全打席が1死満塁“新庄流”の紅白戦 監督の意図を最も理解したドラ3新人の可能性

紅白戦の打席に立つ日本ハム・水野達稀【写真:羽鳥慶太】

紅白戦なのに「全打席が1死満塁」の理由とは?

沖縄県名護市で行われている日本ハムの1軍キャンプで6日、初の紅白戦が行われた。ただ、新庄剛志監督がプロデュースする「試合」が、一筋縄でいくわけがない。全員が1死満塁から始める設定にはもちろん意味があり、そこで新人の水野達稀内野手(JR四国)が見せたのは指揮官の“後継者”となり得る素質だった。

紅白戦と銘打っているものの、中身には新庄流のエッセンスが存分にまぶされていた。実際に行われたのは、常に1死満塁の状況でプレーさせるシート打撃だ。特殊な形態をとった理由を、指揮官は明快に説明してみせた。

「(打者は)一番力む場面。ここで打てば自信になるでしょ。守備も一番緊張する場面で、全部が練習になる。現役時代からやったほうがいいと思っていた」

1死満塁は様々な展開が考えられる。併殺打を打てば一瞬で攻撃は終わる。自身はアウトになっても得点を奪わなくてはいけない場面もある。もちろん、ビッグイニングに繋がることも。これだけ考えることが多い打席で結果を出せる選手が増えてくれば、試合の流れは放っておいても日本ハムに向いてくる。

「これで(結果を出せば)ノーアウトとか、走者一塁とかどんだけリラックスできるか。そこでどうすればいいのか、各自練習してほしい。犠飛を打つとか。打てなければ悔しいよね。そこでさらに練習してもらう」。チャンスに強く、勝利に貢献できる選手を作るうえで最適な練習だと考えているのだ。

紅白戦を見つめる日本ハム・新庄剛志監督【写真:羽鳥慶太】

満塁が好物だった新庄監督…ルーキー水野に見えた“後継者”の素質

そんな指揮官の思いを知っていたかのような打撃を見せたのが、ドラ3ルーキーの水野だった。プロで初めて迎えた実戦の打席で初球を左翼にはじき返し、2人の走者が生還した。

「投手が変わるタイミングだったじゃないですか。投球練習からストレートが来るタイミングで準備していました」と社会人出身らしい周到な準備が光る。さらに「ランナーがいるほうが好きですね。モチベーションが上がるので。打点にこだわってやっていきたい」と緊張もどこ吹く風だ。現役時代の新庄監督のような“お祭り男”の資質も十分と見た。

この特殊な紅白戦の中身が、水野たち野手に伝えられたのは開始直前。そこで瞬時に意図を理解し「何としても1点が欲しいところ。最悪外野フライを打つイメージです。久々の実戦でストレートに振り負けなかった。収穫のある打席でした」と言ってのける。

初の紅白戦を終えた指揮官は、個々の選手への評価を「そこは見ていないかな」と避けた。ただ自らの意思を予め知っていたかのような水野の動きは、印象に残ったはずだ。新人が結果を残せば、強化に欠かせない競争の種がまた一つ増える。

「打ったらどんだけ嬉しいか。投手も抑えたらよっしゃとなる。1死満塁は俺、大好物だったので。これからも(練習は)続けます」と新庄監督。水野は、指揮官の後を継ぐ“満塁男”になれるのか。一から、いやゼロから始まったポジション争いの行方がさらに熱くなる。

○水野達稀(みずの・たつき)2000年7月30日、香川県丸亀市出身の21歳。丸亀城西高では3年夏にチームを13年ぶりの甲子園へ導く。卒業後はJR四国に入社し、2019年の都市対抗野球では2000年以降の生まれで初となる本塁打を放った。昨秋のドラフトで日本ハムの3位指名を受け入団。身長171センチ、体重75キロ。右投げ左打ち。背番号43。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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