メクル第605号 収穫量、全国4位 知っておいしい県産イチゴ いつか長崎から新品種!

県内で最も多く栽培されている「ゆめのか」(県農林技術開発センター提供)

 子どもから大人まで人気の「イチゴ」。スーパーに行くといろいろな名前や大きさのイチゴが並(なら)んでいるけど味の違(ちが)いは? 表面のつぶつぶは何? と意外に知らないことだらけ。
 イチゴに関するアレコレを知ったら、もっとおいしく、もっと楽しく食べられるかも。

 まずは取材依頼(いらい)のため県農産園芸課果樹班(かじゅはん)に電話。イチゴについて取材したいと伝えると「イチゴですか、では野菜班におつなぎします」。イチゴが「野菜」だったとは驚(おどろ)きです。
 後日、取材に行くと同課野菜班の相良(さがら)知実(ともみ)さんがイチゴの写真を指さしながら「イチゴの実ってどの部分か分かりますか」と聞いてきました。「実って、この赤いところで、つぶつぶは種(たね)ですよね」と答えると「皆(みな)さん、そう思ってますよね。でも正しくはつぶつぶが実で、この中に種が入っているんです」とのこと。ん⁇じゃあ、私(わたし)たちが食べているのは何なの?

「イチゴの状態は毎日チェックします」と話す前田さん=諫早市貝津町、農林技術開発センター

 相良さんによると、つぶつぶの名前は「痩果(そうか)」。果肉がなく種だけの痩(や)せた実という意味らしい。そして私たちが「実」だと思っていた赤い部分は、花の中央にある黄緑色の「花托(かたく)」という茎(くき)が厚(あつ)くなったものなんだって。咲(さ)いている花をよく見ると、花托は小さいイチゴの形をしていて、たくさんの小さいめしべや周りのおしべの座布団(ざぶとん)みたい。そしてめしべに花粉(かふん)が付くと花托が大きくふくらんで赤く色づき、私たちが大好きな甘(あま)いイチゴになるのだそう。
 サクランボやモモはめしべの根元がふくらんだ実を食べるのにイチゴは違うんだね。「では花托を見るとイチゴの形が分かりますね」と言うと、「それはミツバチ次第です」との返事。ミツバチとイチゴの形ってどんな関係があるんだろう。
 イチゴ栽培(さいばい)を研究する県農林技術(ぎじゅつ)開発センター(諫早(いさはや)市貝津(かいづ)町)専門(せんもん)研究員の前田衡(まえだひとし)さんにお話を聞きました。
 ミツバチはイチゴ栽培に欠かせません。受粉は人の手では難(むずか)しく、手間がかかり過(す)ぎるからです。イチゴがきれいな形に育つのは、ミツバチが何度も花から花へと飛び回って花托表面のめしべ全部にムラなく花粉を付けてくれるおかげです。

花の断面、イチゴの断面

 また、イチゴは環境(かんきょう)の変化にとても敏感(びんかん)で品種ごとに栽培方法も違(ちが)います。ハウス内の環境はセンサーで管理していて、天候によって日照時間も変わるので葉の色、茎(くき)の伸(の)び方を見て、水や肥料(ひりょう)の量・回数も小まめに微調整(びちょうせい)しながら研究を積み重ねています。
 栽培用のイチゴは江戸(えど)時代末期にオランダ人が伝えたもので、その後、農学者の福羽逸人(ふくばはやと)(1856~1921年)によって誕生(たんじょう)した「福羽(ふくば)」が現在(げんざい)の「とちおとめ」や「あまおう」のルーツだとされています。
 長崎市の東長崎周辺で始まったとされる県内のイチゴ栽培は、温暖(おんだん)な気候と日当たりの良さを生かして栽培方法の向上や品種転換(てんかん)によって順調に収穫量(しゅうかくりょう)を伸(の)ばし、島原、雲仙(うんぜん)エリアを中心に県内全域(ぜんいき)で栽培されています。昨年、県のイチゴ収穫量は栃木(とちぎ)、福岡(ふくおか)、熊本(くまもと)に次いで全国第4位。現在(げんざい)、県内で栽培されている主な品種は愛知県生まれの「ゆめのか」と農研機構(きこう)九州沖縄(おきなわ)農業研究センター(福岡県久留米(くるめ)市)で作られた「恋(こい)みのり」です。

ゆめのか、恋みのり

 食べておいしいのはもちろんですが、農家の方が作りやすいこと、お取り寄(よ)せや海外への輸出(ゆしゅつ)に耐(た)えられる傷(いた)みにくさも兼(か)ね備(そな)えているイチゴ作りを目指しています。一つの品種ができるまでには10年程度(ていど)かかりますが、いつか長崎県から新品種を誕生(たんじょう)させたいです。

◎イチゴ知っ得クイズ

Q. イチゴが一番おいしいのはいつ?
A. 冬。イチゴは開花から収穫(しゅうかく)までの日数が長ければ長いほど甘(あま)くなるので、寒くて成長に時間がかかる今の時季が食べ頃(ごろ)♪
Q. 買ってきたイチゴはどこで保存(ほぞん)?
A. 重ならないようにポリ袋(ぶくろ)などに入れて冷蔵庫(れいぞうこ)で保存(ほぞん)。水気があると傷(いた)むので洗(あら)うのは食べる直前に!ジャムにする場合は冷凍(れいとう)すると、なめらかに仕上がる。
Q. イチゴと温州(うんしゅう)ミカン。同じ重さだとビタミンCが多いのは?
A. イチゴ。イチゴ100グラムに含(ふく)まれるビタミンCは62ミリグラムと意外にも温州(うんしゅう)ミカンより多い。カロリーも31キロカロリーとヘルシー(日本食品標準(ひょうじゅん)成分表2020年版(ばん)より)。食物繊維(せんい)や妊娠(にんしん)・授乳(じゅにゅう)中の女性(じょせい)に必要とされる葉酸(ようさん)も豊富(ほうふ)なので食後のデザートに。

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