温暖化の影響で磯焼けが深刻 痩せたウニを活用し陸上養殖 宮城・石巻市の取り組み

特集は、宮城の海の異変についてです。近年、温暖化の影響で、海藻が減少する磯焼けが進み、餌を食べられずに、痩せたウニが増えています。こうした中、石巻市内で、痩せたウニを活用した陸上養殖の取り組みが始まっています。その現場を取材しました。

1月25日。この日、漁協職員と地元のダイバーらが船で向かった先は。猫がのどかに暮らす、石巻市の離島・田代島。島の近海にダイバーが潜ります。すると、黒っぽいとげが特徴の「キタムラサキウニ」があたり一面に。網を持ったダイバー3人がわずか1時間で1000個ほどを水揚げしました。

県漁協石巻地区支所小野寺賢支所長「1平米当たり1個か2個の割合が正常の海なんですが、もうウニだらけですよね」
「本当はこの茶色い所が真っ黄色で、身としてふっくらするんですが、全くない状態ですね」

「磯焼け」の海域で痩せたウニが放置

宮城・田代島近海

この海域では、岩場に生える海藻が減少する「磯焼け」が進んでいて、餌を食べられず、痩せてしまったウニが放置されているのです。磯焼けは、温暖化でウニが活発になり餌を食べる量が増えたこととや海藻の成長が遅れたことなどさまざま原因があるとされています。近年、県の北部を中心に深刻化しています。海藻が比較的生えている場所と比べるとその違いは一目瞭然です。

市場に出荷されるウニは、黄色い身の部分が全体の重さに対して12%以上あるのが目安です。痩せたウニは出荷できませんが、海藻を守るため定期的な駆除が必要で、地元の漁師たちは頭を悩ませています。

地元の漁師「もうその辺の浜は全部真っ白くなっている。海藻が全部無くなっているから。良い餌とか海藻が無くなれば小魚も寄ってこなくなるので、何とかしてこの磯焼けを止める方法を考えていかないといけない」

こうした駆除した痩せたウニを有効に活用しようと、石巻市は2021年度から宮城大学などと協力して、陸上で養殖し販売できるウニに育てるための取り組みを始めました。

宮城大学食産業学群・片山亜優助教「これから2カ月間、蓄養しようと思っているんですけど、5つに水槽を分けてそれぞれに違う餌を与えて、どれが一番身入りが早く良くなるかという実験をしようと思ってます」

痩せたウニに餌を与え「育てる」

痩せたウニに餌を与え育てる

痩せたウニに与えるのは、ワカメやキャベツ、カボチャなど5種類です。いずれも田代島で手軽に調達できる食材です。陸上養殖は、ウニの餌だけではなく、海と同じような水質や水温をどう保つかもポイントです。

宮城大学食産業学群片山亜優助教「毎日かなりのエサの量を食べるので、そこに、こんな形でふんがどんどんたまっていってしまうので、これの除去がウニの蓄養には一番大変な作業になります」

ウニが育ちやすく海に近い環境を作るには、ふんや餌の食べ残しを取り除くほか、ヒーターで水温を16度前後に保たなければなりません。12月にかかった人件費や暖房などの電気代は30万円近く。水槽で育てる痩せたウニが大きく成長し、すべて出荷できても売り上げは15万円ほどです。コストに見合った売り上げを見込むには、養殖されるウニの価値を高めていくことが課題です。

宮城大学食産業学群・片山亜優助教「養殖のウニというのが日本でまだ市場が確立されていないので、養殖だからといって価格が落ちないようなものをきちんと出荷して市場の価値を維持し続けたい」

電気代は太陽光発電で賄うことで、コストの削減ができないか調査しています。

石巻市産業部河野大輔次長「陸上養殖は、水温調整にかかるエネルギーコストが高いのが課題となっています。そのエネルギーコストを太陽光などの再生可能エネルギーで賄うことができれば事業化に近づくのではないか」

ウニの品質は着実に向上しています。こちらはワカメを与えて育てたウニです。中身を見せてもらうと。ほとんどなかった黄色い身の部分がしっかり増えていました。これなら販売できる水準です。

痩せたウニが販売できる水準に育つ

宮城大学食産業学群・片山亜優助教「これだけの黄色の色をしていれば、かなり質としては良いと思います」

1月28日に石巻市で開かれた試食会では、漁業関係者から「おいしい」「これなら十分市場で取り扱える」とお墨付きをもらいました。石巻市は、3月に報告される成果を踏まえて、2021年度中に陸上養殖のマニュアルを作成し、水産関係者に活用してもらいたい考えです。

石巻市産業部河野大輔次長「海で漁獲される魚、養殖される魚だけではなくて、陸上養殖というのも主流な柱としてもらって、漁業者も経営を安定化してもらって、担い手(の確保)も含めて、水産業を活性化してくれればと思っています」

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