【スクープ】問われる「中立公正」県議会自民党から千葉日報社へ政務活動費が毎年4000万円超 新聞社が広報業務

◆報道の「中立公正」に影響はなかったか?

千葉県の地方紙「千葉日報」を発行する千葉日報社が、千葉県議会の最大会派「自由民主党千葉県議会議員会」(県議会自民党)および自民党県議の計30人から政務活動費を原資とする広報業務を請け負っていたことが、フロントラインプレスの取材でわかった。広報業務の内容は、議会リポートの作成・発行とホームページ更新で、その金額は2020年度だけで計約4700万円に上っている。同社は2021年度も県議会自民党と所属の県議から継続して広報業務を受託しているとみられる。

会派・政党や議員は取材・報道の対象であり、報道機関側には厳正な公平性が求められる。千葉県議会最大会派の自民党と各議員との資金・業務面のつながりが明るみに出たことで、千葉日報社は自ら掲げる「公正中立で地域密着の報道姿勢」を問われそうだ。

◆千葉日報は千葉県の地方紙 日刊で14万5000部

千葉日報社(資本金3億6千万円、従業員約130人)は日本新聞協会に加盟し、千葉日報の発行部数は2019年1月時点で公称約14万5000部。1957年1月の創刊で、現在は県内全域に13支局を配置。千葉日報の理念として「創刊以来、一貫して公正中立で地域密着の報道姿勢を続けて県民の皆さんの知る権利にこたえながら、地域社会とともに歩んでいます」(同社HP)とうたっている。

千葉日報社の本社

◆資金の源は公金の「政務活動費」

県議会自民党は千葉県議会(定数94)で51議席を占める最大会派で、正副議長や8つの常任委員会委員長のポストを独占している。

千葉日報社に支払われた広報費の原資は政務活動費だった。地方議会議員の活動を支えるために交付される公金で、細目には広報費のほか、調査研究費、会議費、資料購入・作成費、事務所費、人件費などがある。

千葉県議会の場合、政務活動費は千葉県自民党や立憲民主・千葉民主の会、公明党千葉県議会議員団といった会派向けに、所属の議員数に応じた金額(1人につき年額60万円)が交付される。それとは別に、それぞれの議員にも1人につき月額35万円、年間420万円が交付される。

◆会派からは毎年1500万円余り、議員個人からは計2500万〜3000万円

フロントラインプレスが閲覧可能な2017〜2020年度の関係公文書を確認したところ、県議会自民党は毎年、約3000万円の政務活動費を受け取っていた。一方、「広報費」として千葉日報社に支出されたのは、直近の2020年度が1730万円だった。過去に遡ると、19年度は約1500万円、18年度は約1530万円、2017年度は約1510万円。どの年度も広報費の全額が千葉日報社に支払われている。

これとは別に、自民党県議個人の政務活動費から千葉日報社に支払われた広報費は、2020年度が計約3000万円。19年度から17年度の3年間も毎年2500万円余りの広報費が支払われていた。

会派分と個人分を合計すると、自民党側から千葉日報社に支払われた広報費は、2020年度が約4730万円で、その他の3年間も毎年4000万円ほどになる。

◆新聞社の仕事は「議会リポート」作成やHPの更新など

広報費として政党・議員から新聞社に渡った資金は何に使われていたのか。

2020年度分を政務活動出納簿などで調べると、県議会自民党の広報費約1730万円の内訳は、自民党県議による議会リポートの制作・発行補助費として1550万円、県議会自民党のホームページ「ちば自民党」の更新費として年間約180万円だった。また、自民党県議の計30人から千葉日報社社に支払われた約3000万円については、大半が議会リポートの作成・印刷費だった。数人の議員は自らのHP更新業務も請け負わせていた。

会派と議員個人が千葉日報社に発注した広報業務の一端は、「ちば自民党」のHPで確認できる。「県議会リポート」のコーナーには、自民党県議のほぼ全員が発行する新聞スタイルの議会リポートが毎月アップされている。「ちば議員会のお知らせ」のコーナーでは、定例会ごとに会派議員の代表質問や一般質問がほぼ毎月、要点をまとめた形で更新されている。

自民党千葉県議の議会リポート。「ちば自民党」のHPで公開されている

◆県議会自民党「法令上、禁止されていない」

この問題について、県議会自民党はフロントラインプレスの取材に対し、次のように答えた。

・千葉日報社に発注した経緯について
「千葉日報社の営業もありましたし、同社が『県紙』として千葉県の事情に詳しいということからです」
・報道機関である千葉日報に発注したことについて
「法令上、禁止されることではないと認識しております」

◆千葉日報社「報道の中立性とは関係ない」

千葉日報社に対しては主に次の質問をした。

① 県議会自民党や県議との受発注の関係はいつからか
② 自民党会派と県議からの毎年の請負金額はいくらか
③ 県議会自民党からの受注は「公正中立」という報道姿勢に照らして問題ないか

千葉日報社社総務局総務部からの回答は次のような内容だった。

「弊社は県議会自民党から、県議会で質問に立った議員の発言要旨などをまとめた『県議会リポート』の制作・印刷を受注して対価を得ています。ご指摘の請負金額は、報道部門とは別の部門で請け負っているものであり、報道姿勢の中立性とは関係がなく、回答は控えさせていただきます」
「弊社が県議会自民党から受注している業務は、あくまで『印刷物』の制作・印刷であり、他の印刷物と変わりない対応となっています。製作は弊社の営業部門が受注し、外部ライターに委託しています」

◆専門家「報道機関の意義が根底から疑われる」

メディア法やメディア倫理に詳しい青山学院大法学部の大石泰彦教授は取材に対し、次のように答えた。

「千葉日報は存在意義が根底から疑われている事案だと自覚すべきだ。県議会の最大勢力から公費で多額の広報業務を請け負ったことについて、ジャーナリズムの看板を下ろして『権力の広報です』と自己規定するしかない。『報道部門は関わっていない』という回答は言い訳にもなっていない。『公正中立』をうたい文句に千葉県民を欺いている」

県議会自民党から千葉日報社への広報費363万円の振込受付書の写し

(フロントラインプレス・本間誠也)

■千葉県議会・自民党と千葉日報社をめぐる問題では続報を予定しています。

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