試合直前まで選手にもスタメン秘密… 新庄監督が見せた“スイッチの入れ方”とは?

ウイニングボールを受け取った日本ハム・新庄剛志監督【写真:荒川祐史】

場内アナウンスでやっとスタメンを知った選手たち

日本ハムは8日、阪神と今季初の対外試合を戦い、6-2で勝利した。11安打6得点と、得点力不足が懸念されている打線が機能しての快勝だ。この流れを作ったのは、新庄剛志監督の試合直前まで選手にもスタメンを伝えないという驚きの采配だ。“ビッグボス流”は選手の何を変え、スイッチを入れさせたのだろうか。

【表】内野手の野村が左翼、外野手の五十幡が遊撃… 試合直前まで選手にも秘密にされていたスタメン

新庄監督は7日の練習後、阪神戦のスタメンについて「(抽選で回す)ガラガラで決めようかな」とうそぶいた。実際にスコアボードに並んだメンバーは、スラッガーの野村が2番。快足の五十幡、細川が4、5番に続いた。さらにポジションも、三塁が本職の野村が左翼、遊撃の細川が中堅。反対に外野手登録の五十幡が遊撃、万波が三塁を守った。「ガラガラは故障していて、球が出てこないのよ……」と冗談を飛ばしながらも、メンバーの選出にはハッキリとした意図があったと明かす。

「きょうのスタメンは、毎日夜間練習をしている選手を選んでこの結果」

まずは、上手くなりたいという欲がにじみ出ているメンバーで戦いに打って出た。そして選手には、試合直前までスタメンを伝えなかった。シートノックに入る位置こそ指示されていたものの、自分がどこを守り、何番で試合に出るかを知ったのはスタンドのファンと同じ、場内アナウンスのタイミング。自分の名前が呼ばれた選手の「えっ?」というリアクションを、ビッグボスは笑いをかみ殺しながら見つめていた。ただ、このサプライズは選手を驚かせることだけが狙いではない。

「常に緊張感を持って、『よっしゃ行くぞ』と思ってほしい」。低迷が続くチームの空気を変えるための一大作戦だった。

「2番・左翼」で出場した日本ハム・野村佑希【写真:荒川祐史】

チームの変化に指揮官は納得「俺、いらないんじゃない?」

結果は最高の形で出た。初回先頭から杉谷、野村が連打。万波は四球を選び無死満塁の好機を作った。2死から王柏融が押し出しの四球を選び先制。さらに今川は左翼へ2点適時打と畳みかけた。守備でも「高2の春に数試合やったくらい」という左翼を守った野村が、後方への大きなフライを好捕する場面があった。経験のないポジションでの出場を、試合直前に知る。不安が大きいのではないかと思うが、新庄監督に集まった感想は、対極にあるものだった。

「選手に『めちゃくちゃ楽しかった』と言われたの。プロ野球選手はやっぱり、いいプレーをしようと思うんだよ。どこで出てもね」

野村も「ポジションもレギュラーも決まっていないということだと思う。昨年とかは関係ない。出るチャンスを増やすのも自分次第だと思います」と口にした。プロの打球はクセも強烈。左翼を「ドキドキしながら守っていました」と振り返る。

また、遊撃を守った五十幡も「もちろん経験はありませんが、任された以上はショートストップになりきって、必死に食らいついていこうと思っていました。エラーがなく、ひとつゴロをさばくことができてよかったです。野球をもっと知り、野球観を広げていきたいです」と前向きだ。

常識ではあり得ない新庄流の采配は、選手に周到な準備を求め、視野を広げる効果があった。指揮官は試合後「俺、いらないんじゃない? この気持ちがあれば、誰が(監督に)なってもいい。それくらい変わってきている」と笑い飛ばした。もう何年も、ファイターズを覆っていた淀んだ空気を打ち破った新庄采配。躍動した若い選手と、新たな歴史を作っていく覚悟に見えた。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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