<県政の現場から 2022知事選> IR誘致 住民、生活環境悪化を懸念 渋滞や治安 問われる

IRの誘致が計画されているハウステンボス(中央奥)。近隣住民からは生活環境の悪化を懸念する声も上がっている=佐世保市

 長崎県は、地域経済の起爆剤になるとして、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を佐世保市のハウステンボス(HTB)に誘致する計画を進めている。ただ、反対する県民はギャンブル依存症を不安視。近隣住民の間にも、来訪者の急増に伴う交通渋滞や治安悪化など生活環境の乱れを危惧する声が根強くある。こうした課題に次期知事がどう対応するかが注目される。
 昨年9月。現職知事の中村法道氏(71)は朝長則男市長(72)と共に、HTBに隣接する江上地区のコミュニティーセンターを訪れた。住民代表らと向き合った知事は、IR整備に合わせ「世界一安全安心なまちづくりを目指したい」と述べた。
 その1年前の2020年3月。江上地区自治協議会(浦憲治会長)は県に対し、IR誘致で「住民の福祉が後退しないか」「説明が不十分」と文書で申し入れていた。
 これに県は「万全の対策を講じる」と回答。同年11月には、江上地区を含む市東部7地区自治協議会や医療機関、警察などでつくる「安全安心ネットワーク協議会準備会」を設置し、依存症や治安維持、青少年健全育成など対策の検討を始めた。しかし、HTBに最も近い江上地区では住民の不安感が強いため、知事が自ら現地に入り理解を求めることになった。
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 同地区で特に懸念されている問題が交通渋滞だ。県はIRの年間来訪者を延べ約840万人と想定し、周辺道路の新設や拡幅などで渋滞は抑制できるとみる。
 ただ、同地区によると、HTBで昨秋開催された花火大会では、見物客が殺到して大規模な渋滞が発生し、生活道路にも影響が及んだ。さらに、IRの事業予定者は今年1月の地元説明会で「来訪者の7~8割程度は国内から」「交通手段は車が半数程度」との試算を提示した。人流増加による犯罪の多発を含め、住民の不安感は膨らんでいる。
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 IRに対する懸念は反発や抵抗感にもつながり、全国の候補地で吹き出している。和歌山市の市民団体は、誘致の賛否を問う住民投票条例制定を直接請求。ただ、その関連議案は同市議会で否決された。最有力候補地とされる大阪市でも、自民党市議団が同趣旨の条例案を出す動きがある。本県の市民団体「ストップ・カジノ!長崎県民ネットワーク」などは依存症対策や経済効果を疑問視し、反対運動を続けている。
 江上地区の浦会長はこのような現状も意識しながら「現時点で近隣住民はIR誘致に同意していない。納得いく説明と具体的な対策が県から示されなければ、住民が反対に回る可能性はある」とくぎを刺す。
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 国は、IR誘致を目指す自治体が作成した整備計画を4月28日まで受け付け、最大3カ所を認定する。
 知事選では、4選を目指す中村候補と、医師で新人の大石賢吾候補(39)が誘致推進を掲げており、地元住民の不安を拭い去れるかどうかが問われる。会社社長で新人の宮沢由彦候補(54)は「見直す」と主張し、誘致の是非を判断する。


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