【選挙制度考】 地域格差・定数不均衡是正をどう考える?選挙制度の見直しが必要ではないか(歴史家・評論家 八幡和郎)

地方の議席を大幅に削減で大騒ぎ

 昨年の国勢調査での人口を前提にした定数不均衡是正で、なんと10増10減、しかも、増えるのが東京5、神奈川2、埼玉、千葉、愛知が1ずつで、減るのが、宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎と、東京とその周辺ばかりが増加で、西日本と東北に削減が集中しているので大騒ぎになっている。

 審議会が6月までに新たな区割り案を首相に勧告すのだが、あわてた、和歌山県選出の二階俊博元幹事長が「腹立たしい。政府の方針は間違いがあるのではないか。地方には迷惑な話だ」といい、細田博之衆院議長は、「頭で計算した数式によって、地方を減らして都会を増やすだけが能じゃない」と、東京で3増、新潟・愛媛・長崎各県で1減とする「3増3減」案を提案している。

 こんなことになったのは、2016年5月に衆院選挙制度改革に関する与党提出の改正案が成立したことによるもので、アダムス方式という計算法が採用されている。

最高裁は、2009、12、14年の衆院選を「違憲状態」としたが、アダムズ方式導入を決めた関連法の成立を評価して、最大格差1・98倍の17年衆院選を合憲と判断したのであるだけに苦しいところだ。

 参議院についても、2012年に最高裁判所が都道府県単位を選挙区とする選挙制度に否定的見解を出したことを受けて、2015年に公職選挙法が改正されて人口の少ない県を合区して新たな選挙区を設けることになった。

 その結果、島根・鳥取、徳島・高知が合区されている。ただし、参議院に選出されない可能性がある県の代表者を参議院に確実に輩出することを意図して、2019年7月の第25回参議院選挙から参議院比例区で政党等の判断で拘束名簿式の「特定枠」として設定することが可能となっている。

東京一極集中排除に不熱心だった政治家の自業自得

 私は1980年代から、首都機能移転など東京一極集中排除策を提案してきた。その過程で、「いずれ、抜本的な定数是正が必要とされるのは必然だ」、「それを回避できるのは、東京一極集中排除しかない」、「とくに西日本からの人口流出を阻止しなくてはならない」と主張してきたのだが、自民党の有力政治家は、あまり真剣に聞いてくれなかった。

 その報いがいま現実化しているのであって、自業自得としかいいようがないが、いまからでも、悔い改めて欲しいと思う。

 江戸時代の後半は、正しく殖産興業や税制改正に取り組んだ西日本で人口が増加し、守旧派が支配した東日本の人口が減った。その結果が、薩長土肥などを原動力にした明治維新だったが、明治以降は、東に人口が移動し、人口重心も滋賀県北部から岐阜県関市(2017年)にまで移動した。

 しかし、人口そのものの不均衡是正はともかくも、制度的な問題として、もっと様々な工夫がされるべきであろう。

まず、自民党は、「合区」解消を改憲項目の一つとして提起している。「行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案する必要がある」とし、とくに、参院については、「広域自治体」(都道府県)を選挙区とする場合は、各選挙区から選挙ごとに最低1人の議員が選挙されるということで、合区を解消して定数が不均衡になって合憲とできることを提案している。

現実的ではあるが、あまり筋は良くない。というのは、日本国憲法には都道府県についての条文がなく、法律でどのようにでも統合も分割も出来るものだ。たとえば、東京周辺では、各県三つずつくらいに分割するとかしたら勢力バランスはたちまち変わる。

未成年者などを含んで大都市人口は水増し

 私は憲法で道州制とかも含めて、都道府県についての制度の基本を決めた上で、それに特別な意味を持たすのが筋だと思う。ただ、臨時の時限措置としてはありかもしれない。

 現行憲法に手を触れないというので、私が提案するのは、次のような方法だ。

①定数不均衡は、比例制度も含めて、選出する議員あたりの人口を計算すべきではないか。衆参両院とも、比例区については、完全に平等なわけである。それも合算して、人口何人にひとりの議員を選出しているかを議論してはどうか。

②人口でなく、有権者数ないし投票者数を基本にするのが適当なのではないか。大都市は、地方より未成年の若年者が多いし、投票率も低いので、有権者や投票者数でみると人口でみたほど不均衡は顕著でない。

 さらに、実は、かつては、人口に不法滞在者まで含んだ外国人まで入れていたらしい。これは、詳しい経緯は明らかでないが、前回の定数是正のときに日本人の人口で計算するように改められたらしいのだが、少なくともそれまでは、外国人が多い東京都心とか、在日の人が多い大阪の一部の区の人口は水増しされていたことになる。

 また、地方選挙においても、定数を決めるに当たって外国人を除いた人口で計算しているかどうかは定かでないのでチェックした方が良いのではないか。

*外国人の人口は、計算から除外されているようであるが(あらゆる場合にそうかは確認する必要があるが)、二重国籍の人に無条件で選挙権をあたえるのはそもそもおかしいのであって、外国で選挙権を行使しない保証を求めるべきだと思う。

 蓮舫氏の二重国籍問題でも蓮舫氏が台湾の選挙で投票したことがあるかどうか不明だが(本人は否定)、いまの法制度では、日米二重国籍の人が日本の総選挙とアメリカの大統領選挙の両方に投票することは可能である。有権者人口の計算でも0.5として扱ったっておかしくない。

 余談だが、私が二重国籍が正義に反すると考える理由の一つは、だいたいのケースにおいて、権利は二人分、義務は一人分になっているのが通常だからだ。

選挙権行使は現住所の選挙区でなくてもいいのではないか

③国政についての選挙権をどこで行使するかについて、日本の制度は硬直的に過ぎるのであって、ある程度、自由な選択を認めるべきでないか。

選挙権を現在、住んでいる場所で行使しなければならない理由はないのではないか。私も学生時代から役所を辞めるまで東京に住んでいたが、帰属意識はずっと滋賀県だった。東京の地方自治になんの関心もなかったし、国政選挙でも会ったことのない人がほとんどだから、とくに支持するもしないもなかった。

正直言えば、選挙で投票する率はそんなに高くはなかったし、もし、滋賀県の選挙で投票させてくれるならしたかった。

地方選挙にはまだ住所でというのも理屈があるが、国政選挙では、自由に選挙区を決められてもいいと思う。それは行き過ぎだというなら、たとえば、本籍地、過去に何年以上か住んでいたところなど要件を決めて、そのなかでは自由に選べるようにできないか。もちろん、頻繁過ぎる変更は規制してもいい。

海外では郵便投票も出来るし、わりに選択は自由だ。選挙は電子投票を導入すれば、全国どこの投票所からでもできるようにすればいい。

電子投票でないなら、たとえば、投票日の五日前までに期日前投票するなら全国どこでも良いようにすればいいのだ。もしマイナンバーカード制度を徹底すれば、バリエーションはいろいろ考えられる。

そして、その結果、大都市でなく地方で投票する人が相当、増えるだろう。また、伝統的な都市中心部が増え、郊外ニュータウンは減るだろう。

採決に加われない議員というのもあってよい

④参議院は半分ずつ改選だから小さい県は六年に一度でもいいのではないか。アメリカ上院議員は、各州二人が選出され、任期は六年である。選挙は二年ごとにあるが、たとえば、今年の中間選挙では三分の一の州で上院議員選挙は行われない。

 日本の参議院選挙の場合なら、鳥取、島根、徳島、高知については、六年に一度だけ地方選挙区の投票が行われると云うことでも差し支えなかったのである。

 あるいは、別の方法として、採決での投票権がないオブザーバー議員をみとめてはどうか。アメリカ連邦議会では、プエルトリコやグアムは議員を送っていて討議にも加わっているが、採決には加われない。

⑤議決権行使は一人一票である必要があるのか

 議場での電子投票が進展すれば、一人一票でなく。人口、有権者数、投票数などで小数点のついた票を投票できるようにしたらどうか。さしあたっては、0.5票という制度をつくってもよい。

本日は、国政選挙についてだけ論じたが、地方選挙でも同じ考え方で選挙をすることは可能のはずだ。

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