夢も悩みもバンに乗せて、いざロック大会へ
バンドってどんな存在ですか? とインタビューや知人から聞かれたことが何度かある。そのたびに気の利いたことを言いたいと思いながら、抱えた頭がどんどん地面に向かっていくだけで、うまいこと答えられた試しがない。これはバンドだけでなく家族や友人、仕事仲間なども当たり前のようであって、意外と言葉にはできないものだ。
いつだったか、誰かが“バンドというものは「植物園」だ”と言っていて、えらい素敵に形容するじゃないのと思ったことがある。同じ土壌に根を張っているところまでは共通しているけど、吸い上げる養分が違えば咲かせる花も違う。でも花がたくさん咲くことによって一つの景色になる……というような意味だそうだ。
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ノルウェー出身のクリスティアン・ロー監督による映画『ロスバンド』にも、それぞれに悩みを抱えながら花を咲かせようとする、4人のティーンエイジャーが登場する。
両親の不仲から家庭内で居心地の悪さを感じているドラムのグリム、ギターはむちゃくちゃ上手いのに音痴なアクセル、親からの愛情が足りないチェロのティルダ、親が決めたレールに乗ることに疑問を感じているマッティン。
『ロスバンド』は、そんな彼/彼女たちが一蓮托生、北の果ての町トロムソで行われるバンドコンテストに向けて、およそ1300kmの旅に出る青春音楽ロードムービーだ。
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余白を想像できる丁寧な描写
家庭内不和や進路など、若者が抱える悩みの設定としてはベタだと思う人もいるだろう。けれど誰もが経験することだからこそ、幅広い層の共感を得ることができる。他人から見たら大した悩みには見えないだろうけれど、問題の大小は関係ないんだよなって思う。
本作でも個々の問題はひとまず置いておいて、むりやり実行された逃避とも言える旅が、音楽(演奏)や友人とのコミュニケーションを通して、それぞれの抱えている問題と改めて向き合うきっかけとして作用している。実際、自分が置かれている環境から少し足を伸ばすことで、問題の本質が見えてくることってあるものだ。
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旅の道中で起こるトラブルや必然のような偶然が折り重なって、彼らも自分や相手の弱さなど様々な感情を受け入れていく。それは4人だけのことではなく、具体的な描写はないものの、 彼らの家族を含む周りの人々もまた、彼らが不在の中で自身の行動や言動を反芻することによって、結果的に関係が改善されていく。そういった“余白”を想像できるさりげない描写に、作り手たちの丁寧さを感じた。
本作が世代に関係なく楽しめる最大の魅力は、そんなところにある。大なり小なり誰もが抱えていたであろう様々な悩みをテーマに、共感を呼ぶだけでなく問題と向き合うきっかけにもなってくれそうな青春映画だ。
文:巽啓伍(never young beach)
『ロスバンド』は2022年2月11日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開