみよう』と提示する形です。『これをやれ。やらないと試合には出さない』という一方的なアプローチは一切ありません」

ここ数年はオフになると、子どもたちを取り巻く野球環境の在り方に提言を重ねているが、米国での2年を経て何よりも願うのは、子どもたちの言葉に耳を傾ける大人が増えることだ。

「昔から続くいい部分もあれば、変わらないといけない部分もある。古いものが悪い、新しいものがいい、というのではなく、指導者は学ぶ姿勢を忘れてはいけないし、子どもたちと会話できるように情報をアップデートしていかないと心には響かない。正解の形はないと思いますが、自分たちが発する言葉を真剣に聞く子どもたちがいること、子どもたちの声に耳を傾けることを忘れてはいけないと思います」

自ら積極的に情報をアップデートし続けているから、決してできないことではないと知っている。何よりも互いに敬意を抱いていればできるはず。指導者と選手が互いを尊敬しあう、そんないい関係性が日本でも広まることを願ってやまない。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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