若者の転入減少 焦点を絞った施策必要 長崎 2022長崎知事選 まちの課題点検・6

2010~21年の長崎市の社会動態(日本人)

 県都長崎市で、転出者数が転入者数を上回る「転出超過」が拡大している。総務省が毎年公表する日本人の人口移動報告によると、2021年は2194人で、近年は市町村別ワースト上位の“常連”に。都市部として県外への人口流出をせき止める「ダム機能」を果たせていないとの指摘は久しく、県全体も21年は都道府県別で3番目に多い5899人となった。
 同市の転出超過の主な要因は若い転入者の減少だ。ここ10年、年ごとの推移は転出者が1万3千人前後で横ばいの一方、転入者はこの間に2千人ほど減り、転出入の差は開いた。年代別にみると、40代以下の減り幅が大きく、特に若年層の転入減少が転出超過の拡大につながっていることが浮かび上がる。
 「原因は複合的で特定は難しい」「効果が確実な人口減対策はなく、できることは何でもやる」。同市や県の担当者は一筋縄でいかない問題だと口をそろえる。同市は「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」(20~24年度)で、▽新産業創出や起業支援▽移住促進▽子育て支援▽若い世代の住宅環境改善▽都市機能の集積▽交通・情報網充実▽交流人口拡大-など多岐にわたる施策を打ち出す。テーマには「若い世代に選ばれる魅力的なまち」を掲げている。
 これに対し長崎大経済学部の山口純哉准教授(地域経済学)は、第1期(15~19年度)の同戦略から外部評価審議会会長を務めてきて、感じることがあるという。「各担当課が満遍なく、バラバラに取り組んでいる印象で、検証も不十分。もっと焦点を絞った施策が必要」。市内部で「どんなまちをつくるか」「どんな人に来てほしいか」などのビジョンが十分に共有されず、若者らにも伝わっていない現状があるとみる。山口氏は「これでは人口減対策が『何人減った、何人増えた』の数合わせになってしまう」と危惧する。
 一方、日ごろから学生と接する山口氏は、仕事に対する若い世代の考え方が、この5、6年で変わっていると感じている。都市部や大企業、高賃金などへの志向は一定あるものの、▽環境や人権への配慮▽社会貢献ができる▽やりがいを感じられる-など、企業ビジョンに共感できるかを重視する学生も増えてきているという。
 山口氏は「行政が出す企業情報は福利厚生などの『条件面』が目立ち、若者に響いていないのでは」と指摘。例えば起業支援なら、利潤追求よりも社会課題を解決する「ソーシャルビジネス」が長崎に次々と生まれるような施策に重点化し、若者に発信することで「地域のために働きたい人を育て、呼び込むことが地域全体のためになる」と提案する。
 当の若者たちに長崎はどう見えているのか。市内の大学を卒業し、昨春から関東でITエンジニアとして働く同市出身の女性(23)は「観光地としてキラキラしているだけで、住むには面白みがない」と手厳しい。就活を振り返っても「長崎の企業のイメージはぼやっとしていた。長崎ならではの面白い企業があるなら、もっとPRした方がいい」と話す。
 また、近く就活を始める大学2年の女性(20)は県市の就活サイトの情報量や種類の少なさに不満を感じた一方、会員制交流サイト(SNS)では魅力的な県内企業を見つけたという。「今はリモート化によって地方でできる仕事は増えているし、起業もできる。『県内でこんな仕事ができるんだ』と知れるだけでも、地元就職を考える参考になる。情報が伝わってないのはもったいない」
 若者が振り向く「魅力」を見極め、「まち」のビジョンを明確に届けられるのか。県市の取り組みが問われている。


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